夢見る貴方は真冬に降る雪の如き第1話
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「平野さん、当時約束した期間は十年でしたよね。もう期限になったし、音夢を連れてこの家から出ていきたいのです。
知ってるはずです。彼はずっとあの子のこと、気に入らなくて」
茶房で、時光美波(ときみつ みなみ)は苦笑いを浮かべながら、話していた。
十年も平野冬雪(ひらの ふゆき)のそばにい続けてきたのに、彼の心は尚氷のように冷たかった。
しかしあの日、酔っ払った冬雪は彼女をベッドに押し倒し、情欲にかけられ、あの子ができてしまった。
その後、美波は一軒家をもらい、音夢を産む許可ももらったが、冬雪は未だ恋人がいることを公表していないから、唯一の条件として、音夢が彼のことを「パパ」と呼ぶことは許されなかった。
「一生お前と結婚したりしないから、諦めろ。
子育て費用は俺が払う。ただし、こいつが自分の娘だなんて認めると思うなよ。俺に娘なんていない」
* * *
「平野さん、当時約束した期間は十年でしたよね。もう期限になったし、音夢(ねむ)を連れてこの家から出ていきたいのです。
知ってるはずです。彼はずっとあの子のこと、気に入らなくて」
茶房で、時光美波(ときみつ みなみ)は苦笑いを浮かべながら、話していた。
十年も平野冬雪(ひらの ふゆき)のそばにい続けてきたのに、彼の心は尚氷のように冷たかった。
十年前、冬雪の初恋は彼を振って、海外に行ってしまった。それから、ショックを受けた冬雪は毎日酒を浴びて、退廃した日々を過ごしてきた。
見ていられなくなった冬雪の母は、二億円で美波を渡し、十年間冬雪のそばにいてあげることを頼んだ。
学生時代から冬雪を慕っていた美波はそう頼まれて、思わず二つ返事をした。
それから、冬雪に振り向いてほしくて、彼女は色々頑張ってきた。
冬雪の機嫌が斜めの時、一生懸命笑わせようとしていた。
冬雪の体調が優れない時、世話をしてあげるために一夜休まず、病院で駆け回っていた。
冬雪の胃が弱いと知った時、わざわざ料理の作り方を学んで、自ら彼の食生活を支えてきた。
彼女は冬雪を失恋の沼から引っ張り上げ、ずっとそばにいてあげてきたのに、所詮彼の中では何者にもなれず、単なる片思いでしかなかった。
彼の友達が雑談の時に、「あの人は一体何者なんだ?」と彼に聞くのが、美波の耳に入ってきた。
その時、冬雪はただ微笑みながら、何も言わなかった。
しかしあの日、酔っ払った冬雪は彼女をベッドに押し倒し、情欲にかけられ、あの子ができてしまった。
その後、美波は屋敷をもらい、音夢を産む許可ももらったが、冬雪は未だ恋人がいることを公表していないから、唯一の条件として、音夢が彼のことを「パパ」と呼ぶことは許されなかった。
「一生お前と結婚したりしないから、諦めろ。
子育て費用は俺が払う。ただし、こいつが自分の娘だなんて認めると思うなよ。俺に娘なんていない」
「音夢が彼のことを『パパ』と呼ぶことは許されない」というのは本気で、冬雪は心を鬼にした。
音夢が三歳の時に、うっかり彼のことを「パパ」と呼んでしまったことで、彼に丸一日中足留めを食わされて、喉を枯らしてまで泣いていた。
四歳の時に、彼の手を繋いでしまったことで、力強く押しのけられて、階段の下まで転んでしまって、骨折するところだった。
しかし昨日、冬雪は嬉しそうに帰ってきて、音夢にプレゼントを持ってきただけでなく、彼女の誕生日を祝ってあげると約束した。
音夢は狂ってしまうほど嬉しかった。
「パパはちょっとだけ自分のことが気に入ってくれたのかな」と問い続けていた。
けれど美波は誰よりもわかっていた。冬雪が嬉しそうにしているのは、彼の初恋が帰国したからだった。
彼があの女を誰よりも優しく可愛がって、あの女の子供を抱き上げながら、「パパと呼んで」と親しく言い続けている光景が、美波の目に映った。
その瞬間から、美波の心は死んだのだ。
冬雪の母がそれを聞いて、深くため息をついた。
「まあいい。もう決意したんなら、無理強いはしない」
家に帰ってきたら、美波は荷物を片付け始めた。
五歳の音夢はドアの外から入ってきて、少し腫れた瞼で問いかけた。
「ママ、わたしたち、ほんとにパパから離れるの?」
娘を見た瞬間、美波は動揺していた。
「パパの好きな人が帰ってきたからね。これ以上ここにいるのはよくないわ」
冬雪は彼女のことも、音夢のことも愛していなかった。
その彼の本気で愛している人が帰ってきた以上、彼女たちはもうこの家にいられない。
美波はしゃがんで、音夢に言い続けた。
「ママと一緒にここを離れて、海外で暮らそう、ね?」
音夢はませた子供なので、この話の意味がわかっていた。
彼女は頭を下げて、涙を堪えながら言った。
「パパは約束してくれたの。誕生日を祝ってくれるって。遊園地に連れてくれるって。
まだ一度もパパと遊園地に行ったことがないのに……」
彼女がどれほど父からの愛を欲しているか、美波にはわかっていた。
一度も父に見向きされたことのない子供が、いきなり一緒に遊ぶ約束をされたら、例え無謀だとしてもやってみたいのであろう。
音夢はまた瞼を濡らした。
「どうしてもパパに誕生日を祝ってほしかったの。最後に三回だけチャンスをあげてみない?
やっぱりパパに嫌われてるなら、ここを離れよう」
音夢の涙目を見て、美波は心を痛めて、この子を抱きしめた。
結局、音夢の涙には勝てなかった。
「わかった。そうするわ。最後にパパに三回だけチャンスを与えよう」
三日後は音夢の誕生日だ。
彼女は最後に冬雪に三回だけチャンスを与えることにした。
結局、彼は音夢と自分をがっかりさせてしまうのなら、音夢を連れて彼の目の前から跡も残らず消える!
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