執着の果て、私は光を掴む第2話
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蒼介彼は私の本心を探るかのように、じっとこちらを見つめていた。
「彼女とは幼馴染で、私よりも付き合いが長いし、婚約もご両親の意向なんでしょう?文句を言わないわ。
安心して、本当に辞めるから。やきもちを焼いてるわけでも、意地を張ってるわけでもないのよ」
蒼真はまだ何か言いたげに口を開きかけた。
だがその時、莉乃がひょっこりと顔を出し、オフィスの中から声をかけてきた。
「蒼真、私の下着どこにやったの?ほら、あのレースのやつ……」
彼女は私と視線がぶつかると、わざとらしくハッとした顔を作り、いかにも悪気がないといった様子で言った。
「ごめんなさい、まだいたのね。私、蒼真と一緒にいる時間が長すぎるから、あなたが彼の恋人だってこと、つい忘れちゃってたわ」
私は適当に相槌を打ち、そのまま会社を後にした。
翌朝早く、私が退院したと聞きつけた母から電話がかかってきた。
「泉緒、体の具合はどう?お母さんももう歳だし、早くこっちへ来て一緒に暮らしてほしい。この何年も、ずっと蒼真の後ろをついて回るばかりで、奥さんとしての立場も何も与えられないまま、あちらのご家族には散々見下されてきたんでしょう。
遺産の件、納得してくれて本当によかった。正和の遺産は飛び抜けて多いわけじゃないけど、あなたが残りの人生を不自由なく暮らしていくには十分よ。もう毎日、ビクビクしながら肩身の狭い思いをする必要もないのよ」
一条正和(いちじょう まさかず)は母の再婚相手であり、私の継父にあたる人だ。
以前の私なら、母の言葉を遮って反論していただろう。
愛する人と一緒にいられれば、それだけで十分なのだと。
お金なんて、ちっとも重要じゃないのだと。
だが今は、一言も言い返すことができなかった。
篠原家で過ごしたこの九年間、私の居場所など最初から最後までどこにもなかったのだ。
「いつ頃こっちへ来るつもり?迎える準備をしておきたいから」
カレンダーに目をやると、一つの赤い丸がひときわ目立っていた。
あと十日で、私と蒼真が付き合い始めて丸十年になる。
「あと十日経ったらね。こっちの用事を全部片付けたら、そっちへ行くわ」
電話を切った直後、いつの間にか蒼真が私の背後に立っていることに気づいた。
彼は微かに眉をひそめ、私のスマホに表示された着信名を覗き込もうとしていた。
「十日ってなんだ?誰と話してたんだ」
私はスマホの画面を下にして机に置くと、言葉を濁した。
「友達が新しい仕事を紹介してくれた」
「会社にはまだお前の居場所がある。そんなに急いで辞める必要はないだろう。お前のポストに莉乃が就くとしても、他の部署ならいくらでもあるんだから」
蒼真は苦々しく口元を歪めた。なぜ私がこれほど頑なに辞めたがっているのか、彼にはどうしても解せないようだった。
「もう必要ない」
私の素っ気ない態度に、彼もいら立ちを隠せないようだった。だが、彼が口を開くよりも先に、階下から莉乃の急かすような声が響いた。
「蒼真、今日はご実家で食事なんでしょ?みんなをお待たせしちゃ駄目よ」
その言葉を聞いた瞬間、だらりと下げていた私の指先が微かに震えた。
蒼真と付き合い始めたばかりの頃、彼の両親は私のことをひどく毛嫌いしていた。
どこの馬の骨とも知れない田舎娘が、名門の篠原家の跡取りである蒼真に釣り合うはずがないと見下されていたのだ。
だが実家へ戻る際、蒼真は必ず私を連れて行き、一切の迷いなく私を庇い、両親に立ち向かってくれていた。
彼は私に約束してくれた。
俺がいる限り、篠原家には必ずお前の居場所がある、と。
だが今回、蒼真はこちらと目を合わせようとせず、不自然な口調で言い訳を並べた。
「この前あんなことがあったばかりだしさ。俺の両親もあまり体調が良くないから、お前を見たらまた腹を立てるかもしれないだろ。
誤解しないでくれ、婚約の件はまた彼らに話しておくから。莉乃は彼らにとっては小さい頃から見てきた子だし、身内同然の情があるんだ。ほとぼりが冷めれば……両親も気にしなくなるさ」
蒼真の言葉は、端々から莉乃を優先する本音が透けて見えていた。
私との約束を忘れたわけではないのだろう。ただ今の彼の目には、私以上に守る価値のある人間が映っているというだけのことだ。
私はいつものように、ふわりと笑みを浮かべてみせた。
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