双子の罠に落ちた恋第2話
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電話を切ると、私は家中の明かりをすべてつけて、荷物をまとめ始める。
私は自分だけのものをスーツケースに詰めていく。
彼らにもらったネックレスやブレスレット、バッグ、ぬいぐるみ、そして一途な愛の象徴として大切にしていたおそろいのフィギュアは、全部ごみ箱に放り込む。
最後のツーショット写真を捨てたとき、颯斗──いや、陽翔が帰ってきた。
彼はいつもと同じように、ドアを開けるなり私にキスをねだってくる。
かつてはそれを愛の証だと信じていたのに、今思えば滑稽なほど馬鹿げている。
私は彼を思いきり押しのけた。その顔は颯斗とまったく同じで、見惚れるほど整っているはずなのに、今は見るだけで胸が何百本もの針で刺されるように痛んで息ができない。目の縁が勝手に熱くなる。
「芽衣、どうしたの?泣いてるの?」
彼は当たり前のように私を抱き寄せ、低く甘い声であやすようにささやく。
「もう大丈夫だよ。ネットのことは知ってる。俺が全部片づけるから。ブライダルクイーンのコンテストなんて出なくていいだろ?それより、俺の妻になって、落ち着いてくれたほうがいいんじゃない?」
ほら、こうやって話をそらすのが本当にうまい。「俺の妻になって」の一言で、あの写真を持っていたのが彼だけだという事実を、なかったことにしようとしている。
胸の中では、問いただしたいことと飲み込みきれない怒りが、波のように押し寄せていた。けれど、口を開こうとしたその瞬間、熱を帯びたキスが私の首筋に落ちる。
「芽衣、今のお前、どれだけ俺をそそってるか分かってないだろ?」
いつもなら、こういう甘い言葉に簡単に溺れてしまっていた。あんなことがあまり好きじゃなくても、恥ずかしそうに応じてしまっていた。でも今は、ただ吐き気がするだけだ。
彼を突き放すより先に、耳元で熱を帯びた吐息が落ちてくる。
「……綾香」
その二文字が、雷鳴のように耳元で弾けた。
私を利用していたのは颯斗だけじゃなかった。毎晩のように私と身体を重ねていた陽翔でさえ、あの熱に溺れた奥底で想っていたのは綾香だったのだ。
一瞬で、氷のような冷たさが足の裏から頭のてっぺんまで駆け上がる。全身の血が一気に凍りついたみたいだ。押しつぶされるような羞辱と嫌悪が一気に襲いかかり、もう吐き気を抑えることができない。
「うぇ……」
私は勢いよく洗面所へ駆け込んだ。
「芽衣、どうした?具合悪いのか?専属の医者を呼ぼうか?」
彼の声には、隠そうともしない心配と焦りが滲んでいる。まるで、本当に私が世界でいちばん大事な人であるかのように。今日までは、私もそう信じていた。けれど、実際は、何もかもが仕掛けられた罠だった。
「愛」という名目で、私からすべてを奪い取るための罠だ。
私はうつむいたままドアを開け、震えを悟られないように声を整える。
「ちょっと気分が悪いだけ。今夜、あなたはゲストルームで寝て」
そう言い終えると、私はすぐ部屋に戻り、ドアを閉めた。階下で車のエンジン音が遠ざかっていくのを聞いてから、私はその場に崩れ落ちて、荒い呼吸を繰り返しながら泣き崩れた。
その夜、陽翔は帰ってこなかった。前の私なら、どこかで飲みすぎていないかと気を揉み、きっと一睡もできなかっただろう。でも今は、ただ一刻も早く、ここを離れたい。それだけだ。
翌朝。まさかの光景に、思わず息が止まった。ドアを開けた目の前に、本物の颯斗が朝食を手に立っていたのだ。
「このあいだ、ずっと『一緒に朝ごはん食べたい』って言ってただろ?買ってきたよ」
彼は、まるで付き合う前のように柔らかく優しく微笑んでいる。その瞬間、ふっと胸が揺れた。昨日のあの地獄みたいな出来事が全部、ただの悪い夢だったんじゃないかと思ってしまう。私が好きになった人が、本当にあんな卑劣な真似をするだろうか、と。
けれど、彼の次の一言が、私を一瞬で現実へ引き戻した。
「綾香のコンテスト用の手稿、うっかりなくしちゃってさ。お前のを彼女に使わせてやってくれ」
そういうことだ。これが、彼が珍しく昼間に優しくしてきた理由だ。
そもそも彼が私と付き合ったのは、綾香のためだった。今さら綾香のために私を宥めようとしたって、別に驚くことじゃない。
目の前の、かつて全身全霊で愛したこの男を見つめながら、もう麻痺してしまったはずの心に、また細かな痛みがじわじわと広がっていった。
私が黙っていると、颯斗は不機嫌そうに眉をひそめ、冷えた声で続ける。そこには、当然だと言わんばかりの残酷さがある。
「どうせお前の出場資格はもう取り消されたんだ。その手稿だって、このままじゃゴミになるだけだろ。だったら綾香に渡してやればいい。お前の作品が人目に触れるチャンスにもなるんだから」
この手稿が、私と彼の結婚式のために描いたものだということを、彼は知らないのだろうか?
いいえ、彼は知っている。
ただ、どうでもいいだけだ。
むしろ、それこそが、彼が私と付き合った理由のひとつだったのだ。
──パキッ。
心の痛みが限界を越えたとき、胸の奥で、小さな何かがそっと砕ける音を聞いた気がした。
そのあとに訪れたのは、驚くほどの軽さと、すっとほどけるような解放感だった。
この男に対しても、この歪んだ恋の茶番にも、もう一片の幻想すら残っていない。
私はなんとか口角を持ち上げて、うなずいた。
「いいよ」
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