妻の流産より愛人の出産?絶対に離婚する!第3話
この話は約1220字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
私は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。
消毒液の匂いが鼻を突き、吐き気が込み上げたが、吐こうにも何も出てこない。
「神谷さん……」蘭の声が痛々しげに揺れた。
私は目を開け、彼女に笑いかける。「戻りましょう」
蘭に支えられて病室まで戻ると、入口で二人の看護師が話していた。しかし、私たちには気づいていない。
「422号室の人、すごいよね。男の子を産んだら、お義父さんから20億円のお祝いだってさ。もう桁が違いすぎる。私、一生働いてもそんなに稼げない」
「でも423号室の人が奥さんなんでしょ?大量出血で運ばれてきた時、旦那さんは隣で愛人の出産に付き添ってたって。ひどすぎない?」
「まあ、お金持ちの世界って分からないよね。奥さん、実家は普通の家らしいよ。結婚した時は玉の輿って散々羨ましがられたらしいけど、今じゃ……」
蘭がわざと咳払いをすると、二人の看護師は振り返り、その表情を強張らせた。
「神谷さん、中に入りましょう」蘭は私を支えて病室へ入りながら、二人をきつく睨んだ。
ベッドに腰を下ろすと、蘭が温かいお茶を持ってきてくれた。私の前にしゃがみ、気遣うように顔を覗き込む。「気にしないでください。あの人たち、噂話が好きなだけですから」
私は首を横に振り、お茶を一口飲んだ。
温かいはずなのに、喉を通った瞬間、胃の奥まで冷えていくような感じがした。
20億円。
さっき聞いた言葉が頭の中をぐるぐると回り、耳鳴りだけが大きくなっていく。
昨日、宗一郎が私に振り込んだのは16億円。
それは慰謝料であり、口止め料。私にこれからも黙って、神谷家の飾り物でいろという金だった。
そして、結愛への20億円は、報奨金。
男の子を産んだこと、そして神谷家の跡取りを産んだことへの報奨金なのだ。
20億円と16億円。4億円の差額。
その4億円が、跡取りの「値段」。
つまり、跡取りを産めなかった正妻と、男の子を産んだ愛人の差につけられた値段だった。
コップをベッドサイドの台に置いた途端、なんだか無性に笑えてきた。
宗一郎という人は、本当に計算高い。何にだって値段をつける。
息子の不倫一回はいくら、孫一人はいくら、全部、きっちり計算している。
宗一郎にとって、私もただの商品なのだ。
しかも、とっくに使用期限の切れた商品。
午後、ベッドにもたれながら、私は目を閉じて休んでいた。
突然、ノックもなく扉が開いた。
目を開けると、結愛がそこに立っていた。
病院服を着て、髪を緩やかに流し、まだ顔色は青白いものの、満足げな表情をしている。
腕に水色の産着に包まれた、小さな赤ん坊を抱いている。
「先輩が同じ階にいるって聞いたから、お見舞いに来ました」まるで昔から親しい友人でも見舞うような笑顔で、結愛は病室に入ってきた。
私は何も答えず、彼女を見つめた。
結愛はベッドのそばまで来ると、抱いていた赤ん坊を私に見せつけるように近づけた。「見てください。私の息子です。駿介は私に似てるって言うんですけど、私は駿介似だと思うんですよね」
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