報われなかった青春を弔う第1話
この話は約2128字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
私は、あまり有名ではないけれど、愛に満ちたカップル垢をフォローしていた。
そこには、投稿者と彼氏の日常のささやかな出来事が綴られている。
彼らはラーメンを分け合うことで言い合いになっても、次の瞬間、互いの顔を見合わせると、相手を「大人になれない子どもだね」と笑い合った。
また、山頂の星空の下で強く抱き合い、「この瞬間で時間が止まってしまえばいいな」と語り合った。
投稿者は一度も顔を見せなかったけれど、彼女の言葉に、私は深く胸を打たれていた。
そして、私が結婚する前日、そのアカウントの投稿が再び更新された。
【十年にわたる恋は、ここで終わりを迎える。
これから彼は彼女の夫、私は彼女の親友になる。
このアカウントは更新を終了する。私のいちばん大切な友人と、彼女がいちばん愛している男が、永遠に幸せでありますように】
添えられていた写真は、私、松本彩織(まつもと さおり)と婚約者の後ろ姿だった。
* * *
私は、あまり有名ではないけれど、愛に満ちたカップル垢をフォローしていた。
そこには、投稿者と彼氏の日常のささやかな出来事が綴られている。
彼らはラーメンを分け合うことで言い合いになっても、次の瞬間、互いの顔を見合わせると、相手を「大人になれない子どもだね」と笑い合った。
また、山頂の星空の下で強く抱き合い、「この瞬間で時間が止まってしまえばいいな」と語り合った。
投稿者は一度も顔を見せなかったけれど、彼女の言葉に、私は深く胸を打たれていた。
そして、私が結婚する前日、そのアカウントの投稿が再び更新された。
【十年にわたる恋は、ここで終わりを迎える。
これから彼は彼女の夫、私は彼女の親友になる。
このアカウントは更新を終了する。私のいちばん大切な友人と、彼女がいちばん愛している男が、永遠に幸せでありますように】
添えられていた写真は、私、松本彩織(まつもと さおり)と婚約者の後ろ姿だった。
それは、先週、私たちがウェディングドレスの店にいたときに撮られた写真だった。
あのとき、葉月清美(はづき きよみ)は私のベールを整えながら、絶え間なくおしゃべりをしていた。
鏡の中で、彼女は私よりも楽しそうに笑っていて、まるでこれから結婚するのが彼女自身であるかのようだった。
「彩織、本当にきれいだね」彼女はふいに声を詰まらせ、「彩織の婚約者は、本当に幸せ者だね。彩織を妻に迎えられるなんて」と言った。
少し離れたところに、古井弘行(ふるい ひろゆき)が立っていて、スマホを見た。
自分の名前を聞いて、弘行は顔を上げ、私たちに向かって穏やかな笑みを浮かべた。
けれど、その笑顔の奥に、どこか無理をしているような影を感じてしまった。
「清美が大げさだよ」私は清美の手を握った。
「あなたが無理やり連れてこなかったら、たぶんウェディングドレスを適当に一着買って終わりにしてた」
「それはダメでしょ!」清美は目を見開いた。
「私のいちばん大切な親友が、一生に一度だけ迎える結婚式なんだから、適当になんてできない!」
彼女は弘行のほうを振り向いた。「ねえ、そう思わない?」
弘行はスマホをしまい、歩み寄って、自然な仕草で私の肩を抱いた。「どこが適当なんだよ。彩織は、何を着てもきれいに決まるだろう。
でも、このドレスは特に似合ってる」彼は私を上から下まで眺め、甘やかな声で言った。
その瞳には愛情が溢れていた。
ロケ撮影に出発する前、清美が突然、私たちを盗み撮りした。
フラッシュ音は消されておらず、私が振り返ると、彼女はただ「記念に撮りたくて」と言っただけだった。
結婚式前夜のパーティーで、私は酔いつぶれた。清美はごく自然に私を引き受け、世話をしてくれた。
弘行が迎えに来たとき、彼女は濡れタオルを手に、私の額を丁寧に拭いていた。
「彩織は私に任せて」彼女は弘行に言った。
「今夜は彼女の独身最後の夜よ。あなたは邪魔しちゃダメ」
弘行は入り口に立ったまま、中には入ってこなかった。
彼の視線は清美に落ち、その表情は複雑で読み取れなかった。
私はソファにもたれ、酔いで霞む目で二人を見ていた。
「弘行……」私は掠れるような声で彼の名を呼んだ。
すると彼はようやく私を見て、歩み寄り、私を抱き寄せた。「どうしてこんなに飲んだんだ?」
清美が笑って言う。「結婚が嬉しいに決まってるでしょ。
彩織は大学の頃から言ってたじゃない。いつか結婚する日が来たら、バチェロレッテ・パーティーでは絶対に潰れるまで飲むって。今日はやっと念願叶ったわね」
確かに、私はそんなことを言ったことがある。
清美と一緒に、ある恋愛映画を観ていたときのことだった。
あの頃、私たちは、お互いのブライズメイドになろうと約束した。
その後、私が恋をしても、その約束だけは変わらなかった。
弘行は私をそっと抱き上げ、清美に言った。「彼女の面倒を見てくれてありがとう」
「それは私がやるべきことよ」清美の声が、ふっと低くなった。「だって……これが最後だもの」
そのときの私は、ひどく酔っていて、その言葉に込められた意味に気づかなかった。
翌朝、ホテルで目を覚ました私は、スマホに届いた、フォローしているアカウントの最新投稿を目にした。
ぼんやりしたまま、その投稿を開く。
その瞬間、二日酔いの頭痛が、一気に醒めた。
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