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夕風はもう吹かない第3話

この話は約1969字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

8年間、由理恵と真司は愛し合ってきた。由理恵にとって、世界で一番自分を分かってくれるのは真司だけだと思っていた。

でも、結局、それは全部自分の独りよがりだった。

誰かを精神的に追い詰めるのは、一瞬の出来事じゃない。

二人の関係も失望が積み重なって、止めを刺された時こそ、終わりが近づくわけだ。

だから、真司からのメッセージを見た由理恵は涙を拭うと、一言だけ返信した。

【うん】

――

3日後、由理恵は退院した。

その間、真司から連絡は一切なく、由理恵も彼に連絡しなかった。

けれど、由理恵の心はすでに決まっていた。

「野口さん、子宮外妊娠でしたけど、これも立派なお産みたいなものですからね。家に帰ったらなるべく栄養をたくさんとって、ゆっくり休んでくださいね」

ヘルパーは、まるで自分の娘を見るように、優しく由理恵に言い聞かせた。

それを聞いて、由理恵は微笑んで、彼女を抱きしめた。

「本当にありがとうございます。自分のことは、ちゃんとできますから、安心してください」

本当は、旦那とちゃんと話した方がいいと言いたかった。でも、自分の妻が子宮外妊娠で大変な時に一度も顔を見せないなんて、ろくな男じゃないのだろうとヘルパーは思ったが、これ以上は何も言えなかった。

こうして、ヘルパーに別れを告げると、由理恵は一人で病院の出口へ向かった。

しかし、数歩も歩かないうちに、後ろから声をかけられた。

「由理恵?」

由理恵が振り返ると、大きなお腹を抱えた親友の凪が立っていた。

「どうして病院にいるの?すごい顔色悪いけど、どうしたの?」

凪は、由理恵の顔色が悪いのにすぐ気づいた。そして、急いで数歩駆け寄り、彼女の前に立った。

一方で、「私、妊娠したの」そう言って由理恵は普段と変わらない落ち着いた様子だった。

凪は、由理恵がずっと妊活をしていたことを知っていた。だからお祝いを言おうとしたけど、由理恵の次の言葉に遮られた。

「でも、子宮外妊娠だったの。もう手術も終わったから、今日が退院なの」

「どうして教えてくれなかったのよ!」それを聞いて凪は少し怒った。でも、由理恵のことだから、きっと妊娠中の自分を気遣って言わなかったんだろうと分かっていた。

そう思って、凪は由理恵の手をぎゅっと握りしめ、心配そうに辺りを見回した。

「あれ?真司は?」

普段友人たちの間では、真司はいつも由理恵を愛してやまない様子で、彼女にほんの少しでも辛い思いをさせまいとする、完璧な夫の姿を貫いていたのだった。

だから、こんな時に真司がいないことを、凪はとても不思議に思った。

「彼の幼馴染のお母さんが入院しているから、その付き添いで私のことなんて構ってられないみたい」

「えっ?」

凪も、真司とその幼馴染の噂は少し聞いていた。でも、だからって、自分の妻が子宮外妊娠で手術したっていうのに、顔も出さないなんていうのはあまりにも並外れているのでは?

「大丈夫、もう終わったことだから。それより、あなたこそ一人なの?」

「今日が最後の検診で、夫がちょうど会計に行ってるの」

凪は、由理恵と真司のことをもっと聞きたかった。でも、彼女の顔色があまりにも優れないのを見て、それ以上は聞けなかった。

それでも、由理恵が呼んだタクシーがもうすぐ着く頃だったが凪は、彼女を一階まで送ると言ってきかなかった。

ところが、二人でエレベーターを降りたとたん、翠が真司の腕に絡みついているのが目に入った。

ふいに顔を合わせた四人は、誰もがきょとんとしてしまったのだ。

次の瞬間、真司は何かやましいことでもしたかのように、すぐに翠の手を自分の腕から振り払った。しかし、彼はまたすぐさま厳しい顔になった。

「由理恵、俺がここにいる理由はもうラインではっきり言ったはずだ。なのに、お前はそれでも俺をこんな風に尾行したり監視したりしているのか?いつからお前はそんな話の通じない女になったんだ」

「由理恵さん、お願いですから、もうやめてください」

一方で翠もそう言って、人通りの多い病院のロビーであることを顧みず、由理恵の前で涙ながらに訴え、泣き崩れた。

「翠、泣くな。こんなやつに構うことないさ」真司はすぐさま翠を支えようとした。

「真司さん、止めないで。私と母のことで由理恵さんが嫌な思いをしたんだから、ちゃんと話さないと」翠はそう言って、さらに続けた。「でも由理恵さん、母はもう長くないんです。だから、ほんの少しの間だけ真司さんに手を貸してもらいたいの、お願い、分かって」

そう言って、彼女はまた由理恵に頭を下げようとした。

一方で、真司は翠を止められず、由理恵を責め立てるしかなかった。

「由理恵、翠たちはお前に悪いことなんて何もしてない。お前の悪口ひとつ言ったこともないんだぞ。なのに、お前はこんな風に彼女らに辛く当たって、心が痛まないのか?お前ってこんなにも意地汚いやつだったんだな」

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