妻を男と間違えた夫。正体を明かして離婚する第1話
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コスプレイヤーである清水明里(しみず あかり)は、松田穂花(まつだ ほのか)から、ある男性キャラクターのコスプレ依頼を受けていた。撮影のため、レストランで穂花の肩に腕を回してポーズを取っていたのだが、突然、頭からワインをかけられたのだった。
「その汚い手をどけろ!」
明里は言い返そうと思い顔を上げた。しかし、そこにあった怒りに満ちた鋭い眼光を見た瞬間、言葉を詰まらせる。
そこには、半年前から冷戦状態にある夫、清水正人(しみず まさと)の姿があったのだ。
そして今日は、二人の結婚5周年記念日。
半年もの間、明里はずっと正人から歩み寄ってくれるのを待っていたのに。
目の前にいる怒りで我を忘れている正人を見て、明里は思った。もしかして、冷戦状態に嫌気がさしたから、こんな荒療治で自分の気を引こうとしているのか?
明里は軽く鼻で笑うと、胸元に忍ばせてあるボイスチェンジャーを使用し、低い男性の声で揶揄うように言った。
「今日ここにわざわざ来たのは、ちゃんと話したかったから?」
しかし、明里が言い終える前に、正人は穂花を抱き寄せると、ナイフのように鋭い視線を明里に向けた。
「お前のことは半年前から知っているんだからな!お前みたいにアニメの格好で女に取り入るようなやつが、こんな純粋な穂花に近づくなんて。そんなこと俺が許さない」
どうやら、正人は目の前の相手が自分の妻だとは気づいていないらしい。
この男はただ、明里のことを「大切な人」に付きまとう、何処の馬の骨とも分からない男だと勘違いしてるのだ。
* * *
コスプレイヤーである清水明里(しみず あかり)は、松田穂花(まつだ ほのか)から、ある男性キャラクターのコスプレ依頼を受けていた。撮影のため、レストランで穂花の肩に腕を回してポーズを取っていたのだが、突然、頭からワインをかけられたのだった。
「その汚い手をどけろ!」
明里は言い返そうと思い顔を上げた。しかし、そこにあった怒りに満ちた鋭い眼光を見た瞬間、言葉を詰まらせる。
そこには、半年前から冷戦状態にある夫、清水正人(しみず まさと)の姿があったのだ。
だが今日は、二人の結婚5周年記念日だった。明里は半年もの間、ずっと正人のほうから歩み寄ってくれるのを待っていたのに。
目の前にいる怒りで我を忘れている正人を見て、明里の胸は少しざわついた。
もしかして、冷戦状態に嫌気がさしたから、こんな荒療治で自分の気を引こうとしているのか?
そう思った途端、明里は腹が立つどころか、何だか笑えてきた。ボイスチェンジャーを通して低くなった声には、少しの余裕さえ滲む。
「今日ここにわざわざ来たのは、ちゃんと話したかったから?」
しかし、明里が言い終える前に、正人は穂花を抱き寄せると、ナイフのように鋭い視線を明里に向けた。
「お前のことは半年前から知っているんだからな!ただ仕事で穂花と一緒にいると思っていたが、今のを見るに、お前は越えてはならない一線を越えてしまったようだ。
お前みたいにアニメの格好で女に取り入るようなやつが、こんな純粋な穂花に近づくなんて。そんなこと俺が許さない」
「半年」、「純粋」、「許さない」……
一つひとつの言葉が、ナイフのように鋭く明里の胸に突き刺さる。
口元の笑みは凍りつき、胸の奥から押し寄せる鈍い痛みに、呼吸すらできなくなった。
なるほど……
どうやら、正人は目の前の相手が自分の妻だとは気づいていないらしい。
しかも、穂花を困らせるストーカーだとでも思っているようだ。
……
明里は昔ながらな考えの二宮家で、9人の兄たちに囲まれて育ったためか、意地でもへこたれない、負けず嫌いな性格だった。
正人との結婚は、もともと親が決めたものだった。
だから結婚式の日、明里はウェディングドレスを着たまま逃げ出した。しかし、それも失敗に終わり、汚れたスカートで途方に暮れていた時、正人が助けに来てくれたのだった。
