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君の知らない愛の跡第1話

この話は約2855字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

高校時代、浅井湊人(あさい みなと)を振ってからというもの、彼は絶え間なく恋人を替え続け、その数は九人にものぼっていた。

同窓会の席、湊人は十人目となる現在の恋人を連れて現れ、私たち一人ひとりに招待状を配り歩く。

周囲ははやし立て、ニヤニヤしながら私、佐藤夏海(さとう なつみ)に目配せを送った。

私は胸を締め付けられるような痛みを感じながらも、毅然とした態度で立ち上がり、彼らを祝福する。

湊人は鼻で笑った。「俺の結婚式当日、お前の口から直々に祝いの言葉を聞かせてもらいたいもんだな」

私は微笑んでそれに応じたが、背を向けた瞬間に、バッグの中の診断書をそっと指先でなぞった。

来月の二十日か。

どうやら、そこまで私の命は持ちそうにない。

* * *

高校時代、浅井湊人(あさい みなと)を振ってからというもの、彼は絶え間なく恋人を替え続け、その数は九人にものぼっていた。

同窓会の席、湊人は十人目となる現在の恋人を連れて現れ、私たち一人ひとりに招待状を配り歩く。

周囲ははやし立て、ニヤニヤしながら私、佐藤夏海(さとう なつみ)に目配せを送った。

私は胸を締め付けられるような痛みを感じながらも、毅然とした態度で立ち上がり、彼らを祝福する。

湊人は鼻で笑った。「俺の結婚式当日、お前の口から直々に祝いの言葉を聞かせてもらいたいもんだな」

私は微笑んでそれに応じたが、背を向けた瞬間に、バッグの中の診断書をそっと指先でなぞった。

来月の二十日か。

どうやら、そこまで私の命は持ちそうにない。

……

個室のドアが勢いよく開いた。

私は無意識に顔を上げる。

六年という歳月は、学生時代特有の青さを湊人から完全に削ぎ落としていた。仕立てのいい黒のスーツが、その広い肩幅と長い足をいっそう際立たせ、立ち姿は以前よりもずっと凛々しくなっている。

