医者の夫に傷ついた心、時が癒やすまで第1話
この話は約1610字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
女性の後輩とバレンタインを過ごそうと急いでいた医者の夫は、不注意にも下剤をビタミン剤と勘違いして私に飲ませてしまった。
そのせいで流産した私は、夫に助けを求めて電話をしたが、彼は苛立たしげに私の言葉を遮った。
「何度も言わせるな。俺は医者だ。人を救うことは何よりも優先される。お前とバレンタインを過ごす時間なんてないんだ。
用があるなら帰ってからにしろ。もう二度と邪魔をするな!」
直後、夫の後輩がSNSに投稿した写真を目にした。
そこには、ムード満点の照明の下で、男の腹筋に触れる彼女の手が写っていた。
【今夜はたっぷり試させてもらったけど、やっぱり彼、すごかった……うふふ〜】
私は静かに「いいね」を押し、こうコメントした。
【こんなにいい男を捕まえられるなんて、羨ましい~】
* * *
私の名前は千早美咲(ちはや みさき)。
女性の後輩とバレンタインを過ごそうと急いでいた医者の夫・小久保昭雄(おくぼ あきお)は、不注意にも下剤をビタミン剤と勘違いして私に飲ませてしまった。
そのせいで私は流産してしまった。
ソウハ手術の麻酔が切れると、体に激痛が走った。だが、それは心を引き裂かれるような痛みには到底及ばない。
結婚して三年間、私と昭雄はずっと子供を望んでいたが、なかなか授からなかった。
今月初めにようやく妊娠が発覚し、私はすぐに上司に掛け合って、仕事量を減らし、食事や生活習慣を整えてきたのだ。
本当は、このバレンタインの日に彼に吉報を伝えるつもりだった。
しかし、彼は私と過ごす気などさらさらなかった。病院で緊急の患者が出たと嘘をつき、医者でありながらビタミン剤と下剤を間違えるような真似をした。
異変に気づいた時にはもう手遅れだった。彼に電話をかけて助けを呼ぼうとしたのに、彼は私の話を聞こうともしなかった。
「美咲、何度も言っただろう。俺は医者だ。人を救うことは何よりも優先されるんだ。
お前に付き合っている暇はない。用があるなら帰ってからにしろ。もう二度と電話してくるな!」
そう言い放った男が、その直後に後輩の小林恵美(こばやし えみ)のSNSに登場した。
投稿の写真に写ったのは、鮮やかな赤バラ、雰囲気たっぷりのホテルの照明、そして男の腹筋。キャプションは以下のように書いてあった。
【今夜はたっぷり試させてもらったけど、やっぱり彼、すごかった……うふふ〜】
写真の中の、腹筋の横にある黒子を何度も見返し、私の心は氷のように冷え切っていった。
震える指で「いいね」を押し、コメントを残した。
【こんなにいい男を捕まえられるなんて、羨ましい~】
その後、恵美がすぐ投稿を消した。それは意外ではなかった。
だが、昭雄が罪悪感を抱くどころか、逆ギレして問い詰めてくるとは思いもしなかった。
「美咲、恵美は俺の後輩だぞ。あの投稿はただの冗談なのに、そこまでムキになる必要があるのか?
お前が嫌味なコメントなんて書くから、恵美は怖がってアカウントを非公開にしちまったんじゃないか!
今夜は彼女の当直に付き添って、お前の代わりに謝罪してくる。今日は帰らないからな!」
彼は一方的にまくし立てて電話を切った。私が今どこで何をしているのか、一度も問いかけることはなかった。
この電話の目的は、愛する後輩を庇い、家に帰らないための口実を作ることに過ぎない。
なんて滑稽なのだろう。
昭雄からの電話の後、恵美から白々しい謝罪メッセージが届いた。
【ごめんなさい、美咲さん。怒らせるつもりじゃなかったんです。いつも先輩とはあんな感じでふざけ合っていたから、つい……
先輩も、バレンタインなのに私と一緒に当直するなんて、本当にデリカシーがないですよね……帰るように説得したんですけど、全然聞いてくれなくて。
帰ってきたらたっぷりお仕置きしてあげてくださいね!】
私は返信せず、ただ冷ややかに微笑んだ。
そして、知り合いの弁護士に連絡を入れ、離婚協議書の作成を依頼した。
汚れた男なんて、欲しけりゃ譲ってあげる。
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