夫が心を入れ替えたと思ったのに、結局嘘だった第3話
この話は約1747字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
汐里が箱を開けると、中には一対の指輪が入っていた。
その素材は独特で、木のようでもあり石のようでもあった。女性用の指輪には、銀細工で作られた花と蔦の模様が繊細に絡み合っている。
「結婚5周年記念日だよ」陸が汐里の手を取り、薬指に指輪を通す。
「俺が作ったんだ。素材からこだわって、半年以上もかかったんだから」
そう言って陸は彼自身の左手を差し出し、二つの指輪を並べて見せた。
「これ、ある島特有の木の化石で、知り合いにお願いして、やっと手に入れたんだ」
陸は満足げに指輪を撫でながら、目を輝かせる。「銀細工のデザインから模様付けまで、全部俺がやったんだよ」
それから彼は作り方について話し続けた。材料探しのことや、職人に弟子入りした時のこと……
汐里はその様子をただ見つめていた。
照明に照らされる陸の表情は生き生きとしていて、目尻の笑い皺までがくっきりと見える。
いつもは人を惑わせるような色気を帯びた目が、今は隠しようもない喜びでいっぱいになっていた。
これさえも……全部、演技なのだろうか。
「汐里?」陸が彼女の目の前で手を振る。「そんな不満そうな顔をして。もしかして、気に入らなかった?」
汐里ははっとして、笑みを浮かべた。「ううん、そんなことないよ。とっても素敵。ありがとう、陸」
ほっと胸をなでおろした陸が、笑顔で言った。「気に入ってくれたならよかった!南表島の集落で1か月も修行した甲斐があったよ。現地の師匠に弟子入りをしてから、山の中で2週間も粘って、やっと納得のいく化石を見つけたんだ……」
汐里の表情が一瞬、凍りつく。
南表島、伝統集落、玲……
つまりこの愛情の証である指輪も、玲の元へ行くための言い訳に過ぎなかったというのか?
ふと顔を上げた汐里の視線が、陸の首元に止まった。
そこには、隠しきれていないキスマーク。
胃が急にひっくり返るような不快感が込み上げ、酸っぱい液体が喉までせり上がった。
手の中の指輪も、これがただの舞台小道具に過ぎないことを汐里に突きつけてくる。
もう震えが抑えきれなくなった汐里は、勢いよく立ち上がると、掠れた声で言った。
「私のためにありがとう。すごく気に入った。
でも、今日はすごく疲れちゃったから、先に休むね」
去っていく汐里の背中を見つめながら、陸はその場で少し眉をひそめる。
汐里の様子に違和感を覚えたものの、接待で疲れているのだろうと思い、陸はあまり深く考えないことにした。
翌朝、汐里が目を覚ました時には、ベッドの隣にもう人はいなかった。
身体を起こし、指輪を外してケースの中にしまう。
もう愛情がないというのに、こんなものをはめていて何の意味があるのだ。
階段を降りると、既に朝食が用意されていた。
それどころか、先週何気なく食べたいと言っただけなのに、その店の料理まで置いてある。
その店は東区にあって、朝6時から並ばないと買えないような店なのに。
テーブルの上にはメモまで置いてあり、陸の字でこう書かれていた。
【おはよう。ちゃんと朝ごはん食べるんだぞ】
そして、空いているスペースには、下手くそなスマイルマークまで書かれている。
汐里はその場所に立って、かつては心温まる光景だと思っていた食卓を見つめた。
結婚した当初、陸は目玉焼きさえも焦がしてしまうような人だった。
だから、自分は手取り足取り教え、彼も一生懸命できるようになろうとしていた。さらには、目を輝かせて、「これからは、一生汐里に朝ごはんを作ってあげるからな」と言ってくれ、それを冗談では終わらせず、本当にそうしてくれたのだ。
毎日どんなに早く家を出る時でも、必ず朝食を用意し、メモを残してくれた。
おそらくあの時は、陸も本気で変わろうとしたのかもしれない。
だが、彼の愛はあまりにも脆かった。人が生まれ変わるほどの痛みに、耐え切れるほどの強さはなかったようだから。
汐里は朝食には手を付けず、鞄を手に家を出た。
神谷グループ本社ビル、28階の社長室。
ガラスドアを押し開けた汐里だったが、その場で一瞬足を止めた。
部屋の中、陸のすぐそばに一人の女性が立っていた。
玲だ。
同じ書類を、今にも肩が触れそうなほどの距離で見ている二人。
玲が指先で書類を指し、何かを言ったのか、陸が笑い声を漏らす。
その笑い声はとても自然で、玲に対する愛おしささえ滲んでいた。
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