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夫が心を入れ替えたと思ったのに、結局嘘だった第2話

この話は約1615字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

汐里はその場に凍りついた。

腎臓を移植したあたりを、反射的に押さえる。

この3年間、汐里はその「陸のもの」だと信じていた臓器を、大事に守ってきた。

それを二人の愛の証だとも思っていたし、彼が命まで懸けて自分を愛してくれた証拠だと信じていた。

だから、父親の前で涙を流しながら懇願したこともある。

「お父さん、陸にもう一度だけチャンスをあげて。陸は本当に反省してるの。だって、私に彼の臓器までくれたんだよ?」

それに、たとえ一族から「恩知らずな男に騙されている」と嘲笑されても、実家の持つすべての人脈と資金を注ぎ込み、陸を今の地位まで押し上げた。

だが結局……汐里が愛だと思っていたものも、改心したと信じていた姿も、全て最初から仕組まれた嘘だったのだ!

底知れぬ寒気が足元からせり上がり、汐里の全身を侵食していく。

汐里はゆっくりと腹部から手を離した。

個室の中からは、陸が玲を優しくなだめる声がまだ聞こえてくる。

それ以上聞いていることはできなかったので、汐里はその場を離れた。

バーを出ると、すぐさま秘書に電話をかける。

「美波。今すぐに、神谷グループへの投資をすべて引き揚げて。あと……」汐里は一旦言葉を区切った。「離婚協議書を用意してくれる?

用意できたら、明日の朝9時までに私のオフィスへ持ってきてちょうだい」

電話を切ると、汐里はそのまま車を走らせ家路についた。

玄関を開けると、人感センサーライトが静かに灯る。

ハイヒールを脱ぐと、真っ白な毛の塊が足元に擦り寄ってきた。

「にゃー」子猫のミルキーが大きな瞳で汐里を見つめる。

かがみ込んで抱き上げると、ミルキーは満足げに喉をゴロゴロと鳴らした。

「汐里、これからはミルキーを自分たちの子供だと思って大切にしような」

そんな記憶が、閉ざしたはずの心に遠慮なく飛び込んでくる。

交通事故から3ヶ月後、医師からもう子供が望めない体だと宣告された。

汐里はまるで枯れた植物であるかのように、何も喋らなくなってしまった。

陸がミルキーを連れて帰ったのはそんな時だった。バスケットの中で小さく震えて鳴いていたミルキー。

「俺がパパで、お前がママだ」彼は車椅子の前にしゃがみ込み、必死に汐里を笑わせようとしてくれた。

そんな陸に、自分は掠れた声でこう言ったのだ。「陸って猫アレルギーでしょ?」

しかし、陸は無邪気に笑っていた。「そんなもん、薬を飲めばいいんだよ。それに、お前が喜んでくれるのが一番だからさ」

そして本当に、陸は抗アレルギー薬を飲み始めたのだった。

夜中にリビングから咳き込む音が聞こえることもあった。

心配で見に行くと、彼はいつも笑って「大丈夫だから、寝てて」と言ってくれた。

腕の中で動いたミルキーが、汐里を記憶の世界から現実に引き戻す。

ミルキーを下ろした後の手に残るぬくもりに、少し頭がぼんやりした。

あの寄り添ってくれた日々や、不器用な慰めの中に、いったいどれほどの真実があったのだろう。

汐里は目を閉じ、深く息を吐き出した。

再び開かれた瞳には、微かな揺らぎすらない。

コートを脱ぎ、階段を上ろうとしたその時……

「汐里?」

入り口から陸の声がし、足音が近づいてくる。

振り返ると、雨に濡れ、髪が少し乱れた陸が立っていた。

陸はそのまま汐里に近づいてきて、抱き上げると、甘い口づけを落とした。

「遅くなってごめん。残業でさ」彼が甘えるような声で囁く。「木下社長の相手、お疲れ様」

その帰宅が遅れた理由を聞いて、汐里は思わず笑いそうになった。

2時間前、この男が玲の腰に手を回しているのを、自分は確かにこの目で見たのに。

それは、彼にとっての残業らしい。

胃が締め付けられるように痛んだが、そんなことを表情には微塵も表さない。

「うん、大丈夫。お仕事お疲れ様」

陸は汐里を下ろすと、床にいた子猫を持ち上げてキスをした。「いい子にしてたか?」

それから、陸はポケットからシルクの箱を取り出して、汐里に手渡す。

「はい、これ。遅くなっちゃったから、そのお詫び」

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