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夫が私を最も憎んでいた時に、私は死んだ第1話

この話は約2453字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

私・桐原美玖(きりはら みく)は、夫・桐原朔也(きりはら さくや)に最も憎まれていた時に死んだ。

彼の冷たい態度に耐え切れず、自ら命を絶ったのだ。

葬儀場で、夫は私の遺骨が入った骨壺を手にすると、珍しくわずかに笑った。

「こんな汚れた人間、まともに弔ってやる必要なんてありませんから」

次の瞬間、骨壺が地面に叩き落とされ、私の遺骨が辺り一面に散らばった。

彼はずっと、かつて彼が想いを寄せていた女性を死なせたのは私だと思っていた。

だから彼は長い年月をかけて私に近づき、私を愛しているふりをして、慎重にすべてを奪うことにしたらしい。

念願の復讐を果たした夫は、私の遺骨を踏みつけ、そのまま立ち去った。

ところがそれから間もなく、彼は葬儀場で膝をつき、私の遺骨を返してくれと懇願することになるのだった。

* * *

朔也が私を最も憎んでいた時に、私は死んだ。

数え切れないほどの睡眠薬を飲み込んだときも、私はまだ考えていた――今夜、朔也は帰ってくるだろうか?

意識が完全に闇へ沈む直前まで、私はスマホの画面を見つめていた。

着信もなければ、メッセージもない。残っているのは、昨日私が送った13件の未読メッセージだけ。

彼は今ごろ、何をしているのだろう?

会議かもしれないし、誰かと会食しているのかもしれない。それとも宗方風花(むなかた ふうか)と一緒に撮った写真でも眺めながら、彼女を思い出しているのだろうか?

どちらにせよ……私のことを考えているはずがない。

私が死んでから1週間経っても、朔也は帰ってこなかった。

そして7日目、私の遺体は腐敗し始めていた。

「死者、桐原美玖。32歳。現時点では自殺とみられます」

警察が悪臭を放った私の遺体にかけられた毛布をめくった頃、朔也は会議室で16億円の契約書にサインしていた。

彼のスマホが数度震え、秘書の吉川智樹(よしかわ ともき)が小声で知らせる。「社長、奥様の件で警察からお電話です」

朔也はペンを止めることすらなかった。「放っておけ」

そして、そのままさらに1週間が過ぎた。

朔也がようやく姿を現したのは、私が火葬され、骨になった日。

黒い革靴が大理石の床を鳴らす。カツ、カツ、と響く足音は、まるで私の弔いの鐘のようだった。

すでに魂だけの存在になったというのに、私は思わず朔也のそばへ寄った。相変わらず、頭からつま先まで隙なく整っている。

その顔も冷静で、どこまでも淡々としていて、私が死んだことを悲しんでいるようには見えなかった。

よかった。

私は昔から、朔也がつらそうにするのを見るのが一番嫌だった。だから、これなら少し安心できる。

「桐原様。こちらが奥様のご遺骨です」

葬儀場のスタッフが、私のすべてが収められた骨壺を丁寧に差し出した。

その隙に私は近づいて、朔也の頬に触れようとしたけれど、魂になった私の手は、その顔をすり抜けてしまう。そして、朔也が突然身震いした。

驚いて、私は慌てて手を引っ込めた。

次の瞬間、朔也は冷たく笑った。彼の爪が骨壺の表面を擦り、耳障りな音を立てる。

「奥様?あいつが俺の妻だって?」

朔也が私を好きではないことくらい、ずっと前から知っていた。

それでも長い間そばにいて、最後は死んでまで妻だと認めてもらえないのは、やっぱり少しつらい。

朔也は、彼がずっと想いを寄せていた風花を死なせたのは私だと思っている。

高校時代のある夜、風花は学校裏の路地で、酒に酔った不良たちに囲まれ、12か所も刺された。

そして、最後の一撃で大動脈を傷つけられ、命を落としたのだった。

知らせを受けて駆けつけた朔也が目にしたのは、路地から警察に連れ出される、両手を血まみれにした私。

ただ、それだけだった。それだけの行き違いで、朔也は15年間、私を憎み続けた。

その15年の間に、彼は私へ近づき、私を口説き、愛しているふりをした。

結婚してからは、私や私の家族を利用して、自分の足場を固めていった。

そして誰にも逆らわれないほどの力を手にしたとき、彼はようやく芝居をやめたのだ。

かつて私に愛していると言った人が、最後には誰より深く私を傷つける刃になった。

それでも、何より悲しかったのは、真実を知ったあとでさえ、私自身がまだ朔也を愛していたこと……

「桐原様、ご遺骨はこちらで墓地までお運びしましょうか?」

スタッフの声で、私も朔也も意識を引き戻された。

朔也は無表情で、何を考えているのか、まるで読み取れない。けれど次の瞬間、彼の手が骨壺を横から払い落とした。

床に叩きつけられた音は、思っていたよりも乾いていた。

私は呆然と、辺り一面に散らばった自分の遺骨を見つめる。

朔也が私を憎んでいることなんて、嫌というほど分かっていた。それでも実際に目の当たりにすると、息ができなくなるほど苦しい。

幸い、魂になった私は涙を流せないから、少なくとも、惨めに泣く自分を見なくて済んだ。

「結構です。こんな汚れた人間、まともに弔ってやる必要なんてありませんから。

お手数をおかけいたしますが、後で掃くなり、下水道に流すなりしてください」

そう言いながら、彼は靴先で遺骨を蹴る。すると、白い粉がさらに舞い、葬儀場のスタッフが驚いて数歩後ずさった。

その光景を見て、ふと結婚3周年の日を思い出した。あの日も朔也は、私が6時間かけて煮込んだ料理を同じように払い落とした。

器が割れた音まで、今とそっくりだ。

熱い煮汁が私の手の甲にかかったとき、朔也は何と言ったんだっけ?

「美玖、お前は風花の足元にも及ばない」

今は、私の遺骨が朔也の靴底に付着し、私の魂もそのまま一緒に外へ付いていく。

葬儀場のガラス扉に、冷たく迷いのない朔也の顔が映っていた。

智樹が小走りで追いつく。

「社長、15時半からのお客様との打ち合わせですが……」

「予定通りだ」

振り返ることなく、朔也はマイバッハへ乗り込み、靴底についていた私の遺骨が、ぱらぱらと革張りのシートへ落ちた。

車が走り出した瞬間、私はとうとう耐えきれず叫んだ。

「宗方さんが死んだのは、私のせいじゃない!」

もちろん、その声が誰かに届くことはなかった。

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