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夫と秘書がアプリで浮気?即離婚!第1話

この話は約2400字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

真夜中に破水した私は、慌てて夫に救急車を呼んでほしいとお願いした。

それなのに夫の松井慶(まつい けい)は、あるアプリを開き、ログインの足跡をつけていた。

そして、画面には「連続ログイン399日目」と表示され、アニメーションの花火が打ち上げられる。それを確認した慶は安心したようにほっと息をつくと、ようやく119番に連絡し始めた。

その時の私にもう迷いはなかった。お腹の痛みに耐えながら、弁護士である一人の友人に離婚準備をお願いするメッセージを送る。

離婚届を突きつけられた慶は、何かのつまらない冗談とでも思ったのか、鼻で笑った。

「秘書とアプリ内のログイン連続記録チャレンジをしてたってだけで?」

私は頷く。

「うん。ただそれだけ」

* * *

真夜中に破水した私は、慌てて夫に救急車を呼んでほしいとお願いした。

それなのに夫の松井慶(まつい けい)は、あるアプリを開きログインの足跡をつけていた。そして、画面には「連続ログイン399日目」と表示され、アニメーションの花火が打ち上げられる。それを確認した慶は安心したようにほっと息をつくと、ようやく119番に連絡し始めた。

その時の私にもう迷いはなかった。お腹の痛みに耐えながら、弁護士である一人の友人に離婚準備をお願いするメッセージを送る。

……

救急車に乗っていた時、救急隊員が「深呼吸して下さい。リラックスしましょうね」と、私を落ち着かせようとしてくれていた。

その時、隣に座っていた慶が、うっかりボイスメッセージを再生してしまったようで、彼の携帯からは甘ったるい女性の声が聞こえてきた。「またこんなギリギリに連続記録更新のこと思い出すんだったら、もう知りませんからね!」

すると、慶はすぐさま携帯の画面を消し、焦ったように私の様子を伺ってきた。

私が陣痛の波に襲われ、冷や汗でびっしょりになりながら苦しんでいるのを見て、私が気づいていないとでも思ったのか、慶はどこかほっとした様子だった。彼は、続けて携帯を触り、返信をする。【菜々子、ごめん。今日は忙しくて、つい忘れてた。でも、12時前に間に合っただろ?次は絶対ちゃんとするからさ。そんな怒るなって】

そのとき、時計の針はちょうど12時を指していた。

私は慶に背を向けて、ストレッチャーの取っ手を爪が食い込むほど強く握った。そして、残りの力で携帯を手に取る。

弁護士の友人からの返信が届いていた。【とりあえず今は赤ちゃんを産むことに集中してね。赤ちゃんの親権は、絶対に取ってみせるから!】

そのメッセージのおかげで、少しだけ不安が和らぐ。

すると、電話の相手をなだめ終わったのか、慶が私の傍にぴたりと寄り添ってきた。

私の手を自分の手のひらで包み込み、額へとキスを落とす。

「凛(りん)。お前が痛がってるのを見てると、俺もつらいよ」

それから、私のお腹に顔を寄せて、痛みを和らげようとしてくれているのか、やさしく撫でてきた。

「いい子だから、ママを困らせるんじゃないぞ。早く出ておいで。パパが遊んであげるからな」

そして、温かいタオルで私の冷や汗を拭いてくれるなど、気遣いまで見せる。

まるで、いい夫であり、いい父親のようだ。

しかし、私にはそれがたまらなく白々しく思えた。

病院に着くと、医師が慶に私の状況を慌ただしく尋ねる。

「奥さんの母子手帳はありますか?もしあれば、急いで出してください!

体の状態を把握したいので」

しかし、慶は何のことかさっぱり分からないというような顔をする。

私があれほど何度も伝えておいたのに、慶は全く覚えていないようだった。

秘書である池田菜々子(いけだ ななこ)との399日も続くアプリのログイン連続記録チャレンジは、一日も欠かしたことが無かったのに。

医者は眉を顰め、ため息をついたが、それ以上は何も言わずに、私を分娩室へと運んでくれた。

数時間にわたる出産は、まるで身を裂かれるような苦しみだった。

幸い、私は無事に女の子を産むことができた。

腕の中にあるこの柔らかくて小さな命を見ていると、胸が温かくなる。

私と赤ちゃんは医師によって分娩室から出された。

すると、家族への注意事項もあるようで、看護師が慶の名前を何度も呼んでいたのだが、返事が一向にない。

「こんな大事なときだっていうのに、どこに行っちゃってるの?無責任にも程があるでしょ。

奥さんの出産中に、旦那さんの居場所が分からないなんて……こんなの今までなかったよ」

小声で話している看護師の愚痴も、全て聞こえてしまった。

胸がレモンを詰め込まれたみたいに、きゅーっと締めつけられ、苦しくてたまらない。

医者が電話してくれたのか、慶が慌てて走ってきた。

しかし、その後ろには女がいる。

それは、慶の秘書である菜々子だった。

菜々子は私を見るなり、申し訳なさそうに謝ってきた。

「凛さん、本当にすみません。会社にいる時に、急に熱が出てしまったんですけど、誰にも連絡がつかなくて。それで社長に……

だから、大事な瞬間に立ち会えなかったのは私のせいなんです。社長のことは責めないであげてください」

まっすぐ私を見ていた菜々子だったが、その表情からは申し訳なさなんて微塵も感じられない。

なぜ救急車を呼ばなかったのだろうか?どうして友人に電話という選択肢が無かったのだ?

よりにもよって、妊婦の妻がいる旦那に電話してくるなんて……

菜々子が話し終えると、慶はまず菜々子の額に触れ、熱が下がっているのを確認すると、どこかホッとしたような表情を浮かべる。

少し責めるような声で言った。「走れるくらい元気でも、さっきは39度も熱があったんだぞ。俺が間に合わないで、点滴に連れて行けなかったらどうするつもりだったんだ?」

慶の瞳の奥には、本人さえ気づいていない焦りと不安が滲んでいた。

私が出産で苦しんでいた数時間、慶は菜々子の点滴に付き添っていたなんて。

ぼんやりとする頭で、ふと気づく。慶は昔から、面倒ごとを何より嫌う人だった。

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