夫に援助されていた女子大生に祖父を轢かれて、私はすべてをぶち壊した第3話
この話は約1990字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
その夜、私は祖父が遺してくれた弁護士チームとともに、相手方と円滑に契約を結んだ。
前金が着金すると同時に、祖父を市内最高の病院へ転院させ、手術の準備を進めた。
そして翌日、安栄ホールディングスからの招待を受け、私は製薬業界の投資促進会議へと足を運んだ。
まさかその場で、実也と美慧に遭遇するとは——想像さえしていなかった。
「清乃さん、どうしてここに?」
美慧の視線は、私と安栄ホールディングスの会長の間を何度も往復しながら、鋭く探るように揺れた。
「昨日、実也さんにちょっと冷たくされたくらいで、公然と男を乗り換えるなんて……」
その口元には、嘲笑の色がはっきりと浮かんでいた。
「しかも相手は、神崎グループにあっさり負けた男でしょ?……恥ずかしくないんですか、ほんとに」
安栄ホールディングスはここ数年で急成長を遂げた医薬業界の新鋭。
神崎グループの最大のライバルとも言える存在だ。
だが、祖父の特許という後ろ盾の前に、彼らは常に一歩を譲ってきた。
私は独り言をしている彼女を、ただ静かに、冷ややかな目で見つめていた。
それが図星だとでも思ったのか、彼女はますます言葉を募らせる。
「清乃さん、実也さんが言っていましたよ。私にきちんと謝って、訴訟を取り下げれば、今回のことはすべて水に流してあげるって。
でも、あなたはそれを無視して、人前で彼の顔に泥を塗ったんですよね?
そんな人間が、神崎家の『奥様』でいられるとでも思ってるんですか?」
私が何も言わぬうちに、実也が現れた。
見下すような目つきで、私をまっすぐに睨みつけてきた。
「清乃、もういい加減にしろ。家の恥をさらすような真似はやめろ。
三十を過ぎてるってのに、卒業間近の子より分別がないとはな……恥を知れ」
隣で安栄ホールディングスの会長が口を開きかけたが、私はそっと首を振って制した。
「私が何をしようと、あなたには関係ありません」
実也は苛立たしげに顔をそむけ、鼻で笑った。
「お前は神崎グループの社長夫人だぞ。それが関係ないだと?拗ねてるだけだろ。
昨日の期限はもう過ぎた。まだ訴訟を取り下げないってなら、本当に君の祖父の医療を止めるよ」
私は静かに、微笑んだ。
「どうぞ、お好きに」
彼は一瞬言葉を失い、眉間に深い皺を刻んだ。
「昨日まで君の祖父のために泣きついてきたくせに、今は他の男に乗り換えて捨てるのか。
結局、君の『孝行』なんて嘘だったんだ。単なる意地の張り合いだろ?
それに、まさか安栄ホールディングスが神崎に勝てるとでも思ってるのか?
忘れるなよ、神崎グループの背後には——君の祖父が持つ、あの特許があるんだ」
実也は一歩近づき、声を低くした。
「素直に俺の言うことを聞いていれば、ずっと神崎家の嫁でいられるし、君の祖父の命も守れるんだぞ」
……もう、そんな「肩書き」には一切の未練もなかった。
私は潤んだ目で彼を睨み、手を振り上げた——その顔を、強く打ちたい衝動に駆られて。
だが、美慧が割り込むように間に入り、手にした赤ワインを私に浴びせかけた。
「清乃さん、人前で暴力なんて……実也さんにこれ以上恥をかかせないでくださいよ!」
ワインのしずくが頬を伝い、私は息を呑んだ。
それでも実也は無関心なまま、美慧の手にかかったワインを丁寧にティッシュで拭いていた。
「今すぐ病院に連絡して、君の祖父の治療を止めさせる。覚えておけ。俺は、君にチャンスを与えた。見殺しにしたのは——君自身だ」
私は彼を無視し、まっすぐ更衣室へと向かった。備えておいた服に着替え、安栄ホールディングスの会長に一礼すると、会場を後にした。
背後ではすでに、「今年も神崎が入札を勝ち取るだろう」といった祝福の声が聞こえていた。
私は道路脇で、迎えの車を待っていた。
「清乃さん、神崎社長の件で……我々の契約に響かないですよね?」
安栄ホールディングスの会長は、私の心がまだ実也に残っているのでは、と懸念していたのだろう。
私は首を静かに振った。
一度手放すと決めたものに、後戻りなどない。
車のドアを開けたとき、思わず、もう一度だけ会場を振り返った。
実也が、携帯を片手に、遠くから私を見つめていた。
次の瞬間——彼は、突然こちらへと駆け出してきた。
閉まりかけたドアを片手で押さえながら、彼は通話中の携帯を手にしていた。
電話の向こうから、明らかに動揺を含んだ秘書の声が聞こえてきた。
「神崎社長、お聞き間違いではありません。奥様のご祖父・篠原教授は、すでに他院へ転院されております。
さらに、篠原教授の研究チームより当社に付与されていた特許も、契約満了に伴い、すでに回収されております。
今回の投資促進会議への参加資格は……当社には、もはやございません」
その言葉は、まさに落雷のように実也の表情を打ち砕いた。
彼の顔色は見る間に蒼白になり、怒りと混乱のまま、携帯を私の目の前に突きつけた。
「清乃……これはどういうことだ!?説明しろ!」
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