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夢に散る花、君にさよなら第1話

この話は約2626字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

同窓会の二次会。

クラスのマドンナだった林堂小夜花(りんどう さやか)と、片瀬水輝(かたせ みずき)が相性ゲームで次々と正解を出し、周囲の熱気は最高潮に達していた。

「相性度ナンバーワンの祝杯だ」と囃し立てられるまま、ぴったりと身を寄せてグラスを飲み干す二人。耳まで真っ赤に染まった彼らを見つめながら、私は目の奥がツンと熱くなるのを堪えていた。

「なに、まだ不貞腐れてんの?」

隣に座る同級生が、私――片瀬結音(かたせ ゆね)を横目で見て鼻で笑う。

「さっきのゲーム、水輝は結音がワサビ苦手なことすら知らなかったじゃん。あの二人、学生時代からずっと両想いだったんだから、ようやく結ばれるってわけよ。みっともないから、もうつきまとうのやめなよ」

私は何も言い返せず、ただ視線を逸らした。

「ずっと両想いだったから、ようやく結ばれる」?

――私と水輝が、極秘結婚してすでに3年になるというのに。

今日こそみんなに打ち明けようと思っていた矢先、当の夫は別の女と腕を絡ませて笑っている。

喧騒の中、スマホが震えた。水輝からのメッセージだった。

【怒らないでくれよ。今日は仕事の繋がりもある連中がいるから、ただ場の空気に合わせただけだって】

【そのうちちゃんと、二人の関係を公表するからさ】

それを見て、ふっと乾いた笑いが漏れた。

テーブルの向こうで私を見た水輝は、機嫌が直ったと勘違いしたのか、安堵したように微笑み返してくる。

違うよ。私が笑ったのは――もう公表なんてしなくていい、と思ったからだ。

誰にも言えず、こそこそと隠し続けるだけの結婚生活は、もう終わりにしよう。

* * *

同窓会の二次会。

クラスのマドンナだった林堂小夜花(りんどう さやか)と、片瀬水輝(かたせ みずき)が相性ゲームで次々と正解を出し、周囲の熱気は最高潮に達していた。

「相性度ナンバーワンの祝杯だ」と囃し立てられるまま、ぴったりと身を寄せてグラスを飲み干す二人。耳まで真っ赤に染まった彼らを見つめながら、私は目の奥がツンと熱くなるのを堪えていた。

「なに、まだ不貞腐れてんの?」

隣に座る同級生が、私――片瀬結音(かたせ ゆね)を横目で見て鼻で笑う。

「さっきのゲーム、水輝は結音がワサビ苦手なことすら知らなかったじゃん。あの二人、学生時代からずっと両想いだったんだから、ようやく結ばれるってわけよ。みっともないから、もうつきまとうのやめなよ」

私は何も言い返せず、ただ視線を逸らした。

「ずっと両想いだったから、ようやく結ばれる」?

――私と水輝が、極秘結婚してすでに3年になるというのに。

今日こそみんなに打ち明けようと思っていた矢先、当の夫は別の女と腕を絡ませて笑っている。

喧騒の中、スマホが震えた。水輝からのメッセージだった。

【怒らないでくれよ。今日は仕事の繋がりもある連中がいるから、ただ場の空気に合わせただけだって】

【そのうちちゃんと、二人の関係を公表するからさ】

それを見て、ふっと乾いた笑いが漏れた。

テーブルの向こうで私を見た水輝は、機嫌が直ったと勘違いしたのか、安堵したように微笑み返してくる。

違うよ。私が笑ったのは――もう公表なんてしなくていい、と思ったからだ。

誰にも言えず、こそこそと隠し続けるだけの結婚生活は、もう終わりにしよう。

周囲の囃し立てる声は、さらに大きくなっていった。

誰かがテーブルを叩いて叫ぶ。

「水輝!今や小夜花は、株式会社シラトリの白鳥社長の超お気に入りなんだぜ。あの大型案件を取りたいなら、まずは小夜花様のご機嫌を取るのが必須条件だな!

いっそのこと、お前らくっついちゃえばいいじゃん。そうすりゃ商談もスムーズだろ?

俺たち恋のキューピッドなんだから、めでたくゴールインした暁には特上の焼肉でも奢ってもらわないとな!」

水輝は小夜花を庇うように一歩前に出ると、目尻に甘い笑みを浮かべた。

「小夜花は女の子なんだから、お前らあんまりからかうなよ」

すると小夜花は恥じらうように頬を赤く染め、水輝の肩を軽く押し返しつつ困ったように笑ってみせる。

「もう、やめてよ。結音だっているんだから。結音が水輝のことをずっと好きなの、みんな知ってるでしょ?冗談も少しは配慮してあげてよね」

相変わらずの、気配り上手を装った当てこすりだ。

その言葉が出た途端、場の喧騒がわずかに引いた。

そして全員の視線が、部屋の隅に座る私へといっせいに突き刺さる。

別の誰かが、露骨な嘲笑を浮かべて吐き捨てた。

「同じ大学までストーカーみたいに追いかけて入学したって、何の意味もねえよな。散々媚びへつらっても、結局は脈ナシってことじゃん」

そんな心ない言葉を聞いても、水輝は眉一つ動かさない。

「よせよ。俺たち、同じクラスの仲間なんだから」

グラスを持った私の手がピタリと止まる。

同級生になって十年。片思いが五年。

そして――極秘に結婚してから三年。

なのに、みんなの前ではただの「同じクラスの仲間」。

水輝は息をするように自然に、私との関係を綺麗さっぱり切り捨てるのだ。

その結果として私がいつも通りクラスの笑い者になっても、水輝にとっては痛くも痒くもない些細な問題なのである。

「水輝はマジで優しすぎだろ。結音みたいな陰キャ女に何年もまとわりつかれて、よく平気な顔してられるよな」

「本当それ。俺だったらキモすぎて速攻で逃げるぜ」

「自分の身の程を知れって話。本気で水輝と釣り合うとでも思ってんのか?」

「どう見ても、小夜花と水輝がベストカップルだろ。あいつなんてただのピエロじゃん」

悪意に満ちた言葉が、容赦なく鼓膜を叩く。

私は何も言い返さず、ただ静かにグラスの酒を煽った。

こんな屈辱的な言葉は、水輝と出会い、想いを寄せていると周囲に知られたあの日から、一度だって途絶えたことがなかったのだから。

スマホが震え、水輝からまたメッセージが届いた。

【そう不機嫌になるなって。一人でやけ酒もやめとけ。胃の調子、まだ完全によくなってないんだから】

自嘲気味に口角を上げ、私はスマホを裏返してテーブルに置いた。

私が今日までこの秘密の結婚生活を耐え続けられた理由は、きっとこれなのだ。

『先に好きになった方が負け』。

16歳の時、バスケットコートで水輝の姿を初めて見たあの日から、私はずっと負けっぱなしだった。

水輝を追いかけて遠く離れた街の大学に進学し、就職も水輝に合わせて見知らぬこの都会に残った。

私が水輝に夢中で、自分のすべてを捧げているなんてことは、共通の知人なら誰もが知っている事実だ。

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