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千個目の願いは、あなたの幸せ第2話

この話は約1955字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

涼介はちょうど私の願い事ノートに手を伸ばし、ページをめくろうとした。

私は慌てて彼の腕を掴んで制した。

「涼介、それは夜になってから開けて。サプライズにしたいの」

涼介は私の変化に気づかず、笑いながら願い事ノートをポケットにしまった。

「分かった、小夜の言う通りにするよ。

腹は減ったか?医者がまだ何も食べてないって言ってたから、先にラーメンでも茹でて腹の足しにしよう。

食べてから朝陽の誕生日を祝いに出かけよう」

愛梨が急いで後を追った。

「じゃあ私はタレを作るね。ちょうどいい機会だし、小夜に私の腕前を味わってもらおうかな」

朝陽がひょいひょいと跳ねるようにキッチンへ駆け込んでくる。

「僕、にんにく剥くの手伝う!」

3人はあっという間に楽しそうに笑い合いながらキッチンへ入っていった。

残された私は、その仲睦まじい背中を見つめていた。

まるで、本当の家族みたいだね。

私は苦笑した。

もういい。私が朝陽の誕生日を祝うのは、これで最後だ。

私が身を引けば、三人は本当の家族になれる。

胃の痛みが、また少し重くなった。私は部屋に入り、自分のものを整理し始めた。

涼介の浮気を目撃して以来、私は疑心暗鬼になっていた。

彼が浮気した日に青い服を着ていたから、家じゅうの青いものを全部燃やした。

部屋の物が少しでも位置を変えると、涙ながらに涼介を問い詰めたものだ。誰かを家に連れ込んだんじゃないかって。

けれど今、部屋の白い壁には、青い壁紙がびっしりと貼られていた。

棚の上の女性用パジャマも、愛梨のサイズに変わっていた。

私に関する物のすべてが、愛梨の好みの形に変わっていた。

ドアの外から愛梨の声が聞こえてきた。

「小夜、この前私の家賃の期限が切れちゃって、涼介が小夜の部屋に仮住まいさせてくれたの。

小夜の荷物は一番上の棚にあるから、探してみて」

私は答えなかった。ただ、洗面台の上に置かれた子猫の歯ブラシに視線を落とした。

それは、私と涼介がずっと使っていたペアのものだ。

愛梨は嘘をついている。

もし本当に「仮住まい」だと言うのなら、歯ブラシの毛先がこれほど外側に開いているはずがない。

まして、もう1本と同じ角度で同じコップに収まっているはずもない。

ふと、入院したあの日のことを思い出した。

愛梨は目を赤くして、私に誓ったのだ。

「小夜、安心して療養してね。

私が彼らのそばにいて、代わりに見ててあげるから」

愛梨は確かにそうした。

1000日以上の昼と夜を、愛梨は一度も欠かさずに私の代わりに彼らを見守り、私の代わりに、2人の生活を埋め尽くした。

心の底に残る苦さを飲み込んで、私は棚を開けて自分のものを整理した。

するとパソコンがピコンピコンと鳴り続けているのが目に入り、閉じようと手を伸ばしかけたが、画面に映った内容を見て、体が固まった。

【社長、本日のラブレターは既にAIで作成して、奥様のメールボックスにお送りしております】

病院に運び込まれたあの日から、冷え切った病室に閉じ込められる日々に耐えられなくなり、泣きわめいて退院を訴えた。

涼介は私をなだめるために、毎日1通、手紙を書くと約束した。

送られてくる手紙には、彼の後ろめたさと、尽きることのない愛情が綴られていた。

眠れない夜を何度も、その手紙を読み返しては過ごした。それが、私を少しずつ回復させる薬になっていた。

1000通以上のラブレター、1000回以上の涙。

そのすべてが、私を弄ぶための笑い話だったのだ。

胃が焼けるように痛んだ。

見慣れた息苦しさが押し寄せてきて、まるで喉を締め上げられているようだった。

私は無意識に机の上の果物ナイフを掴み、自分の手首を幾度か、迷いなく切りつけた。

血が腕を伝って零れ落ち、鮮烈な痛みが息苦しさを一瞬だけ塗りつぶした。

やがて、耳元で朝陽の泣き声が響き、私の手にしていたナイフを、誰かに奪い取られた。

涼介は乱暴に私をベッドに放り投げた。

慣れた手つきで、包帯を何重にも巻いて傷口を縛った。

我に返った。

涼介が私の顎を掴み上げ、後頭部がベッド板に押し付けられた。彼の両目は赤く血走り、落ちた涙が私の頬をかすめた。

「小夜、俺はお前の病気に3年間付き合ってきたんだぞ、それでも足りないのか?

そんなに俺を恨んでるのか、俺の顔を見て生きるのも嫌なくらいに?」

私は一瞬呆然として、無意識に手を上げて涼介の顔の涙を拭おうとした。

指の関節が涼介の胸をかすめ、彼の傷跡に触れた。

私が一番深く自傷したあの時、涼介は目を赤くしてナイフで自分の胸を刺したのだ。

「小夜、俺が悪かった。お前が死ぬなら、俺も一緒に逝ってやる」

死んだように凪いでいた心に、久しぶりに小さな波紋が広がった。

私は無意識に声を和らげた。

「涼介、実はさっき私……」

その時、ドアの外から、愛梨の悲鳴が聞こえた。

「大変、涼介、朝陽が血を見て倒れた!」

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