妊娠中の私に酒を強いた夫、もう二度と愛さない第3話
この話は約2703字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
深夜3時、翔吾はまだ帰ってこなかった。
どうしても眠れなくて、彼を探しに出かけることにした。
駐車場に着いたところで、ちょうど翔吾がスマホを弄りながら歩いてくるのが見えた。口元には甘い笑みが浮かんでいて、どうやら誰かにボイスメッセージを送っているみたいだった。
「暖かくして」とか「もう家だよ」とか、そんな単語が聞こえてくる。
恋に落ちたばかりの男の子みたいな、甘ったるい声。翔吾が私にそんな声色で話したことなんて、一度もなかった。
私は立ち尽くして、彼を避けることもできなかった。階段の踊り場で彼と思いっきりぶつかり、私は転びそうになった。
彼は、相手が私だとわかった瞬間、さっきまでの笑顔が固まり、みるみるうちに不機嫌な顔になった。
彼は私を支えようともせず、慌ててスマホの画面を消すと、怒りを私にぶつけた。
「会社に行ってただけだぞ。わざわざ探しに出てくるなんて、どういうつもりだ?俺を疑ってるのか?駐車場で待ち伏せしたいのか。
うっとうしいな。いっそ俺にGPSでも付けたらどうだ?」
私はそんな彼を見てようやく目が覚めた。
いつもこうだ。悪いのはどう考えても翔吾なのに、すぐに息を荒げて私を罵る。すべてを私のせいにして、私が反省すべきだと言う。
相手にするのも馬鹿らしくて、彼を無視して道を引き返した。
その瞬間、翔吾に強く引き戻され、手首に痛みが走った。
私はそのせいでバランスを崩して、足をひねってしまい、膝から地面に崩れ落ちた。
翔吾は私を見下ろし、いらだちに満ちた口調で言った。
「まだ話は終わってない。誰が行っていいと言った?さっさと立て。いい大人がか弱いフリなんてするなよ」
私が額に冷や汗を浮かべて、足首が赤く腫れているのに気づいたのか、翔吾の目にようやくわずかな動揺の色が見えた。
「すまん、やりすぎた……でも、お前がいつも俺を怒らせるからだろ」
そう言って、翔吾は私を抱き起そうと身をかがめた。
彼を突き飛ばそうとしたが、乱暴に手をつかまれ、無理やり抱き上げられた。
「いいから、おとなしくしてろ」
家に戻ると、翔吾は救急箱を持ってきて、心配しながら手際よく私の足首を手当してくれた。
昔の私だったら、きっとすごく感動しただろう。
かつては、翔吾の仕草一つ一つに心が揺さぶられた。作ってくれた手料理も、書いてくれた手紙も、全部宝物だった。
たった一言褒めてくれるだけで、何日も幸せな気持ちでいっぱいになっていた。
しかし今、優しく振る舞う彼を前にして、私の心は何も感じなかった。
翔吾が部屋を一度出た時、彼のスマホの画面がふと光った。蛍からの、ラインの通知だ。
【社長、ありがとうございます!人生初のブランドバッグ、すっごく嬉しいです!】
【こんなに遅くまで付き合わせちゃって、志穂さんは怒ってないですか?志穂さんは気が強いって聞いていますから……急に胃が痛くなったせいで長引いて、ごめんなさい】
【でも、社長がそばから離れると、また元気がなくなって……どうしましょうか?】
ふっ、私は鼻で笑った。
そこへ翔吾が水の入ったカップと一緒に薬を持って戻ってきた。良き夫を演じている姿に嫌悪感を覚えた。
たまらず口を押さえると、吐き気がこみ上げてきた。
翔吾はすぐに私の背中をさすり、薬を差し出した。
「ほら、飲みな。もう熱くないから」
確かにこの薬を飲んでいたけど、もうとっくに昔の話だから、家には期限切れのものしか残っていないはずだ。
私は眉をひそめてカップをもらおうとしなかった。「ありがとう。でも飲まないから、捨ててちょうだい」
翔吾はイラっとして、強引に私の顎を掴んだ。
「体調が悪いなら薬を飲めよ。せっかく持ってきてやったのに、捨てろって言うのか?」
こみ上げる吐き気で頭が割れそうだった。私は思わずカップを叩き落とした。
「だから、飲まないって言ってるでしょ!」
翔吾はぱっと立ち上がり、額に青筋を浮かべていた。
「志穂、調子に乗るのも大概にしろ!残業でクタクタなのに、体調まで見てやったんだ。ここまでしてあげたのに、まだ何が不満なんだ?
蛍の代わりに酒を飲んでくれって頼んだだけだろ。いつまで根に持ってるんだ?普通の上司なら誰だってそうする。あの子はまだ若いんだから、男として気を遣うのは当然だ。俺は何か間違ったことを言っているのか?
こっちは今日、ずっとお前の態度を我慢してやってるのに、お前ときたらいい気になりやがって。いつまでも年ごろの女の子のつもりか?身の程を知れ!」
体調がどんどんひどくなって、翔吾と口論などする気力なんてなかった。
私は消え入りそうな声で答えた。「そういう意味じゃないの。あなたが白石さんとどうなっているのか気にしてない、関係ないわ。ただ、今は、ちょっと……」
言い終わるか終わらないかのうちに、また吐き気がこみ上げてきた。
翔吾は眉をしかめて数歩うしろに下がった。助ける気など最初からなかったようで、むしろ怒りに満ちた声で私を指さした。
「志穂、昔のお前は優しく大人しかった。今の自分の姿を見てみろ。一緒に外を歩くのも恥ずかしいくらいだ。少しは反省しろよ。
毎日家の中であることないことばっかり考えてないで、少しは見た目に気を遣ったらどうなんだ?
お前には、本当にがっかりだよ」
彼の言葉は容赦なく、まるで私を辱めているようだった。
もし翔吾に、ほんの少しでも私への思いやりがあったなら、私のおかしな体調に気づいてくれたはず。
しかし、なにも気づかなかった彼を見て、私はどうでもよくなってしまった。
私は額の汗をぬぐい、ただ静かに言った。「ええ、好きに思えばいいわ」
部屋に戻り、意識が遠のくのを感じながらベッドに横になった。
ドアの向こうから、翔吾がまだ何かを怒鳴り散らしているのが聞こえた。
「なんだその態度は。妻らしい思いやりってものがないのか?一体お前のどこを気に入ったんだったか。お前が家にいると息が詰まる。結婚なんてするんじゃなかった!
俺が戻るまでに、家をきれいに片付けておけ。それから、電話してくるなよ!うんざりだ!」
バタン。
ドアが力任せに閉められた後、あたりが静まり返った。
私はしばらく暗い天井を見つめてから、深いため息を漏らした。
スマホを開くと、蛍がインスタを立て続けに更新していた。
写真には、きらびやかな夜景を背景にしたバスタブの中で、背中を大胆にカメラに見せながら、ワイングラスを片手にくつろぐ彼女の姿があった。
投稿に添えられた文章はこうだ。【愛しい人はやっぱり、会いに来てくれたんだね】
私は冷静にアプリを閉じ、産婦人科の予約ページを開いた。
この腐れ縁も、もう終わりにしなくちゃ。
私は再び平静を取り戻し、その夜は久しぶりによく眠れた。
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