命を捧げ、失った愛を弔う第1話
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誕生日のあの日、私・白石美月(しらいし みづき)と義妹の白石美咲(しらいし みさき)は交通事故に遭った。
炎はすでに私の体に燃え移っていた。それなのに、婚約者の篠原蓮(しのはら れん)は助手席を指さし、こう言った。
「先に美咲を助けてくれ。あの子は心臓が弱いんだ」
目を覚ましたとき、私の顔は見る影もなく焼けただれ、余命は長くても一か月だと告げられた。
その後、篠原家と白石家の利益のために、家族は美咲を私の代わりに嫁がせることに決めた。
蓮は、包帯で覆われた私の顔を痛ましげに撫でながら、こう約束した。
「顔の傷が治ったら、篠原家の妻の座は必ず君に返す」
私は笑って頷いた。
それどころか、自分が持っていた株式も、不動産も、未公開の絵までも、結婚祝いとして美咲に譲り渡した。
美咲は私の作品を踏み台にして、世間の注目を一身に浴びる天才画家となった。
記者の取材を受けた母は、感極まって涙を流しながら言った。
「あの時、事故に遭ったのが美咲じゃなくて本当によかったわ。そうでなければ、うちは天才を一人失うところだったもの!」
蓮もまた、世間に向けて高らかに宣言した。「美咲こそが、篠原家の嫁になるのだ」と。
けれど、彼らは知らなかった。
本当の天才が、片隅から冷ややかに彼らを見つめていたことを。
そして、私が自ら差し出したすべてのものは――
最初から復讐のために用意した供物だったということを。
* * *
誕生日のあの日、私・白石美月(しらいし みづき)と義妹の白石美咲(しらいし みさき)は交通事故に遭った。
炎はすでに私の体に燃え移っていた。それなのに、婚約者の篠原蓮(しのはら れん)は助手席を指さし、こう言った。
「先に美咲を助けてくれ。あの子は心臓が弱いんだ」
目を覚ましたとき、私の顔は見る影もなく焼けただれた。
ベッドのそばには数人の医師が立っている。彼らは皆、沈痛な面持ちで私を見下ろしている。
「肺の損傷がひどすぎます。白石さん、残された時間は長くても一か月です」
私は身内の誰もいない病室を見回し、静かに尋ねる。
「家族は知っていますか?」
医師はしばらく沈黙した。
「ご家族は、もう一人の患者さんの病室にいらっしゃいます」
病室の中が静まり返った。
私は頷き、それ以上は何も聞かなかった。
しばらくしてから、ようやく口を開く。
「このことは、誰にも言わないでいただけますか」
医師が病室を出たあと、私は一か月後の葬儀サービスを予約した。
電話を切った直後、蓮が扉を開けて入ってくる。
「目が覚めたのか?体の具合はどうだ?」
私は小さくうなずく。
「美月、結婚式まであまり時間がない。
君も知っているだろう。篠原家はもうすぐ跡継ぎを選ぶ。跡継ぎになる条件は、既婚者であることなんだ。
でも、今の君の状態では……篠原家の嫁になるにはふさわしくない。両家の利益を考えて、僕たちは美咲を美月の代わりに篠原家へ嫁がせることにした」
「僕たちって?」
「うん。君のご両親も、お兄さんも認めてくれた」
私は顔を向ける。そこで初めて、家族が皆、扉のそばに立って中を覗いていることに気づいた。
私は視線を戻し、冷たく言った。
「でも、私がこうなったのは、あなたが……」
私が言い終える前に、蓮が私の手を強く握りしめる。
「美月、僕を責めないでくれ。美咲には心臓の持病があるんだ。前にジェットコースターに乗っただけで救急搬送されたのを覚えているだろう?まして今回は交通事故だったんだ……
あの子を助けていなかったら、間違いなく死んでいた。君は火傷を負ったけれど、それでも生き残ったじゃないか」
そう。私は生き残ったね。
だけど、残された時間は長くても一か月だった。
「わかった」
私は背を向けた。
「あなたたちの好きにして」
蓮はほっと息をつき、扉の外にいた私の家族たちに入るよう視線で促す。
母は得意げに父を見つめる。
「あなたは美月が絶対に承諾しないなんて言っていたけど、この子も変わったのね。前ほど意地を張らなくなったわ」
兄は笑いながら言った。
