告白してきた彼は人違いだった第3話
この話は約1655字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
あの年、直人の友達から、直人が女子寮の前で私に告白する準備をしていると聞かされた。
その瞬間、体が宙に浮くようだったし、まるで一生分の運を使い果たしたような気分だった。
片想いしていた相手から告白されるなんて夢みたいで、私はほとんど反射的に寮まで駆け戻った。
彼の友達が「主役が来た」と言ったとき、直人の視線が一瞬揺れた。あのときの私はあふれそうな嬉しさで胸がいっぱいで、それをただの照れなのだと、好きな人を前にした緊張なのだと思い込んでいた。
今になってやっとわかる。あれは、待っていた相手とは違う人間が現れたことへの、隠しきれない戸惑いだったのだ。
あの日、私は花連を抱きしめてくるくる回り、はしゃぎながら延々としゃべり続けた。
そのくせ、あの日の彼女がどこか浮かない顔をしており、口数も少なく笑いもしなかったことにはまるで気づかなかった。
本当は、ずっと気づかなかったわけじゃない。
直人はもともと無愛想な性格で、誰に対しても冷めた態度を崩さず、笑顔ひとつ見せることすら滅多にない。
でも、花連が口を開いた途端、彼の口元は無意識にゆるみ、目の奥の冷たさまで溶けていくのだった。
花連はずっと物静かな子だったが、直人の側にいるときだけは可愛らしく甘えたり、子供のように拗ねてみせたりして、いつもの倍以上によく喋った。
一度どうしても気になって、「直人のこと、好きなの?」と冗談めかして聞いたことがある。
あのとき彼女は涙ぐみながら私の手を握り、親友の彼氏を奪うようなことは絶対しないと言い切った。十年以上も続いてきた姉妹みたいな仲だったから、私はその言葉を信じたのだ。
人生で一番大切だったふたり。それが今となっては、どちらも信じられなくなっている。
私は家に帰るとすぐ荷造りを始めた。
もともと、部屋の契約が切れたとき、私が何度もお願いしてようやく彼が「一緒に住んでいい」と言ってくれたのだった。
引っ越したばかりの頃はまるでルームシェアをしている他人同士みたいに気を遣い合い、食事代もきっちり割り勘だった。
それが少しずつ、彼はベランダに干しっぱなしの洗濯物を何も言わずに取り込んでくれるようになり、私が熱を出して寝込んだときは解熱剤と水を持ってきてくれた。
私がどの店のお菓子が好きかまで覚えていて、帰り道にわざわざ買ってきてくれることもあった。
そんな些細な変化を見るたび、私は飴玉をひとつもらった子供みたいに、ひそかにいつまでも喜んでいたのだ。
今日、ようやくわかった。彼が私にくれていた優しさは全部、私が花連の親友だったからにすぎなかったのだと。
「好きな人の大切な人まで大事にしたい」――結局、親友の私にも、そのついでに優しくしてくれていただけなのだ。
荷造りを終えたところで、彼が帰ってきた。
「今日、花連の誕生日だろ。プレゼント用意してないのはまあいいとして、何も言わずに途中で帰るなんて、彼女がどれだけ気まずい思いするかわかってんのか?」
開口一番の責める言葉に私は何も言わず、ただじっと彼を見つめた。
見つめ続けていると彼もだんだん気まずそうな顔になってきたので、それを見届けてからゆっくりと鞄の中から丁寧に包装された箱を取り出した。
花連がずっと欲しがっていた香水だった。
私は彼の目の前で、それをゴミ箱に投げ捨てた。
彼の顔色がようやく変わった。
「未羽、一体どういうつもりだ?」
私の視線は少しずつ下へ移り、最後に彼の手首、そこにあるものにぴたりと止まった。
「そっちこそ、花連とお揃いのブレスレット、どういうつもりなの?」
彼は私の視線をたどって自分の手首に目を落としたが、顔に浮かんだ戸惑いはほんの一瞬だけで、すぐにいつもの苛立たしげな表情に戻った。
「今日1日ずっと機嫌悪かったの、これのことだったのか」
彼は薄く笑いさえして、軽く投げやりな口調で言い放つ。
「はっ。デザインが気に入って着け心地もよさそうだったから買っただけだろ。お揃いのものを別々に買っちゃいけないなんて誰が決めたんだよ。
未羽、いつまでこんな些細なことで突っかかるんだよ」
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