叶わない結婚式第3話
この話は約1763字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
貴也にあれほど我慢強い一面があったなんて、今まで一度も気づかなかった。彼と何年も一緒にいたが、私にはそんな一面を一度も見せてくれなかったからだ。
あんなに心の底から笑う彼も、見たことがなかった。
どの写真の中でも、彼は明るく笑っている。私が知らない彼の姿だ。
以前、私は吟味して選んだカメラを手に、数ヶ月かけて写真を学んだことがあった。彼の誕生日にサプライズを贈ろうと思ったのだ。
それなのに、彼はその場で顔をこわばらせ、厳しい口調で言い放った。
「俺は昔から写真を撮られるのが大嫌いだ。俺の婚約者なら、そんなことくらい分かってるだろう?
せりな、俺のことを理解してるふりはやめてくれ。吐き気がする」
そのせいで、彼は一ヶ月もの間、私を無視し続けた。
その後、私が二ヶ月間休みなく彼のプロジェクトをこなし、彼の副社長昇進を支えたことで、ようやく話をしてくれるようになった。
愛しているかどうかは、本当にはっきりしている。
愛していれば、相手の好みや嫌いなものもすべて覚えており、たとえ気に入らなくても相手の真心を大切にするものだ。
そう思い、私はスマホをしまい、そのまま人事部に退職願を提出した。
手元の仕事を引き継ぐために書類に目を通したが、残っている量はそれほど多くない。
元々いくつかのプロジェクトを抱えていたが、少し前に貴也が由美の機嫌を取るために、それらを彼女に渡してしまったからだ。
おかげで、引き継ぎ作業に時間はかからなかった。
書類を整理していると、企画部の係長がボツになった入札書を手にして詰め寄ってきた。
「洲本部長、このプロジェクトの入札はずっと君が担当していたはずです。クライアントから不備を指摘されたんですが、納得のいく説明をお願いします」
周囲の社員たちは、日頃から由美がいかに私にいじめられているかを聞かされていた。彼らは正義を振りかざす絶好の機会だとばかりに、私を追い詰めたくてたまらない様子だ。
「部長、こんな大事なプロジェクトを台無しにしていいんですか?皆川社長がどれほどこれを重視していたか、ご存じないのですか?」
「どうして部長に入札を任せたのでしょうか。小林係長が担当していれば、きっとこんな結果にはなりませんわ」
「部長の給料で損失を賠償しきれると思います?」
「賠償ですか?払えるわけがありません。さっさと辞めていただくのが一番です」
私は周囲の言葉を無視し、入札書の表題に目を向けて冷笑した。
「この入札の担当は私ではなく、小林さんです」
日頃から由美にへつらっている取り巻きの作左部彩(さくさべ あや)が言った。
「あら、しらばっくれるつもりですか?部長はどこまで恥知らずなんでしょう。
これは間違いなく部長が担当しました。今さら小林係長に罪をなすりつけようだなんて、私たちを節穴だと思っているのですか?」
他の社員たちも口々に同調した。
そこへ人事担当の荒木洋子(あらき ようこ)がやってきて、退職願が受理されたことを告げた。
彩は勝ち誇ったような表情で吐き捨てた。
「今さら辞めるなんて、もう遅いです。会社の損失をどう償いますか?皆川社長にどう落とし前をつけますか?じっくり考えたほうがいいですよ!
部長みたいな厄病神は、もっと早く追い出すべきでした。小林係長が優しくて、部長がクビにならないようずっと社長の前で庇っていたから、今まで居座れただけなんです」
彼女が言い終えるとすぐに、他の社員たちも、厄病神に会社の空気を汚されてはたまらないと、私を追い出すことを提案した。
数分もしないうちに、私の荷物は黒いゴミ袋に雑に詰め込まれ、ゴミのように会社の入り口に放り出された。
先頭を切る彩は、私がまだその場に立ち尽くしているのを見て、蔑むように言った。
「部長、ここまでされて、まだ私たちに手を出そうというのですか?」
得意げな彩の顔を見つめた。こんな日和見主義の女が、私の前で威張り散らすなんて。
彼女の頬を二度打ち、呆然とする社員たちを後にして、会社を去った。
……
数日後、再び由美からツーショット写真が送られてきた。自慢げなメッセージも添えられている。
【そういえば、貴也とずっと一緒にいて、写真を撮ったことはあるの?
でも、彼のところで洲本との写真を一枚も見たことがないわ。まさか、普通のツーショットすら一枚も撮ったことがないなんて言わないよね】
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