和紙文危篤の母より元カノ?最低男を捨て宿敵の妻へ · 第2話設定≡

危篤の母より元カノ?最低男を捨て宿敵の妻へ第2話

この話は約1678字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

咲希は、ほんの3秒で決断を下した。

杏はすぐさま手術室に運ばれ、第一線で活躍する専門医たちが万全の体制で待ち受けていた。

この物々しい雰囲気に、妹の霜月紗夏(しもつき さな)は涙を流しながら興奮気味に言った。「お姉ちゃん、この専門医の先生たちは泰誠さんが呼んでくれたの?これでお母さんは助かるんだね!?」

咲希は手術室を見つめながら、淡々と言った。「今日で泰誠とは別れるわ」

紗夏は不思議そうに聞いた。「もう結婚しないの?」

ビジネスの取引で結ばれただけの関係。感情のかけらもない、見知らぬ夫。そう思った瞬間、咲希の胸に虚しさが広がり、その声はどこか悲しそうだった。

「結婚はするわ。

挙式の予定は変えない。1ヶ月後に予定通り行う。でも、相手は違う。新郎が別の人に代わるわ」

……

3日後、杏の容態は深刻な状況から脱し、安定した。御堂家の病院へ転院することになった。

咲希はやっと一息つき、これでようやく終わらせるべき関係に向き合う気力がわいてきた。

まず、退職する。そして九条グループとの関係を完全に断つこと。

オフィスに足を踏み入れると、部下たちが嬉しそうに駆け寄ってきた。

「昇進おめでとうございます!霜月さん、いえ、これからは副社長とお呼びすべきですね!」

咲希は驚かなかった。取締役会から直接辞令を受けたし、人事部からも社内に公示されていたからだ。

ただ、母の急変があり、まだ副社長として正式に皆の前に立ててはいなかった。

咲希はドアにかかった「副社長室」という輝くプレートを見つめ、さまざまな思いが胸をよぎった。

年中無休で働き詰めの毎日を8年間送り続け、やっと手にしたこの栄冠だった。

せっかく就いたポストをすぐに手放すことにはなったけれど、この実績はキャリアにおいて何物にも代えがたい大きな武器になるはずだ。

言葉をかけようとしたその時、冷たい声が響いた。「霜月さんは在職期間中、丸3日間出社せず、業務連絡も無視し続けている。プロ意識が欠けているため、今日付で部長職に降格。社内に通知しなさい。

副社長としての特権と持株はすべて没収。新しい副社長である一ノ瀬さんに移しなさい」

静まり返るオフィス。ドアのそばでポケットに手を突っ込んでいた無表情の泰誠を見つめ、咲希の呼吸は思わず重くなった。

以前、彼は大きなミスで会社に大損害を出した幹部をクビにする時ですら、配慮を見せていた。

なのに自分には、容赦のかけらもなかった。

休暇届も理由も確認しないまま、衆目の中で屈辱的な処分を言い放ったのだ。

そんな噂が流れてしまえば、業界内での評判は台無しだし、誇りだったキャリアにも汚点がついてしまう。

咲希は真っ直ぐ泰誠の目を見つめ、言い放った。

「休暇申請は済ませてあります。

この8年間、今回が初めての休みです。休暇中の後半3日間だけ、業務対応をしなかっただけで、そんな言いがかりをつけられる筋合いはありません」

泰誠は事務的に言った。「業務に支障を出したのは事実だ。弁解しても意味がない。今日から、玲奈が君の直属の上司だ。歓迎会を準備してくれ」

玲奈は前に出ると、ファンに向かって手を振るネットアイドルのように、少し腰を引いてしとやかに手を振った。

「みんな!よろしくね!」

ビジネスの場に全くそぐわないあざとい甘えた態度。それが泰誠には面白かったのか、彼は冷徹な瞳を少し和ませ、満足そうに口元を歪めた。

咲希は、思わず拳を握りしめた。

手術台に立つ直前まで連絡を返していた日々。診察室で点滴を受けながら資料を作った夜。目の前の、苦労など知らなそうなその女の姿を見て、胃の奥から嫌悪感がせり上がってきた。

副社長のポスト、泰誠からの評価……

血の滲むような思いで築き上げたものを、ただ5年間海外で遊んでいたという女が、ただの挨拶ひとつで簡単に奪っていった。

歯を食いしばって耐えてきた日々のすべてが、あまりにも軽く扱われたことが、咲希の胸を鈍く締めつけた。

彼女は急に横を向くと、喉元まで出かかった嗚咽をぐっと飲み込み、深呼吸した。

そして振り返り、泰誠を直視して言った。「そんな歓迎会なんてできません。今ここで辞めます」

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