夫の百人目の愛人が現れた日、私は彼を捨てた第1話
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結婚十周年の記念日、夫の清水匠馬(しみず たくま)は百人目の新しい愛人を抱きながら帰ってきて、私たちの愛の証のネックレスを自ら引きちぎり、彼女の首にかけた。
招待客たちの嘲るような笑い声の中、その娘はおそるおそる私のドレスをつまんで言った。
「お姉さん、清水さんがね、このドレスを今すぐ私に着せたいんだって」
それは十年前、私が結婚式で着たウェディングドレスを仕立て直したものだった。
私は今日のために、愚かにも彼が覚えていてくれるはずだと信じて身にまとったのに。
だが彼は結婚記念日の日に、妻に人前で裸同然になって、このドレスを愛人に譲れと命じたのだ。
周囲の軽蔑に満ちた視線の中で、私は十年間で初めて心からの笑みを浮かべて言った。
「匠馬、私たち……離婚しよう」
* * *
結婚記念日のその日、夫が百人目の愛人を連れて帰ってきた。
私は静かに口を開いた。
「匠馬、私たち、離婚しよう」
短い沈黙ののち、まるで最高の冗談を聞いたかのように、爆笑が広間を揺らした。
「ハハハ!清水社長、奥さんこれで何回目ですか?」
「百回目の離婚宣言?記念パーティでも開きます?」
清水匠馬(しみず たくま)の瞳が冷たさから侮蔑へと変わった。
彼が一歩踏み出し、私の顎を乱暴につかむ。まるで骨を砕かんばかりの力だった。
「離婚?」嘲笑と共に吐き捨てる。「紗希、この茶番を十年もやって飽きないのか?お前、母親をそそのかして俺に薬盛って、無理やり這い上がった女がよ……離婚を言い出す資格なんてないんだよ!俺がいなきゃ、お前の母親なんか明日には管を抜かれてる!」
まただ――十年間、彼はずっとこれを言い続けてきた。母が薬を盛り、彼と初恋の女・森本美羽(もりもと みう)を引き裂いたのは、私の仕業だと。
黙り込んだ私を見て、彼は「図星だろ」と言わんばかりに鼻で笑い、手を引っ込める。隣に立つ、美羽そっくりの橋本琴音(はしもと ことね)が気を利かせてハンカチを差し出した。
彼はそれで指先を乱暴に拭い取る。まるで汚物でも触ったかのように。
「琴音は疲れてる。最上の部屋を用意しろ。それから似合うドレスとアクセサリーも」
「はい」私は波風立てぬ声で答えた。「主寝室の隣のゲストルームでどう?前の九十九人もそこに泊ったから」
眉間にしわを寄せる匠馬。その表情は見慣れていた。私が彼の期待する「取り乱した悔しがる妻」を演じなかったとき、いつだって決まって表れる顔だ――「また芝居かよ」と言いたげな嫌悪の顔。
「ふん」冷笑と共に琴音の腰を抱き寄せる。
「任せるよ。琴音が気に入ればそれでいい。ああそうだ、服は持ってきてないから……お前のクローゼットの未使用の限定もの、それとジュエリーボックスにあるブルーダイヤのセット、全部琴音にやれ」
そこで彼の視線が私の身体を舐めるように動いた。口角がさらに歪む。
「いや、それより……そのドレス、今着てるのを脱げ。琴音、これが気に入ったみたいだ」
ざわめきが凍りついた。アクセサリーや服を奪うだけでも屈辱極まりないのに、人前で今着ている結婚記念のドレスまで剥ぎ取ろうと?
それはつまり――尊厳を地に叩き落とす行為だった。
琴音はお決まりのように恥じらいを装い、しかし目は欲望で輝いていた。指先で私のドレスの裾に触れる。
「いいわよ」私は短く答え、肩のストラップを引きちぎる。
「ビリッ!」と絹が裂ける音が場を切り裂いた。驚きの声が響く中、私はすでに背中のホックに手をかけていた。
「やめろ!」
怒号と共に匠馬の手が飛び、私の手首を乱暴に掴む。
「紗希、恥も外聞もないのか!着替えていけ!」
突き飛ばされた私はよろけ、背後のシャンパンタワーに激突。
冷たい酒とガラスの破片が肌に突き刺さり、焼けるような痛みが走る。
目を閉じ、再び開けた時には、心はすでに凍りついていた。
「……はい」
予想通り、抑えた笑いが上品ぶった客たちの間に広がった。
「みっともないな。金のためなら顔も捨てるか」
「それで離婚だ?どんな度胸だよ」
「清水夫人?あはは、召使い以下じゃないか!」
「聞いたぞ。母親は薬漬けで、清水社長の金でしか生きてないってな。そりゃ耐え抜くだろ」
鋭い囁きが耳を切り裂く。だが彼らは知らない。
これが本当に、百回目の離婚の言葉だったことを。
そして――初めて、母と暮らしていけるだけの貯蓄が私の通帳に貯まったことも。
夜更け、主寝室から聞こえる淫らな声。私はその扉の前に立っていた。
匠馬の決まりだ。新しい愛人が「まだ不慣れ」なら、私が「教えてやる」役目。
最初の九十九人、みんなそうしてきた。
「ははっ、琴音は腰が柔らかいな……紗希!クローゼットの引き出しのゴムを持ってこい!」
冷えきった身体で部屋に入り、視線を逸らしたままクローゼットに近づく。
私のシルクの寝巻を纏った琴音が挑発的に笑う。
煙草を咥えた匠馬がベッドに背を預け、愉快そうに私を見下ろした。
引き出しを開ければ、案の定そこに「お望みのもの」がある。諦めて手を伸ばしかけた――その瞬間。
リンリンリン!
ポケットのスマホが激しく震えた。画面に光る文字に心臓が止まりそうになる。
【仁和病院 緊急呼び出し】
足元から一気に冷気が駆け上がり、震える手で電話を取った。
「石川さん!すぐ病院に来てください!お母さんが多臓器不全を起こしています!アドレナリンを三度注射しましたが反応がなく……」
「お母さん……!」
視界が暗転し、私は匠馬の裾にすがりついた。
「匠馬、お願い!運転手に病院へ送らせてください!母が……先生が危ないって!お願いだから!」
「ほぉ?最期の別れ?」彼は鼻で笑い、私の手を振り払った。
「紗希、よくもまぁ次から次へと仕掛けてくるよな。昼間は離婚劇、夜は涙の苦肉策?母親まで呪うのか?」
「違う!本当よ!電話を聞いて!」必死でスマホを掴み、這いつくばりながら差し出す。「お願い匠馬!車の鍵を貸すだけでいいの!」
私の必死さに琴音がびくりと怯え、匠馬の胸にしがみつく。彼は彼女の背を軽く撫で落ち着かせ、それから私を見る目には嫌悪しか残っていなかった。
「もういいだろ、茶番は終わりだ。俺の気分を台無しにするのが目的か?反吐が出る。柳じい!」
駆け込んできた執事の柳に向かって言い放つ。
「彼女を地下室に閉じ込めろ。頭を冷やさせろ!俺の許可なく、絶対に出すな!」
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