「心配するなよ。美咲は心が広いから、お前が蓮さんの愛人になったとしても気にしないさ」
「ふざけたことを言うな」
蓮が低い声で怒鳴った。
「美月の傷が治ったら、すべて元どおりになる」
耳元で騒がしい声が飛び交う中、私は疲れきった体を布団の中に沈めた。
余命一か月の人間にとって、ほとんどのものはもう重要ではなかった。
家族も、婚約者も。
美咲が欲しがるなら、私はすべて彼女に譲ってもかまわない。どうせ、私には持っていけないのだから。
私は自分のすべての財産を整理し、受贈者の欄に白石美咲の名前を書き入れた。そして、タイミングを見て彼女に渡すつもりだ。
しばらくして、私は退院した。退院の日、蓮が迎えに来てくれたが、助手席には美咲が座っている。
私はその場で、財産譲渡の書類を彼女に差し出した。
条項を確認した美咲は、目を見開いた。
「えっ!?1億円?お姉ちゃん、こんなお金どこから……それに……これを全部、私にくれるの?」
以前、絵を売ってひそかに稼いだ金だ。けれど、今の私にとっては、ただの紙切れでしかなかった。
私は説明せず、軽く笑った。
「あなたへの結婚祝いだと思って」
その言葉を聞いた瞬間、蓮はハンドルを握る手に力を込めた。
「それはただ……」
「うれしいわ。ありがとう、お姉ちゃん!」
美咲は書類を抱えたまま、道中ずっと嬉しそうにしている。一方で、蓮は最後まで一言も発しなかった。
車が止まってから、私はようやく、向かった先が家ではなくウェディングドレスショップだったことに気づいた。
今日は、二人がオーダーメイドのウェディングドレスを選ぶ日だ。
美咲が弾んだ声で言った。
「お姉ちゃん、安心して。すぐ終わるから」
「私のことは気にしないで。ゆっくり選んで」
そう言って、私は車椅子を進め、店の中へ入った。
蓮は眉をひそめ、複雑な眼差しで私を見つめている。
店に入ると、美咲がドレスを試着している隙に、彼はこらえきれないように口を開いた。
「美月、君がこんなことをするのは、僕への当てつけなのか?
何度も言っただろう。顔の傷が治ったら、君が元気になったら、篠原家の嫁の座はまた君のものだ。それなのに君は……」
「考えすぎよ」
私はすぐに彼の言葉を遮った。
「ただ、少し疲れただけ」
蓮がさらに何か言おうとした、そのときだった。美咲が彼に向かって不満をこぼした。
「蓮さん、こんなにたくさん着てみたのに、気に入るものが一つもないの」
それを聞いて、私は店長を手招きし、以前私がオーダーメイドしたウェディングドレスを持ってこさせる。
そのドレスを見た途端、美咲の目が輝く。
「これがいい」
「なら美咲にあげるわ」
私は低い声で言った。
蓮が眉をひそめる。
「だめだ。それは君が一か月かけてデザインしたものだろう」
そうだ。ビーズ一粒から、生地の端に至るまで、すべて私が自分で選んだものなの。けれど、私はもう二度と、そのドレスに袖を通すことはできない。
美咲もすぐに、いかにも申し訳なさそうな顔をしている。
「私はお姉ちゃんの代わりに嫁ぐだけなのに、お姉ちゃんが作ったウェディングドレスなんて着られないよ」
「今は、私より美咲のほうが似合うわ」
私は彼女の手をそっと握る。
「気に入るものに出会うのは簡単じゃない。大切にして」
そこまで言っても、美咲はなおも哀れっぽく言った。
「来週の金曜日に着たら、必ずクリーニングに出して、お姉ちゃんに返すね」
私はカレンダーに目をやる。
来週の金曜日。
ちょうど……私の命が尽きる日だわ。
なんという偶然だろう。
せめてその日まで持ちこたえて、すべてを見届けてから目を閉じられたら、それでいい。
私はもう、以前のように美咲の芝居を暴こうとはしなかった。どうせ彼らは信じない。むしろ、私を嫉妬深い嘘つきだと責めるだけだから。
もうすぐ誰もが彼女の本当の姿を目の当たりにすることになる。
彼らは私という存在を、私が受けた苦しみを思い出すようになるだろう。そして夜が更け、あたりが静まり返るたびに、私にしてきたすべてを悔やむことになる。
けれどそのとき、私はもうこの世にいない。
これこそが、私の復讐だ。
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