初恋に溺れた夫、義母に追い出される第3話
この話は約1414字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
その時私は嬉しくて、石井綾香に酒を一杯注いであげた。
彼女は飲み干すと泣き出して、「あなたたちがずっと幸せでいられますように」と言った。
今思えば、その涙は祝福などではなく、私が慎也と結婚したからこその涙だったのだ。
私は慎也の友達をほとんど知らないし、彼も私を友人の集まりに連れて行ったことがない。だから彼の周りから情報を得るのはまず不可能だった。
そこで私はサブ垢を使い、慎也の友達から彼女のペンネームを聞き出してネットで検索した。
驚いたことに、彼女の情報はネットにたくさん出てきて、かなり有名なネット小説の作者なようだ。
彼女の作品は全部で五冊、ざっと読んだがどれも甘やかされ妻系の小説ばかりだ。
文体は繊細で最新作は『青春のあと』というタイトルだった。
開いて読んでみると、大学生活を舞台にした男女の恋愛物語で、主人公の女は感受性の強い小説家、男は両親が公務員の保守的な家庭育ち。
慎也の家族構成と全く同じだ。
物語では、二人は大学卒業後、男の方の親の反対で結ばれなかった。
しかし二人は互いを忘れられず、男の方はその後結婚したものの、妻は難産で亡くなり、子供が一人残された、と書いてあった。
そして二人は再び運命に導かれるように結ばれる、そんな展開だった。
どういうわけか、私にはその物語が石井綾香と佐藤慎也の話にしか思えなかった。
そして物語の中の早死にする佐藤の妻、それが私の役割なのだろう。
そう思った瞬間、吐き気がするほど気分が悪くなった。綾香は自分を清らかなヒロインとして描き、私のことは男を奪って死ぬ悪役扱いだった。
最後は難産で死ぬなんて、どれだけ私を馬鹿にすれば気が済むのだろうか。
小説の読者グループを辿っていき、ついに私は石井綾香のサブ垢を見つけた。
そこには彼女の本音が大量に記録されていた。
最初の投稿は数年前のものだった。
【私の彼は本当に優しい。私に家事は一切させないし、皮付きの果物なんて食べさせられたことがない。渡してくれる水はいつでも蓋が開いていて、私が行きたい場所にはどこへでも付き合ってくれる。彼はいつでも私を支え、理解してくれる】と書かれていた。
次の投稿では綾香は【別れた】と書いていた。
理由は【私は体が弱いし、先天性の心臓病があって子供が産めない。でも彼の家族はとても保守的で、しかも彼は一人息子。三代続く跡取りだから……】とのことだ。
三つ目の投稿では【彼が結婚した】と書いていた。
そして最後の投稿には【彼とまた復縁した。今は佐藤さんと呼んでいる】と。
【佐藤さんの妻は妊娠している。でも子供が生まれたら離婚するって言ってくれた。そして私と結婚するって】
【時々嫉妬しちゃって、わざと身体にあとを残したりしちゃうけど】
【でも我慢する、だってあの女のお腹の中の子供は私と佐藤さんの子なんだから。あの女は私の子を代わりに産んでるだけ。子供は私のことを『ママ』って呼ぶんだから】
読み終えた瞬間、全身が震えて、心臓が谷底へ落ちたように冷たくなった。
まさか私と慎也の結婚が、最初から仕組まれた茶番だったなんて。彼は一度たりとも私を愛したことなどなく、私はただ彼らの遊びの一部として利用されていただけだった。
彼の日頃の優しさは、すべてお腹の中の子どものために過ぎなかったのだ。
きっと彼は、子供が生まれたら適当な理由をつけて私と離婚すると前から決めていたのだろう。
そして私の子供を連れて、自分の永遠の恋人と結婚するつもりだったのだ。
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