姉に人生を奪われてから第3話
この話は約1360字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
あの出来事のあと、清乃は、私があの男に襲われかけたことをあちこちで言いふらした。
そして私にこう言ったのだ。
「清音、あの男が誰に仕組まれたか、分かる?」
その瞬間、初めて知った。
――私を陥れたのは、彼女自身だったのだ。
思い出しただけで拳が震える。
口を開こうとしたとき、司が先に口を開いた。
「そうか?」
彼は清乃を見据えた。
清乃は得意げに笑う。
「そうよ。小林清音(こばやし きよね)は昔、おじさんに弄ばれたの――」
言い終える前に、司の足が彼女を蹴り飛ばした。
その瞬間、会場の視線が一斉に集まった。
千颯の顔はひどく引きつっている。
「源藤社長、どうかお怒りを鎮めてください。妹をちゃんと躾けられなかった俺の責任です」
「これからもし、彼女がまた俺の婚約者を貶めるようなことを聞いたら、あの女が凌水市(りょうすいし)に居続けられないようにしてやる」
「あ、違うな。瀬名家も含めて、君たちと彼女――全部俺の手で凌水から叩き出してやるべきだ」
「君の妹はちゃんと躾けておくべきだ」
司の声は氷のように冷たかった。
千颯は慌てて頭を下げる。
「おっしゃる通りです。今すぐ躾けします」
パン、パン、パン――
千颯は清乃の頬を左右に打ち据えた。
「やめて、痛いっ……!」
ホールには清乃の悲鳴が響き渡る。
司の母も口を開いた。
「この子は私の決めたお嫁さんよ。小林清音をいじめる者がいたら、十倍にして返すから覚えておきなさい!」
「気が晴れたか?」
司が私を抱き寄せ、優しく囁いた。
「……最高の気分です!」
胸の奥までスッとした。
清乃の騒ぎのおかげで、私と司の距離は一気に縮まった。
そして、私が源藤家の嫁だと、誰もが認め、敬意を払うようになった。
一方、清乃は千颯に顔を怒りに染められたまま連れ出された。
前世では千颯が本性を見せるのはもっと後だった。
だが、今日の件で彼は面目を潰され、早くも本性を露わにしたのだ。
――清乃の悪夢はこれから始まる。
彼女が耐えられるだろうか?
それからしばらくの間、清乃は私に近づかなかった。
その間に私はお金を稼ぎ、この街を出る準備を進めていた。
転生した今の私は、ひとつの真理を知っている。
――自分の力こそが王道だ。
仕事を探していたある日、司からメッセージが届いた。
【うちの会社で手伝わないか?月給は百万円、年末にボーナスもある】
いい話じゃないか。ちょうど高給の仕事を探していた私は、喜んで受けることにした。
だが、向かう途中で誰かに突然口を塞がれ、そのまま意識を失ってしまった。
目を覚ますと、そこは公衆トイレの中。
床は水で濡れ、悪臭が立ち込めている。
目の前にいたのは、以前私を襲おうとしたあの男だった。
黄ばんだ歯をむき出しに、いやらしい笑みを浮かべる。
「今度こそお前をモノにしてやる。そうなれば源藤家の嫁になんてなれやしない」
「ああ、そうだ。もう源藤家の人間に知らせてあるんだ」
私は笑った。
「前回の花瓶じゃ、まだ懲りてないみたいね」
「なに?」
私は床から起き上がり、ポケットから刃物を取り出した。
「一度転んだ道を、二度も転ぶと思ってる?」
そう言って、自分の腕を深く切った。
血が一気に流れ出し、私はその血を体中に塗りつけた。
そのとき、ドアが開いた。
「源藤社長、妹を叩かないでください。彼女はただ寂しくて男を――」
清乃は、血まみれの私を見て、言葉を失った。
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