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夢のような浮世、目覚めの刻に第2話

この話は約1942字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

諒の顔色がさっと変わり、視線を逸らして慌てて否定した。

「そんなわけないだろ? 変なこと考えるな」

一夏の表情が沈んでいるのに気づくと、諒は彼女を抱き寄せ、耳元で優しく囁いた。

「君は……まだ目を覚ましたばかりなんだ。医者が言ってたよ――あまり疲れさせないように、なるべく人に会わせない方がいいって」

「この数日、母さんたちが来なかったのも、医者の指示に従っただけだ。俺だって……君には一日も早く元気になってほしい。退院したら、毎日そばにいるから」

一夏は聞きたかった――あの日の女性と子供は一体誰なのか、と。だが、諒の顔は懐かしいようで、どこかよそよそしく感じられ、言葉は喉の奥で詰まってしまった。

諒は一夏の母・椎名梓(しいな あずき)が持ってきた弁当を手に取ると、眉をひそめた。

「ほら、ちゃんとご飯食べていないじゃないか。五年も寝たきりだったんだから、起きたからには栄養をつけないと。もう少し食べて、ね?」

「でも……もう冷めちゃってるし、それにあまり好きじゃないおかずもあるの」

一夏は今にも泣き出しそうな声で訴えた。

この数日、母が持ってきた食事はいつも冷たく、好物もほとんど入っていない。肉じゃがなのに、ほとんどがじゃがいもばかりで、肉はわずかしか入っていない。

諒は一瞬言葉を詰まらせ、顔がわずかに強張ったが、すぐに一夏の頬をつまみ、笑顔を作った。

「確かに、冷めてしまったね。温め直してくるよ。もし口に合わないなら、帰ったら梓さんに伝えておくね。きっと医者に言われたから、あのようなあっさりしたものだけを持ってきたんだと思うよ」

長年愛してきた男の穏やかな眼差しと、優しい口元の笑みに、一夏の心はふっと揺れた。もしかしたら本当に、自分の思い過ごしだったのかもしれない――そんな気がしてきた。退院前夜、一夏は胸を弾ませながら諒に電話をかけた。

「明日、何時に迎えに来てくれる?」

受話器の向こうは長い沈黙。

諒は口ごもり、なかなか答えなかった。

しばらくしてから、ようやく「梓さんに食事を届けさせるから、そのついでに迎え行かせる」と曖昧に言った。

その時――電話口から女の甘えた声が漏れ聞こえた。

「諒、早く来て。このふた、どうしても開けられないの」

電話はぶつりと切れた。

耳に残っているのは無機質な「ツーツー」の音。

その音はまるで胸を打つように響き、一夏の心は一気に冷え込んだ。

――彼にとって、退院する予定の自分よりも、彼女のために瓶のふたを開けることの方が大事だったのだろうか。

一夏は朝から夜まで、病院で待ち続けた。まるで捨てられた子供のように。

彼女は誰かが迎えに来てくれるのを待っていたが、太陽が沈むにつれて、その期待は徐々に闇に飲み込まれていった。

結局、誰も来なかった。弁当を持ってくるはずの母の姿さえも現れなかった。

彼女は覚悟を決めていた、決めていたはずなのに、実際に置き去りにされたと気づいた瞬間、胸の奥は鋭い痛みに襲われた。

5年という時間は、本当に多くのことを変える。

重い足取りで家の前に立ち、ドアロックの「指紋が認識できません」という冷たい電子音が響いた瞬間、一夏はとうとう堪えきれずに大声で泣き崩れた。

目覚めてからの悲しさや迷い、不安が、一気に溢れ出した。

しばらくして、ドアが開き、梓が姿を現した。娘を見た彼女の目には、驚きが色濃く浮かんでいた。まるで帰ってくるとは思っていなかったかのように。

部屋の中では明かりが灯り、家族全員が食卓を囲んで楽しそうに夕食を取っている。

一夏は顔を拭い、涙をこらえながら尋ねた。

「ママは、どうして迎えに来てくれなかったの?」

梓はばつが悪そうに笑い、言い訳を口にした。

「いや…母さんも年でね、最近物忘れがひどくて。あとで弁当を持って行こうと思ってたのよ。お帰り、ちょうど食事中だったから、ほら、一緒に食べよう」

一夏の視線は食卓へ――そこには色とりどりの料理が並んでいた。

彼女は気づいた。この数日、自分が食べていたのは、どうやら彼らの残り物だったらしい。それがために肉が少なく、しかも冷たかったのだ。

吐き気と嫌悪感が一気に込み上げ、胃の中で波が打つような感覚が広がり、彼女の心は完全に凍りついた。

諒が席を立ち、一夏を手招きした。

「ほら、こっちにおいで」

だが、そこにはすでに星奈と文弘が座っていて、一夏の席はどこにもなかった。

空気が一瞬にして凍りつき、誰もが気まずそうに固まった。

一夏は冷ややかに笑った。――どこまでこの茶番を続けるつもりなのか、この男。

諒はどうしようもなくなり、星奈に文弘を連れて二階へ行くよう促した。

星奈は少し驚いた様子で諒を見た後、すぐにうつむき、自分のお腹を撫でながら、声を震わせて言った。

「でも……まだご飯を食べてないの。赤ちゃんが……」

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