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台風の夜、彼氏は幼なじみのもとへ第3話

この話は約1770字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

「帆立、着替え!洗ったやつ、持ってきてくれ!」

浴室から透のくぐもった声が聞こえてきた。

私はグレーのルームウェア一式を取り出すと、浴室の扉の前まで歩き、わずかに開いた隙間から着替えを差し入れた。

透が手を伸ばして受け取る。

「サンキュ」

私はすぐにはその場を離れなかった。

浴室の扉の前にある棚には、透が脱いだばかりの汚れた服が置かれている。

その上に、彼のスマホが転がっていた。

――ヴヴッ。

突然、画面が点灯した。

芽衣からのボイスメッセージだった。

私は何気なく再生ボタンを押した。

甘えるような芽衣の声が流れ出す。

「透くん、防水のダイバーズウォッチ、うちの枕元に忘れてるよ?今朝、あんなに慌てて帰ったから、置いてきちゃったのかな?今夜、また取りに来る?」

シャワーの音がぴたりと止まった。

浴室の扉が勢いよく開き、透が腰にバスタオルを巻いただけの姿で、湯気をまといながら飛び出してきた。

彼は私の手からスマホをひったくると、後ろめたさと気まずさに顔を赤くした。

何か言おうと口を開きかけたものの、苦し紛れに私へ近づいてくると、私にキスをしようとした。

「いや、聞いてくれ。昨日の夜は……」

私は顔をそむけ、そのキスを避けた。

「昨日は疲れてたし、今日も疲れてる。触らないで」

透の表情が一変した。ばつの悪さを怒りで押し隠すように顔を歪め、スマホを棚に叩きつける。

「帆立、いつまでそんな態度を続けるつもりだよ。芽衣は、俺が昨日ほとんど寝てないのを心配して、朝になったら早く帰って帆立のそばにいてやれって言ってくれたんだぞ。

それなのに、帰ってきてからずっと当てつけみたいなことばかりして……少しは俺の気持ちも考えてくれよ」

私は振り返り、まっすぐ彼の目を見た。

「じゃあ、昨日の夜はどこで寝たの?」

透はいらだたしげに、濡れた髪をかき上げた。

「リビングのソファに決まってるだろ!あの時計は、芽衣のベッドを動かすのを手伝った時、上着を脱いだ拍子にうっかり落としただけだ。

帆立、俺はずっと芽衣のことを妹みたいに思ってるだけだ。あいつの兄貴は、俺を助けるために死んだんだぞ。俺たちの関係を、そんな下品な目で勘繰るのはやめてくれよ」

私はゲストルームの扉を指さし、冷たく言った。

「今夜はあっちで寝て」

透は私を睨みつけ、奥歯を噛みしめた。

「分かったよ、帆立。そこまで話が通じないなら、もう好きにしろ。今夜はお互い、気分よく眠れると思うなよ」

バタン!

ゲストルームの扉が乱暴に閉められ、その振動でシャンデリアが揺れた。

私はひとりで主寝室に戻り、ダブルベッドに身を横たえた。

深夜2時、スマホが一度だけ震えた。

主任からのメールだった。離島への医療支援に関する正式な派遣承諾書が添付されている。

私はファイルを開き、末尾の署名欄に名前を入力すると、そのままスマホの電源を切り、深い眠りに落ちた。

翌朝、外から聞こえる楽しげな笑い声で目が覚めた。

寝室の扉を開け、リビングへ出ていく。

芽衣は私のスリッパを履き、私がいつも使っているエプロンを身につけて、コンロの前でぎこちない手つきで目玉焼きを焼いていた。

透はその後ろに立ち、目玉焼きの焼き方を丁寧に教えていた。

扉の音に気づき、ふたりが同時に振り返った。

芽衣は少し気まずそうに私を見た。

「あっ、帆立さん、誤解しないでくださいね。私、その……」

透が一歩前に出て、代わりに答える。

「一昨日の台風がひどすぎて、芽衣が住んでる高層マンション、断水も停電もしてるんだ。ひとりで置いておくのは危ないと思って、朝一番に連れてきた」

芽衣も慌てて頷く。

「そう、そうなんです。ちょっとお手洗いをお借りしたくて……それに、ついでに朝ごはんも作らせてもらおうと思って……」

言い終えると、彼女は少し焦げた目玉焼きを載せた皿を2枚、テーブルに並べた。

そのうち見た目がましな方を透の前に押しやり、小声でつぶやく。

「透くん、私、料理が苦手だから……焦がしちゃった」

透はため息をつくと、まだ見た目のましな方の皿を私の前に移した。

「ほら、帆立。お前はこっちを食べろよ。芽衣がせっかく作ったんだから、文句を言うなよ」

私は焦げた目玉焼きを見つめたまま、表情ひとつ変えずに言った。

「この部屋、来週で解約するから。ここが気に入ってるなら、ふたりでそのまま住めばいい。もう隠れてこそこそする必要もないでしょ」

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