夜風に醒める心第3話
この話は約1370字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
翔真がスマホを覗き込み、画面に浮かんだ文字を見た瞬間、口元にかすかな笑みが浮かんだ。
彩花もメッセージを確認する。送り主は美月だった。
【お姉ちゃん、さっきから翔真くんはお姉ちゃんと一緒だったよね?そろそろ返して?】
その一文を見ただけで、美月の得意げな表情が目に浮かぶようだった。
彩花は無言で画面を消す。
顔を上げれば、翔真と目が合った。彼は申し訳なさげな笑みを浮かべる。
「彩花、悪いな。緊急の会議が入っちゃって、もう出なきゃいけないんだ。終わったらすぐ帰るから、なぁ?」
優しく聞こえる言葉に、拒絶を許さぬ響きがあった。
彩花は皮肉めいた笑みを浮かべ、じっと彼を見つめて問いかける。
「……行かなきゃダメなの?」
わずかにためらった後、翔真は強くうなずいた。
「ああ」
「そう、いってらっしゃい」
あまりにあっさりとした返事に、翔真はかえって言葉を失い、結局何も言わぬまま部屋を出ていった。
再び一人きりになった部屋で、彩花の脳裏に浮かんだのは、翔真が口にしたピンクダイヤのネックレスだった。
ずっと前から心に留めていた品。今のうちに、自分で買ってきてこよう――そう思い立ち、彩花は支度をして家を出た。
ところが百貨店に足を踏み入れた瞬間、視界に飛び込んできたのはあまりにも見慣れた二人の背中。
翔真と、その隣に並ぶ美月。
そして美月の手には、まさに彩花が長く憧れていたピンクダイヤのネックレスが握られていた。
彩花は迷わず歩み寄り、店員に声をかけた。
「すみませんが、そのネックレス、確かシリーズ最後の一点よね?半年前に予約したのは私だけど」
店員は三人を交互に見やり、戸惑いを隠せない。
――わずか半年の間に、この男性の隣にいる女性が入れ替わったことに気づいたのだろう。
彩花が現れたことに翔真は言葉を詰まらせた。
「俺は……取引先への贈り物を探しに来てて、偶然、美月ちゃんと会ったんだ。それで……」
しかし彩花は彼の言葉を無視し、視線を外さぬまま店員に告げる。
「ネックレスのお会計をお願い」
店員は困ったように首を傾げた。
「ですが……ご予約は藤原様のお名前で承っておりまして……」
その時、美月が涙をにじませながらネックレスをそっとトレイに戻した。
「これはもともとお姉ちゃんのものだもんね。私なんかが手を出しちゃいけなかった。二十年も家を離れてたから、こんな素敵なもの、見たこともなかったの、だからつい欲しくなっちゃって……翔真くんを困らせちゃったね」
その健気な言葉に、案の定、翔真の表情が揺れる。彼は彩花を責めるような眼差しを向けた。
「彩花、姉なんだから妹に譲ってやれ。お前は何だって手にしてきたじゃないか、たかがネックレスにこだわる必要はない。
この二十年間、美月ちゃんは十分つらい思いをしてきたんだ。少しぐらい思いやってやれよ」
そう言い放つと、翔真は店員に向き直る。
「会計を頼む」
会計を済ませると、美月は嬉しそうにそのネックレスを見つめ、甘えた声で囁いた。
「ありがとう、翔真くん……つけてくれる?」
「もちろんだ」
翔真は彼女の髪をそっとかき上げ、ネックレスをつけてあげた。
数千万円の輝きが美月の胸元で揺れた瞬間、彼女は眉を上げて彩花に挑発的な笑みを投げかける。
彩花は黙って踵を返した。
だが背後から、美月の甘い声が追いかけてくる。
「お姉ちゃん、どこ行くの?もしかして怒ってるの?」
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