夫に捨てられた私が、妹のためにすべてを暴く第3話
この話は約1436字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
蓮の顔から優しさが消え、私を見下すような視線だけが残った。
「30過ぎの専業主婦が、10年も働いてないんだぞ。本気で路頭に迷うつもりか?世の中の夫婦がみんな離婚しても、お前だけは俺と離婚できない。それに、俺に子どもができるのは、お前の望みでもあっただろ?
妹のところへ行ってこい。俺は詩乃についている」
私はぼんやりしたまま、妹の病室へ向かった。
やせ細った雨音の顔を見た途端、涙が止まらなくなった。
両親は早くに亡くなり、3歳下の妹と私は、ずっと2人きりで支え合って生きてきた。
蓮が会社を立ち上げた年、雨音はある資産家の息子から性的暴行を受けた。
私はすぐ警察へ行こうとしたが、蓮に止められた。
その男が、蓮に大口の出資を約束したからだ。会社の先行きを左右するほどの金だった。
「裁判になっても、あの家の力なら相手は傷ひとつ負わない。むしろ傷つくのは、雨音の評判だけだ」
結局、私は折れた。けれど雨音の心は完全に壊れてしまい、自ら6階から身を投げた。その日から、雨音は植物状態になった。
蓮はこの病院で一番いい病室を用意し、今まで雨音の命をつないでいた。
それは本来、蓮が負うべき責任だった。なのに今では、蓮とあの母親が私を脅すための材料になっていた。
蓮の母も、雨音のことを持ち出しては、私を脅していたのだ。
「あの女たちを、私が蓮にあてがったなんて言ってごらん。あんたの妹の酸素チューブを抜かせるわよ。子どもも産めないくせに。こうなったのは全部、あんたのせいなんだから」
その言葉は、何度も胸に突き刺さった。
「雨音、姉さんが連れていくね」
……
医師によると、詩乃は妊娠1か月で、胎児の状態が不安定なため、数日入院が必要らしい。
蓮は24時間、病院で詩乃に付き添った。
そのおかげで、私は少しだけ息をつけた。
家に戻り、わずかに残っていたアクセサリーを持ち出して売った。
この数年、蓮は周りに、私へ高価な宝石をいくつも贈ってやったと言いふらしていた。
だが実際には、ほとんど蓮の母に取り上げられていた。私は社交の場にほとんど出ないから、家に置いておく必要はないと言われたのだ。
毎月、蓮から小遣いが振り込まれるカードも、1円使うたびに蓮の母にチェックされる。だから今は、そのお金にも手をつけられなかった。
私はアクセサリーを売った金で、地元の小さな町にある療養施設へ連絡し、離婚後は雨音を連れて帰る準備を進めた。
それから病院の近くに、小さなマンションを借りた。
離婚が成立するまで、まだ日数がある。詩乃と同じ家で暮らすなんて、私にはできない。
家へ荷物を取りに戻ったとき、私は卓上にある額入りの結婚写真を手に取った。
すると、その裏から封筒が落ちてきた。
不審に思って開けると、中の紙はすでに黄ばんでいた。肝臓移植の同意書だった。
そこには、私の名前がはっきりと署名されていた。
そして臓器の受取人欄には、政界の大物の息子の名前が記されていた。
目の前が真っ暗になり、私はその場に崩れ落ちた。
8年前、蓮は突然肝臓を悪くし、移植が必要になった。検査で適合したのは私だけだった。だから私は迷わず手術台に上がった。
退院後、蓮の会社は嘘みたいに伸びていった。
ようやく神様が、私たちの苦労を見てくれたのだと思っていた。
けれどすべては、私の肝臓と引き換えだったのだ。
十数年、心から愛してきた人に、骨の髄まで吸い尽くされていたなんて。
崩れ落ちそうになったとき、携帯が鳴った。
蓮の仕事の関係で付き合いのあった、財界人の奥様のひとりからだった。
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