けれど、かつて私を優しく包み込んでくれたあの微笑みはどこにもなく、今のその顔には、ただ凍てつくような冷徹さだけが宿っていた。

彼の隣には、一人の女性が寄り添っている。

室内が一瞬の静寂に包まれたのも束の間、直後、それまでを遥かに凌ぐ喧騒が沸き起こった。

「よっ、湊人様のお出ましだ!遅刻したんだから、まずは駆けつけ三杯いっとけよ!」

「湊人、隣の美人は誰だよ。紹介してくれよ」

湊人は何も答えず、ただ視線を私に固定し、射抜くように釘付けにした。

対照的に、隣の女性は屈託のない笑みを浮かべる。大輪の薔薇のように華やかで、自信に満ちた笑顔だった。

「皆さん、初めまして。森下莉奈(もりした りな)だよ。

湊人の婚約者なの」

婚約者。

コップを握る私の手が、自分でも気づかないほど微かに震えた。

莉奈はそう言い終えると、バッグから金の箔押しが施された豪華な招待状を取り出し、にこやかに配り歩く。

「来月の二十日、湊人と結婚することになったんだ。みんな、絶対に来てね!」

私は目を伏せ、チクリとした胸の痛みを感じた。鏡を見なくても、今の自分の顔が死人のように青白いことは分かっている。

先週、病院から戻ったばかりだ。

主治医からは、長くても一ヶ月の命だと告げられた。

他の誰かにとっての一ヶ月は、盛大な結婚式を準備し、幸福な未来へ向かうための時間。

けれど私にとっての一ヶ月は、定められた死を待つための時間でしかない。

胸に馴染みのある圧迫感がこみ上げ、喉の奥に鉄錆のような生臭い味が広がった。

私は必死にコップを握りしめ、口元までせり上がってきた血を、強引に飲み下す。

今回の集まりには、本当は来るつもりはなかった。

親友の羽田真由(はだ まゆ)が電話で「夏海、おいでよ。湊人も来るから。

……これが湊人に会える最後のチャンスかもしれないと思って、会いにきなよ」と誘った。

最後のチャンスか。

そうだ、今会わなければ、もう二度と……

しかし、この「最後のチャンス」がこれほど残酷なものになるとは思わなかった。

私と湊人にも、穏やかで幸せな時間があった。

高校二年の頃、彼は誰もが憧れる秀才で、私はただの目立たない普通の女子生徒だった。

放課後の居残り勉強中、彼は広い校舎をわざわざ横切って、私に温かいココアを差し入れてくれた。

体育の授業でバスケットボールが当たった時は、周囲の目も気にせず、慌てて私をお姫様抱っこして保健室まで走った。

冬のグラウンドでは、私の冷え切った手を自分のコートのポケットに入れ、温かい掌で包み込んでくれた。

「夏海、ずっと一緒にいよう」

私はその言葉を信じていた。母が机の引き出しから、彼からのラブレターを見つけるまでは。

母は初めて私に激昂し、手紙をズタズタに引き裂いて警告した。「夏海、自分が何をしてるか分かってるの?受験も近いっていうのに、学生の分際で色恋沙汰なんて絶対に許しない!」

生まれて初めて母に反抗し、大喧嘩の末に荷物をまとめて家を飛び出した。

学校の向かいにある小さなビジネスホテルで一晩を過ごした。

翌日、母が私を見つけ出した。

母は叱ることもせず、ただ目を真っ赤にして、一通の診断書を私に突きつけた。

「先天性心疾患。

医師は、二十六歳までは生きられないと言っているわ」

母は私を抱きしめ、張り裂けんばかりの声で泣いた。

「お母さんが、どれほど多くのお医者さんに縋ってきたと思っているの……でも、結局は全部、無駄だった。

夏海、あなたは恋をしてはいけないの。誰かの人生を台無しにするのも、いつかあなたが病気を理由に捨てられる姿を見るのも、お母さんには耐えられない……」

その瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。

ようやく理解した。なぜ幼い頃から激しい運動を禁じられてきたのか。なぜいつも私だけが病弱だったのか。そして、なぜ母がいつも私を見ては、あんなにも深く溜息をついていたのか。

私の寿命は、最初から決まっていたのだ。

いつも待ち合わせていた大きな木の下で、私は湊人に別れを告げた。

彼は呆然とした顔で理由を尋ねた。

星を散りばめたような彼の瞳を見つめると、医師の宣告と母の涙が脳裏をよぎり、心臓を直接刃物で抉られるような痛みを感じた。

私は、ありったけの酷い言葉を彼に投げつけた。

「湊人、もう飽きちゃったの。

あなたと一緒にいても退屈。ただ、学年一の秀才と付き合うのがどんな感じか、ちょっと好奇心で試してみたかっただけ。

もう終わりにしましょう」

一言一言が、彼の心を、そして私の心さえも、容赦なく切り裂いていく。

湊人の瞳から、光が少しずつ、確実に消えていった。

「夏海」彼は歯を食いしばり、一文字ずつ噛みしめるように言った。「お前、大したもんだよ」

その日から、湊人は何かに取り憑かれたように次から次へと恋人を替え続けた。

別れてから数ヶ月もしないうちに一人目の彼女ができ、それからの大学四年間で、彼は九人もの女を乗り換えてきた。

その一つひとつの恋は、ことごとくが周囲を騒がせるほど派手に噂になった。

分かっていた。彼はわざとやっているのだ。

そうすることで、私に復讐しているのだと。

そして今、彼は十人目の、本物の婚約者を連れて招待状を渡しに来た。

私は、自分への報いがついに訪れたのだと感じた。

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