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叶わない結婚式第1話

この話は約2511字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

婚約者の皆川貴也(みながわ たかなり)は、確実に会社の筆頭株主になれるよう、私に候補者から身を引き、手元にある5%の持ち株を譲るよう求めてきた。その代わり、事が済んだら最高の結婚式を挙げると約束してくれた。

私は受け入れた。けれど翌日、彼がずっと憧れている女・小林由美(こばやし ゆみ)が、一通の株式譲渡書をSNSに載せているのを目にした。

譲渡人の欄に記されているのは、間違いなく貴也の名前だ。

二秒ほど呆然とした後、【プロポーズされたみたいだね。式はいつかしら】と、何気なくコメントを残した。

由美はすっかり取り乱し、22階から飛び降りると騒ぎ出した。

貴也は彼女をなだめるために、私にすぐさまコメントを削除し、彼女への謝罪をSNSに投稿するよう迫った。おまけに、私の給料三ヶ月分を彼女への慰謝料として差し出せという。

職場の人たちはひそひそと囁き合い、私が笑いものになるのを手ぐすね引いて待っている。

私は冷ややかに笑い、SNSで謝罪しただけでなく、手掛けていたプロジェクトまで自ら進んで由美に譲り渡した。

貴也は私の物分かりの良さに満足したようで、嬉しそうに言った。

「半月後の結婚式では、君を誰よりも幸せな花嫁にしてみせる。ご褒美に、世界一周の新婚旅行にも連れて行ってあげる」

けれど彼は知らない。あの5%の株を求めた瞬間から、もうこの結婚式は存在しないのだということを。

* * *

婚約者の皆川貴也(みながわ たかなり)は、確実に会社の筆頭株主になれるよう、私に候補者から身を引き、手元にある5%の持ち株を譲るよう求めてきた。その代わり、事が済んだら最高の結婚式を挙げると約束してくれた。

私は受け入れた。けれど翌日、彼がずっと憧れている女・小林由美(こばやし ゆみ)が、一通の株式譲渡書をSNSに載せているのを目にした。

譲渡人の欄に記されているのは、間違いなく貴也の名前だ。

二秒ほど呆然とした後、【プロポーズされたみたいだね。式はいつかしら】と、何気なくコメントを残した。

由美はすっかり取り乱し、22階から飛び降りると騒ぎ出した。

貴也は彼女をなだめるために、私にすぐさまコメントを削除し、彼女への謝罪をSNSに投稿するよう迫った。おまけに、私の給料三ヶ月分を彼女への慰謝料として差し出せという。

職場の人たちはひそひそと囁き合い、私が笑いものになるのを手ぐすね引いて待っている。

私は冷ややかに笑い、SNSで謝罪しただけでなく、手掛けていたプロジェクトまで自ら進んで由美に譲り渡した。

貴也は私の物分かりの良さに満足したようで、嬉しそうに言った。

「半月後の結婚式では、君を誰よりも幸せな花嫁にしてみせる。ご褒美に、世界一周の新婚旅行にも連れて行ってあげる」

けれど彼は知らない。あの5%の株を求めた瞬間から、もうこの結婚式は存在しないのだということを。

……

謝罪文を投稿してから三分も経たないうちに、コメントは99件を超えた。

由美からDMが届き、私を嘲笑ってきた。

【洲本、あなたが私より勝ってるのは、運良く私より先に貴也に出会えたことくらい。それ以外、何一つ私には敵わないわ。

私がちょっと泣きついただけで、彼はすぐにあなたに謝らせたでしょう?

婚約していようがいまいが関係ない。私が嫌だと言えば、あなたたちは絶対に結婚なんてできないんだから】

言い終えると、彼女は自慢げに貴也が気晴らしに連れ出してくれるという報告と共に、一枚の写真を送ってきた。それはパリ行きの航空券だ。

スマホの画面を消そうとした時、通知欄に由美のコメントが表示された。

【皆さん、どうか洲本部長を責めないでください。私にも至らない点がありましたので……】

一分も経たないうちに、貴也がそのコメントに返信した。

【何でも自分のせいにするのはおよし。今回の件は、どう考えてもせりなに非があるんだから】

職場の人たちも口々に私を非難し始めた。私の謝罪文は形だけで、行間から由美への不満と皮肉が透けて見えるというのだ。

誰かが私をメンションしてきたが、無視した。

しばらくすると、貴也から問い詰めるような電話が何度もかかってきた。

由美をどこまでも甘やかす彼に呆れ、私は静かにスマホの電源を切り、鳴り止まない着信音を遮断した。

貴也とは幼い頃に婚約を交わし、皆川グループの株式5%を譲渡してもらう代わりに、私が皆川家に嫁ぐことが決まっていた。

けれど、彼がずっと憧れている由美が会社に入ってきてからというもの、彼の視線は完全に彼女に奪われてしまった。

由美が欲しがるものは何でも、貴也は惜しみなく彼女に捧げた。たとえそれが、私が何ヶ月も心血を注いできたプロジェクトであっても、彼女の機嫌を取るための贈り物にされてしまうのだ。

ほどなくして貴也が急に帰宅し、部屋に入るなり「出張に行くから着替えを数着用意してくれ」と私に言いつけた。

由美が送ってきたパリ行きの航空券を思い出し、私は思わず皮肉を口にした。

「それはお仕事?それともお遊びかしら」

貴也は私の口調に棘があるのを感じ取り、由美への謝罪の件で拗ねているのだと思い込んだ。

彼は眉をひそめて言った。

「洲本せりな(すもと せりな)、もともと君が悪かったんだろう。怒るなんて筋違いだ!俺が間に入って取りなしてやらなければ、君は今頃社員たちに会社を追い出されてた。

今回は会社にとって非常に重要なプロジェクトだ。俺が直々に行かなければならない。安心してくれ、用が済み次第すぐに戻る。結婚式には絶対に間に合わせるから」

私が黙っていると、彼は自分の言い分が理解され納得されたと勝手に解釈し、機嫌を取るように今回のお土産は何がいいかと尋ねてきた。

以前の出張では、彼はいつも現地の特産品を買ってきてくれた。お土産を受け取るたび、私は心の底から喜んでいた。

けれど後に偶然知ってしまったのだ。彼が持ち帰るお土産はすべて、まず由美に渡し、彼女がいらないと言ったものや、気に入らなかったものの残り物だったということを。

そこまで思い至り、私は淡々と答えた。

「何でもいいわ」

私が興味なさそうにしているのを見て、貴也は使用人に着替えの用意を任せると、執事から差し出されたギフトボックスを受け取った。

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