「冗談」を言い訳に、親友が私を傷つけ続けた第2話
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空港の外で、突然大きな雷鳴が響いた。
次の瞬間、叩きつけるような雨が降り始めた。
湊が車を入口まで寄せると、両親が先に後部座席へ乗り込んだ。
美咲は自分のワンピースの裾を持ち上げ、慣れた様子で助手席に座る。
私も後部座席のドアに手をかけた。その時、美咲が口を開いた。
「待って」
美咲は降りて、私の腕からドレスバッグを奪うと、ウェディングドレスを後部座席の空いたところに広げた。
「パニエが潰れちゃったら、来週の式で着られなくなっちゃうじゃない?」
座席を占領するドレスを見つめ、私は呟いた。
「私が抱えて乗るから」
すると、美咲は少し困ったような顔で私を見つめ返してきた。
「でも初音ちゃん、汗だくじゃん。せっかくのドレス、汚れたら嫌でしょ?」
数秒の沈黙のあと、湊が淡々と言った。
「初音はタクシーで帰って」
私は思わず顔を上げた。
「この台風よ?タクシーなんて捕まるわけないでしょ」
湊は少し眉を寄せる。
「追加料金払って優先にすりゃ、そのうち捕まるだろ。
父さんと母さんは年寄りなんだから、こんなところで雨に打たせるわけにはいかない。美咲の靴は20万以上するんだぞ。靴底まで革なんだから。水に濡れたら一発でダメになる。
ドレスだって来週の式で着るんだから、トランクに無理やり押し込むわけにもいかない」
一気にまくし立てた湊は、それが一番理にかなっているとでも思っているようだった。
「初音なら体も丈夫だろ。少しくらい濡れたってどうってことない」
思わず自嘲の笑みが漏れた。
……そうか。
湊にとって私は、ドレスや靴よりも大切にしてもらえない。その程度の存在だった。
母が車の中から声をかけた。
「湊、もう行きましょう。
美咲ちゃんさっきから寒そうにしてるじゃない。風邪でも引いたら大変よ」
目の前で、ドアが閉まった。
湊は窓を少し開ける。
「家に着いたら連絡して」
それだけ言い残し、車は雨の中へ消えていった。
私は空港の入口に一人残された。
配車アプリの待ち時間は、いつの間にか10分から30分に延びていた。
画面には、容赦なくドライバーからのキャンセル通知が次々と並んだ。
気づけば、服も髪もすっかり濡れていた。
濡れそぼった髪が、冷たく頬に張り付く。吹き抜ける寒風に、歯の根が合わないほど体が震えた。
立ち尽くすこと一時間。ようやく、一台のタクシーが目の前に止まった。
私が乗り込むと、運転手さんはすぐに暖房を強め、前の座席からティッシュを差し出してくれた。
「よかったら、これ使ってください。
こんな台風の中、お一人でどうされたんですか?ご家族のお迎えは……?」
私は俯いたまま、答えなかった。
運転手さんはバックミラー越しに私を見ると、それ以上は聞かなかった。
ただ、静かな声で言った。
「どうか、気を落とさないでくださいね。台風も、いつまでも続くわけじゃありませんから。
風が収まれば、また晴れますよ」
私はスマホを取り出し、メールを開いた。そこには、2週間前に会社から届いた海外赴任の打診が残っていた。
あの時の私は、湊を置いていくことができなかった。長い時間をかけて準備してきた結婚式も、諦められなかった。だから、ずっと返事を先延ばしにしていた。
でも今、私は承諾の返信を送った。
そして、明日の午後に出発する片道航空券の予約画面を見つめながら、小さく頷いた。
「……ありがとう」
台風が過ぎれば、飛行機はまた飛び立つ。
遥か遠くへ――湊のいない人生へと旅立つのだ。
そして来週、湊の結婚式に、もう花嫁が現れることはない。
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