夫が女の車仲間を新居に招いたので、離婚した第3話
この話は約1872字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
ほかの運転仲間たちはその言葉を聞くと、口々にからかい始めた。
「うわ、四万円の香水かよ。さすが佑樹さん、優奈ちゃんには気前いいなあ」
「ほんとそれ。前に俺が香水くれって言ったら、失せろって言われたのに、ははは」
「優奈ちゃんはみんなの愛されキャラだしな。佑樹が甘やかしてても不思議じゃないだろ?」
優奈はあわてて手を振った。「もうもう、やめてよ。これ以上言ったら、詩織ちゃんが気を悪くしちゃうよ」
そう言って、彼女は振り向き、不安そうに私を見た。
「詩織ちゃん、怒ってないよね?」
ひとりの運転仲間が言った。
「何を怒るんだよ。佑樹の奥さんがいちばん気立ていいの、みんな知ってるだろ。
前なんか、俺ら毎晩遅くまでゲームしてて、うちの嫁はやきもち焼いてたのに、詩織さんは全然焼かなかった。それが器ってもんだよ」
「そうそう。お前と佑樹がペアアイコンにしても、車の後ろにおそろいのカップルチャームぶら下げてても怒らなかったしな。お前が離婚して落ち込んでるからって、わざわざ香水まで買って慰めるなんて、その友情ほんと羨ましいわ」
私は優奈を見つめ、一語一語区切るように言った。「離婚って?何の離婚?」
彼女はしまったというふうにあわてて口を押さえ、気まずそうな顔をした。
「ごめん、ごめん、うっかりしてた。
私が離婚したこと、あなたには言わないでって、佑樹には頼んでたの。よくないと思って。
そのこと、すっかり忘れてた」
彼女は私の前で、いかにも後悔しているような顔を作っていた。
でも、その態度で知るべきことは全部、私の目の前にさらしてしまっていた。
ほかの運転仲間たちは、面白がるような顔で私を見ていた。
私はひそかに手を握りしめた。指先が掌に食い込み、針で刺すような痛みが走った。
四万円。
彼は、形だけの記念日なんて好きじゃないと言っていた。私が花が好きだと知っていても、花屋の前を通りかかれば平然と見ないふりをした。
それなのに、女の車仲間には、ためらいもなく四万円もする香水を贈っていた。
彼には向上心がなく、仕事もすぐ油を売っては休んでしまうような調子で、月給だってどうにか15万円に届く程度だった。
そんな高い香水を買う余裕なんて、どこにあるの?
私の給料を全部、彼が握っていたからに決まってる。
私が甘やかしすぎたんだ。
彼女は私の様子をうかがうようにして言った。「詩織ちゃん、私が離婚してるのにあなたの家に来たの、縁起悪いって思ったりしないよね?」
鼻の奥がつんとして、たまらなくなった。
ちょうどそのとき、夫の佑樹がキッチンから出てきた。「ほら、食べよう!」
「詩織ちゃん、ちょっと手伝って。食器出してくれ」
すると優奈がすぐ立ち上がった。「私が手伝うよ。詩織ちゃんはもう少し休ませてあげなよ」
ほかの運転仲間たちも、それに続いてテーブルのほうへ向かった。
私は拳を握りしめたまま、無理やり怒りを押し込み、気持ちを立て直した。
人に気づかれないよう何度も深呼吸して、ようやく骨の奥まで食い込むような痛みを押さえつけた。
私は忘れ物を取りに行くのを口実にして、下へ降りた。そして優奈の車の後ろを見た。
クレヨンしんちゃんに出てくるネネちゃん。
佑樹がクレヨンしんちゃん好きで、自分の車にクレヨンしんちゃんのチャームをつけていることは、ずっと前から知っていた。
でも私は知らなかった。
彼が優奈のために、おそろいのカップル仕様まで買っていたなんて。
私はネネちゃんとクレヨンしんちゃんのチャームを一気にもぎ取り、そのままゴミ箱へ放り込んだ。
忘れ物を手に取ったところで、一本の手が伸びてきて、それを私の手から取っていった。「待ってろって言ったのに、なんで先にひとりで降りてきたんだよ」
私は黙って足元を見つめ、それから笑った。「大丈夫」
上に戻ると、もう酒盛りが始まっていた。
飲むつもりらしかった。
私はキッチンに入り、彼のスマホを持ち出して、そのままトイレに入って中を確認した。
私たちはこれまで、お互いのスマホを見たことがなかった。互いを信じきっていたからだ。
だから彼も、私を少しも警戒していなかった。
私は簡単にロックを解除し、彼らのグループチャットを開いた。
内容は雑多だった。乗客の愚痴、どこまで送ったか、何に出くわしたか、そういうことをみんなでグループに流していた。
彼のメッセージアプリのアイコンは、ペアアイコンではなかった。
逆に、優奈は別の誰かとペアアイコンにしていた。
心臓が激しく鳴り始めた。
そういえば彼には、もうひとつ裏のアカウントがあったと思い出し、そちらにもログインしてみた。
やっぱりペアアイコンだった。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)
第4話は公式アプリで
当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。
R83901- 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
- アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。