彼は自分のコートを脱いで明里に羽織らせてくれたどころか、膝をついて、歩き疲れた明里の足を心配そうに手当てまでしたのだった。
「こんな遠くまで来て、疲れただろ?まだ夕飯も食べていないんじゃないのか?」
その瞬間、固く閉ざされていたはずの明里の心が粉々に打ち砕かれた。
自分を待っていたのは罰だったはずなのに、与えられたのは予想外の温もりで……
それからというもの、明里は正人から離れることなど考えられなくなったのだった。
情熱的な明里と冷静な正人の結婚生活。
明里がどんなに感情的になろうと、どんなに無茶を言おうとも、正人は穏やかに受け止めてくれる。
しかし、その凪のような平穏さが、かえって正人が自分を愛していないかのように思わせた。
半年前、正人の書斎を整理していた時、明里は自分が最も気に入っているアニメキャラクターのアクリルスタンドが、彼の机に置かれていることに気づいた。
その時は、正人から自分へのプレゼントだと思い、喜びで胸が一杯になった。
しかし、正人が自分に向けたのは、初めての激昂だった。
「書斎はプライベートな空間だから、入るなと言ったよな?返せ」
明里が悲しもうとも、正人からのフォローは一切なかった。
これをきっかけに二人は冷戦状態となったのだった。
そして今、穂花が胸ポケットに入れているものこそが、まさにそのアクリススタンドだった。
この半年の間、明里はどういう流れからか、穂花とはコスプレ仲間になっていたのだ。
「かっちゃんにそんな言い方しないで!」
穂花は正人の腕の中から抜け出し、はっきりと言った。「正人さん、あなたは確かに貧しかった私を、経済的に支えてくれた。でも、私はもう大人なの。私には私の生活があるから」
そして、少し恥ずかしそうに頬を赤らめると、付け加えた。「それに、正人さんには奥さんがいるんでしょ?そんな人に、口出しなんかされたくない」
手のひらに爪を食い込ませながら、明里は正人の言葉をじっと待っていた。
「あいつとはただ婚姻関係にあるだけ」と、正人は低い声で呟き、愛おしげな目を穂花に向けた。「俺はお前の成長をずっと見てきた。お前は特別なんだよ」
その瞬間、5年という歳月が否定された気がした。
耐えきれなかった明里は思わず皮肉を漏らす。「清水社長……一人じゃ満足できないんだ?」
「黙れ!」
正人は明里の襟を掴み、拳を振り上げた。その瞳には、怒りと焦燥が渦巻いている。
結局、正人は拳を明里の横の壁に叩きつけた。
その衝撃で、拳の皮が一瞬にして剥けた。
「穂花に近づくな」正人は明里を睨みつけ、言い放つ。「次関わってみろ。容赦しないからな」
穂花が目を真っ赤にして、心配そうに正人の手を包み込んだ。
「正人さん、昔言ってたよね?今の奥さんとは、ただの政略結婚にしかすぎなくて、ビジネスの道具でしかないって。愛してないんだったら、今すぐ離婚してよ!」
明里の耳は轟音に包まれ、その場に立っているのもやっとだった。
それは、結婚式から逃げ出した本当の理由だった――あの日、自分がどれほど傷ついたか、正人は知っていたのだろうか?
それどころか、まさかそんな風に自分のことを言っていたなんて。
正人が目を閉じ、仕方なさそうに吐き捨てる。「離婚以外だったら、何でも叶えてやる。でも、離婚だけはだめだ」
冷戦状態中、明里から離婚を申し出た時も、正人に同じ言葉で冷たく断られた。
あの頃はまだ……そこには愛があるからだと思っていた。
でも自分は実のところ、夫婦の体裁を守るための道具で、愛人の当て馬として利用されていたに過ぎなかった。
なぜそんなことができたのだろう?
強く握られた拳の中で、爪が食い込み血が滲むのを明里は感じた。
その時、穂花が明里の腕に自分の腕を絡めて、正人に向かってこう言い放った。
「正人さんが離婚しないっていうなら、私はこの人と結婚するから!」
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