君を消して、君に出逢う第3話
この話は約1567字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
翌朝、愛が目を覚ました時、すでに世界はひっくり返っていた。恵川市中のありとあらゆるマスコミが、一斉に彼女のスキャンダラスな写真で溢れかえっていたのだ。
画像の中では、薄暗いダンススタジオで、愛のダンス衣装が男によって無残に引き裂かれている。
涙を流しながら、男に組み敷かれ、求められている。
男の背中は、意図的にぼかされている。
だとしても――彼女の腰に食い込むように置かれたその手は。
あまりにも見覚えのある、あの強い力に満ちた感触を思い出させた。
写真の下のコメント欄には、ネット民の悪意に満ちたコメントが殺到していた。
【へぇ〜首席ダンサーの小林愛じゃん。クールな女神とか言われてたさ、裏じゃこんなことしてたんだな】
【ヤバすぎ。こんな女だと思わなかったぜ。学生時代に知ってたら、金払ってでもヤってたのに】
【小林愛のスタイルと顔はガチで極上品だろ。億単位の資産がなきゃ手も出せねえよ】
【まあ、小林愛みたいな女は、嫁には向かないよな。愛人には最高だけど……】
愛は震える手で、湊に電話をかけた。
昨夜、彼女が従わなかったことに怒り、湊は家を出て行った。
彼女はただ、確かめたかった。これが彼の仕業なのかを。
コール音の末、電話が繋がった。
だが、愛が何かを問いかけるより早く。
「もしもし?あ〜愛さん?」
詩帆の、甘ったるい声が聞こえてきた。
「ごめんなさいね〜湊さんなら今シャワー浴びてるの。さっき、すごく汗かいちゃってね……スマホ、持って行ってあげようか?」
詩帆の、勝ち誇ったような優しい声が、研ぎ澄まされたナイフのように愛の心臓を突き刺した。
愛の頬を静かに涙が伝う。必死に声を平静に保って、絞り出した。「……いえ、結構です」
通話を切り、愛は湊にメッセージを送った。
【わかった。すべて、あなたの望む通りに】
恵川市バレエ団の首席の座も湊も、もう手放す。
一時間後。
愛は私物をまとめるため、バレエ団を訪れた。
入ってすぐ、純白の白鳥の衣装をまとった詩帆と出くわした。
彼女は、まるで本物の白鳥のように誇らしげに、ステージの中央に立っている。
愛の姿を見つけた瞬間、電話口の猫なで声は消え失せた。
冷たく傲慢な口調で、詩帆は言い放つ。
「ふん。本当に使えないわね。二人のベッド写真をちょーっとだけネットに流しただけで、もう耐えられなくて、私に席を譲るなんて」
愛は七年前を思い出した。バレエコンクールのバックステージ。
三歳年下の詩帆が、愛に勝つために、彼女のトウシューズに画鋲を仕込んだ。それを愛が見つけ、現行犯で押さえた。
詩帆は悔しそうに叫んだ。「小林愛!絶対に、あんたなんかに負けないから!」
結果は詩帆の惨敗。優勝は、愛だった。
七年後、詩帆は傲慢に笑う。
「この一年、湊さんはずっと私と一緒だったの。ずっと私のそばにいてくれた。そんなことも知らなかったのは、あんただけ。周りのみんなが隠してたのよ。
湊さんとあんたなんか結婚させない。彼は、私のものよ!」
詩帆の本性を目の当たりにしても、愛はもはや驚かなかった。そもそも、詩帆と争うつもりなどない。七日後には、田原と共に境見市へ発つのだ。
踵を返し、立ち去ろうとした、その瞬間。
「キャァァァッ!!」詩帆が、ステージからバランスを崩し、激しく床に転落した。
悲鳴のような泣き声が、がらんとしたダンスホールに響き渡る。
「湊さん!ごめんなさい、全ては、私が悪いの!やっぱり首席の座なんて争うべきじゃなかった……!」
愛は詩帆の怯えたような視線を追って、入口を振り返った。
湊の高く堂々としたシルエットが、逆光の中に立っていた。その冷え切った瞳が、氷のように、まっすぐに愛を射抜いていた。
湊は素早く詩帆に駆け寄る。詩帆の足首が、見るからに赤く腫れ上がっているのが見えた。
瞬間、彼の暗い目に、制御できない怒りの炎が燃え上がった。
「お前、何をした?」
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