夢に散る花、君にさよなら第1話
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同窓会の二次会。
クラスのマドンナだった林堂小夜花(りんどう さやか)と、片瀬水輝(かたせ みずき)が相性ゲームで次々と正解を出し、周囲の熱気は最高潮に達していた。
「相性度ナンバーワンの祝杯だ」と囃し立てられるまま、ぴったりと身を寄せてグラスを飲み干す二人。耳まで真っ赤に染まった彼らを見つめながら、私は目の奥がツンと熱くなるのを堪えていた。
「なに、まだ不貞腐れてんの?」
隣に座る同級生が、私――片瀬結音(かたせ ゆね)を横目で見て鼻で笑う。
「さっきのゲーム、水輝は結音がワサビ苦手なことすら知らなかったじゃん。あの二人、学生時代からずっと両想いだったんだから、ようやく結ばれるってわけよ。みっともないから、もうつきまとうのやめなよ」
私は何も言い返せず、ただ視線を逸らした。
「ずっと両想いだったから、ようやく結ばれる」?
――私と水輝が、極秘結婚してすでに3年になるというのに。
今日こそみんなに打ち明けようと思っていた矢先、当の夫は別の女と腕を絡ませて笑っている。
喧騒の中、スマホが震えた。水輝からのメッセージだった。
【怒らないでくれよ。今日は仕事の繋がりもある連中がいるから、ただ場の空気に合わせただけだって】
【そのうちちゃんと、二人の関係を公表するからさ】
それを見て、ふっと乾いた笑いが漏れた。
テーブルの向こうで私を見た水輝は、機嫌が直ったと勘違いしたのか、安堵したように微笑み返してくる。
違うよ。私が笑ったのは――もう公表なんてしなくていい、と思ったからだ。
誰にも言えず、こそこそと隠し続けるだけの結婚生活は、もう終わりにしよう。
* * *
同窓会の二次会。
クラスのマドンナだった林堂小夜花(りんどう さやか)と、片瀬水輝(かたせ みずき)が相性ゲームで次々と正解を出し、周囲の熱気は最高潮に達していた。
「相性度ナンバーワンの祝杯だ」と囃し立てられるまま、ぴったりと身を寄せてグラスを飲み干す二人。耳まで真っ赤に染まった彼らを見つめながら、私は目の奥がツンと熱くなるのを堪えていた。
「なに、まだ不貞腐れてんの?」
隣に座る同級生が、私――片瀬結音(かたせ ゆね)を横目で見て鼻で笑う。
「さっきのゲーム、水輝は結音がワサビ苦手なことすら知らなかったじゃん。あの二人、学生時代からずっと両想いだったんだから、ようやく結ばれるってわけよ。みっともないから、もうつきまとうのやめなよ」
私は何も言い返せず、ただ視線を逸らした。
「ずっと両想いだったから、ようやく結ばれる」?
――私と水輝が、極秘結婚してすでに3年になるというのに。
今日こそみんなに打ち明けようと思っていた矢先、当の夫は別の女と腕を絡ませて笑っている。
喧騒の中、スマホが震えた。水輝からのメッセージだった。
【怒らないでくれよ。今日は仕事の繋がりもある連中がいるから、ただ場の空気に合わせただけだって】
【そのうちちゃんと、二人の関係を公表するからさ】
それを見て、ふっと乾いた笑いが漏れた。
テーブルの向こうで私を見た水輝は、機嫌が直ったと勘違いしたのか、安堵したように微笑み返してくる。
違うよ。私が笑ったのは――もう公表なんてしなくていい、と思ったからだ。
誰にも言えず、こそこそと隠し続けるだけの結婚生活は、もう終わりにしよう。
周囲の囃し立てる声は、さらに大きくなっていった。
誰かがテーブルを叩いて叫ぶ。
「水輝!今や小夜花は、株式会社シラトリの白鳥社長の超お気に入りなんだぜ。あの大型案件を取りたいなら、まずは小夜花様のご機嫌を取るのが必須条件だな!
いっそのこと、お前らくっついちゃえばいいじゃん。そうすりゃ商談もスムーズだろ?
俺たち恋のキューピッドなんだから、めでたくゴールインした暁には特上の焼肉でも奢ってもらわないとな!」
水輝は小夜花を庇うように一歩前に出ると、目尻に甘い笑みを浮かべた。
「小夜花は女の子なんだから、お前らあんまりからかうなよ」
すると小夜花は恥じらうように頬を赤く染め、水輝の肩を軽く押し返しつつ困ったように笑ってみせる。
「もう、やめてよ。結音だっているんだから。結音が水輝のことをずっと好きなの、みんな知ってるでしょ?冗談も少しは配慮してあげてよね」
相変わらずの、気配り上手を装った当てこすりだ。
その言葉が出た途端、場の喧騒がわずかに引いた。
そして全員の視線が、部屋の隅に座る私へといっせいに突き刺さる。
別の誰かが、露骨な嘲笑を浮かべて吐き捨てた。
「同じ大学までストーカーみたいに追いかけて入学したって、何の意味もねえよな。散々媚びへつらっても、結局は脈ナシってことじゃん」
そんな心ない言葉を聞いても、水輝は眉一つ動かさない。
「よせよ。俺たち、同じクラスの仲間なんだから」
グラスを持った私の手がピタリと止まる。
同級生になって十年。片思いが五年。
そして――極秘に結婚してから三年。
なのに、みんなの前ではただの「同じクラスの仲間」。
水輝は息をするように自然に、私との関係を綺麗さっぱり切り捨てるのだ。
その結果として私がいつも通りクラスの笑い者になっても、水輝にとっては痛くも痒くもない些細な問題なのである。
「水輝はマジで優しすぎだろ。結音みたいな陰キャ女に何年もまとわりつかれて、よく平気な顔してられるよな」
「本当それ。俺だったらキモすぎて速攻で逃げるぜ」
「自分の身の程を知れって話。本気で水輝と釣り合うとでも思ってんのか?」
「どう見ても、小夜花と水輝がベストカップルだろ。あいつなんてただのピエロじゃん」
悪意に満ちた言葉が、容赦なく鼓膜を叩く。
私は何も言い返さず、ただ静かにグラスの酒を煽った。
こんな屈辱的な言葉は、水輝と出会い、想いを寄せていると周囲に知られたあの日から、一度だって途絶えたことがなかったのだから。
スマホが震え、水輝からまたメッセージが届いた。
【そう不機嫌になるなって。一人でやけ酒もやめとけ。胃の調子、まだ完全によくなってないんだから】
自嘲気味に口角を上げ、私はスマホを裏返してテーブルに置いた。
私が今日までこの秘密の結婚生活を耐え続けられた理由は、きっとこれなのだ。
『先に好きになった方が負け』。
16歳の時、バスケットコートで水輝の姿を初めて見たあの日から、私はずっと負けっぱなしだった。
水輝を追いかけて遠く離れた街の大学に進学し、就職も水輝に合わせて見知らぬこの都会に残った。
私が水輝に夢中で、自分のすべてを捧げているなんてことは、共通の知人なら誰もが知っている事実だ。
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