危篤の祖母より、後輩女医を選ぶ夫第3話
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真っ暗になった画面を見つめ、私は焦りでじっとしていられなかった。ほかにできることもなく、再び祖母の手術室の前へと戻った。
そこへ戻ると、ちょうど重い表情の医師が出てきたところだった。私を見ると、ため息をつきながら首を横に振った。
「申し訳ありません、理和さん。できる限りのことはしたのですが……
鷹司先生が間に合わず、ほかの医師では限界がありました……今のうちに、お別れをなさってください」
「そんな……そんなはずないっ!」
その場に立ち尽くしていた私は、看護師に支えられるようにして病室へと入った。
ベッドの上、無数の管に繋がれた祖母の姿を見た瞬間、涙が堰を切ったように溢れ出した。
「おばあちゃん……ごめんね、私が不甲斐ないばっかりに……」
祖母はもう限界まで衰弱していて、掠れた声はどんどん小さくなっていった。
「理和……泣かないで……先生たちの話は、もう聞いたよ……あの馬鹿な子が、手術をしてくれなかったんだね……
おばあちゃんはいつお迎えが来てもおかしくないから……でも理和はまだ若い……勝己があんたを大事にしないなら、あんな男のために人生を無駄にすることなんてないんだよ……離婚して、自分の人生を歩みなさい……
おばあちゃんはもう……理和のこと、守ってあげられない……これからは、自分で自分を守るんだよ……あんたが幸せに生きてくれたら、おばあちゃん、天国できっと喜ぶから……」
最後の言葉を言い終えると、祖母は私の手をぎゅっと握りしめた。そして、力が抜けるように、そのまま息を引き取った。
「おばあちゃん……っ!」
深い悲しみに襲われ、私は祖母の最期をただ見つめることしかできなかった。
涙が止めどなく溢れ出す。祖母の体に取りすがって、私は声を上げて泣いた。
「お願い、おばあちゃん……行かないで……私を置いていかないでよ……っ!うぅあああ!」
私の実家は、昔から男尊女卑の考えが根強い家だった。両親は長年、私にろくに目を向けてくれたことがない。家庭の温もりというものを、私は祖母からしか知らなかった。
そのたったひとつの温もりさえも、今、完全に失われてしまった。
底なしの絶望に呑まれ、悲しみで目の前が徐々に暗くなっていく。立ち上がろうとした瞬間、体は言うことを聞かず、私はそのまま床に崩れ落ち、意識を失った。
再び目を覚ましたのは、その日の夜だった。祖母の手術を担当した医師の鈴木健一(すずき けんいち)が、傍らで付き添ってくれていた。
私が目を覚ましたのを見て、同情の色を浮かべながら口を開いた。
「鷹司先生にはメッセージを送っておきましたので、じきに来られるかと」
その言葉を聞きながら、私はゆっくりと体を起こし、小さく頷いた。
正直なところ、もう勝己には何の期待も抱いていなかった。ただ、祖母の葬儀だけは、勝己にも協力してもらって、少しでも安らかに見送ってあげたい。それだけだった。
葬儀の手配をしようと携帯電話を取り出し、SNSを開くと、亜実の最新の投稿が目に飛び込んできた。
【大人の男の余裕ってこういうこと。いつだって女の子をお姫様みたいに甘やかしてくれる!】
添えられた写真は、亜実が男性の肩にもたれかかって撮った自撮り。背景には、賑やかなディズニーランドの様子が写り込んでいた。
顔は写っていない。それでも、その男が勝己だということは、ひと目で分かった。
携帯電話を握る手が、勝手に震え出した。
祖母が病院で、手術を待ちながら絶望の中で死んでいったというのに、幼い頃から祖母に育ててもらった勝己は、女を喜ばせるためだけにディズニーランドへ遊びに行っていたのだ!
人でなし……!
あのふたりは、揃いも揃って人でなしだわ!
隣にいた健一も、そのSNSの内容を見てしまったようで、気まずそうな表情を浮かべた。
「ええと……もしかしたら、まだ鷹司先生は私のメッセージを見ていらっしゃらないのかもしれません……」
「あの人は、見たくないものはいつまで経っても見ようとしないんです」
私は深く息を吸い、荒れる感情を無理やり押し込めると、健一に向かって手を差し出した。
「すみません、少しだけ、携帯を貸していただけますか」
「あ、はい、どうぞ」
健一は慌てて携帯電話を差し出した。
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