奈落に散る、十年の嘘と贖罪第2話
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添付ファイルには、奏多の直筆署名が入った苦情申立書もあった。
私は冷たい床にへたり込み、虚ろな目でダイニングテーブルを見つめた。
そこには、まだ箱からも出していないケーキが置かれている。
私の初任務の成功を祝うために、奏多が事前に用意していたものだ。
数年前、警察学校に合格して興奮気味に報告した時のことを、ふと思い出した。
彼は私を抱き上げてくるくると回り、その瞳は夜空の星よりも輝いていた。
「咲茉、君を本当に誇りに思うよ」
――あれは全部、嘘だったのだ。
私が宝物のように思っていた思い出は全て、彼の周到な演技に過ぎなかった。
震える手で電話に出る。
電話の向こうで、奏多はかつての優しい口調に戻っていたが、今はそれが反吐が出るほど気持ち悪い。
「咲茉、説明を聞いてくれ。確かに俺は酔っていて……」
私は彼の言葉を遮り、枯れた声で言った。
「奏多、私がそんな言い訳を信じるとでも思うの?」
彼は一瞬沈黙し、仕方がないと言わんばかりの、諭すような口調に変わった。
「咲茉、今日の騒ぎはあまりにも酷すぎた。君への影響も悪い。
既に新しい仕事を手配しておいたよ。警察官より楽だし、給料だっていい。君は……」
私は思わず吹き出し、涙が溢れ出た。「奏多、何様のつもりで私の人生を決めるの?」
その直後、羽衣からのメッセージがポップアップした。
写真の中で、彼女は男物の大きな白シャツを着ていた。
襟元は大きくはだけ、鎖骨には生々しいキスマークが散らばっている。
背景は、私と奏多が二人で整えた新居だ。
私たちが一緒に選んだ、あの柔らかい純白のベッド。
奏多は「新居はまだ換気が必要だから、住むのは先だ」と言っていたはずなのに。
写真の下には、こういう文字が添えられていた。
【お姉ちゃん、あなたが選んだベッド、寝心地最高。
あなたが選んだ男もね】
怒りで頭に血が上り、視界が赤く染まった。私は半ば狂したように車のキーを掴み、外へと駆け出した。
すぐに新居の前に到着した。
奏多と決めた暗証番号を入力するが、エラー音が鳴り続ける。
仕方なく裏庭へ回り込み、なりふり構わず壁をよじ登って、バルコニーへと這い上がった。
リビングから話し声が聞こえる。
私は足音を殺し、一歩ずつ近づいた。
ダイニングでは、奏多が茶碗を持ち、一口ずつ羽衣にみそ汁を食べさせていた。
その動作は優しく、愛に溢れており、私が一度も受けたことのない扱いだった。
「このカーテン嫌い。地味すぎるわ。変えてよ」
私が選び抜いた星空柄のカーテンを指差し、羽衣がわがままに言い放つ。
奏多は彼女の鼻先を指で軽く弾き、愛おしげに笑った。
「わかった、変えよう。
羽衣の好きなものに、全部変えよう」
ひとしきり指図した後、羽衣は口を尖らせて不満げに尋ねた。
「奏多さん、お姉ちゃんと結婚なんかしないでよ……」
奏多は茶碗を置き、羽衣の額にキスをした。
「おバカさんだな。彼女との結婚は必要なんだ。
俺には彼女のように、経歴がクリーンで体裁が良く、その上、聞き分けの良い妻が必要なんだよ」
彼が吐き出す言葉の一つ一つが、重い楔となって私の心に打ち込まれた。
「でも安心してくれ。この家の本当の主は永遠に君だ。
俺が真に愛しているのは、君一人だけだよ」
爪が掌に食い込み血が滲んだが、心臓の痛みに比べれば万分の一にも及ばない。
羽衣はまだ機嫌が直らないのか、ぷいと顔を背けた。
奏多は低く笑い、彼女の首筋にキスを落とし始める。
手もいやらしく、彼女の服の中へと滑り込んでいった。
「ん……奏多さん……やだ……っ」
羽衣は拒むふりをしながらも、その身体は骨を抜かれたようにしなだれかかった。
すぐに二人はソファの上で絡み合い始めた。
私は物陰に立ち、その見るに堪えない光景を見つめていた。
全身の震えが止まらず、凍てつく湖の底へと突き落とされたかのような寒さを感じた。
冷たい風に吹かれて体温を失うまで立ち尽くした後、私は窓から来た道を戻った。
車に戻り、震える手でスマホを取り出し、あるウェブページを開いた。
【特別選抜隊員募集要項】
国境の最果てへの配属を条件とし、向こう十年間、外部との接触は厳格に制限される。
私は静かに全ての情報を入力し、送信ボタンを押した。
この七年間の青春は、ドブに捨てたと思えばいい。
この二十数年の人生は、ただの笑い話だったと思えばいい。
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