和紙文「冗談」を言い訳に、親友が私を傷つけ続けた · 第1話設定≡

「冗談」を言い訳に、親友が私を傷つけ続けた第1話

この話は約2549字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

結婚式当日、私――水野初音(みずの はつね)は、朝の4時からヘアメイクさんを待っていた。

しかし、7時になっても、誰一人として現れなかった。

焦った私は、親友の清原美咲(きよはら みさき)に電話をかける。

すると、電話の向こうから笑い声が聞こえた。

「初音ちゃん、ほんと抜けてるよね。

昨日の夜、挙式の予定が急に変わったの。みんなもう会場に向かってるって」

私はウェディングドレスを抱え、急いで会場へ向かった。

汗だくになりながら到着した会場には、誰もいなかった。

その時、美咲から再び電話がかかってきた。彼女は笑いをこらえながら尋ねた。

「まさか、本当に会場まで行ったの?嘘でしょ、ただの冗談なのに!

今はリゾート婚が流行りでしょ? 式はとっくに白ヶ島に変更したの。みんな空港で待ってるわよ」

私は重たいドレスバッグを引きずりながら、第1ターミナルから第2ターミナルへと走り回った。

出発ロビーを何度も探しても、見知った顔なんて一つもない。

その時、美咲からビデオ通話が届いた。画面の中の美咲は、笑いすぎて肩を震わせていた。

「初音ちゃん、遅すぎ!もう先に出発しちゃった!

……なんてね。そもそも、リゾート婚なんて嘘だよ。私たちはただ白ヶ島に一週間遊びに行くだけ。式なんて、帰ってから後で挙げればいいじゃん」

画面が切り替わる。

そこには、私の婚約者である神谷湊(かみや みなと)が、美咲の荷物を持って歩いている姿が映っていた。

その二人のすぐ後ろには、父の水野修一(みずの しゅういち)と母の水野恵(みずの めぐみ)が立ち、家族写真を撮った時よりも楽しそうに笑っていた。

青ざめる私を見て、母は不快そうに眉をひそめた。

「ただの冗談だったのに。

やっぱり美咲ちゃんは気が利いて楽しいわね。初音は昔から真面目すぎるのよ。何でも深刻に考えすぎなの」

湊は美咲の肩に自分の上着をかけ、画面越しの私を見た。

「初音、先に帰って待ってて。

旅行が終わったら、ちゃんと戻って結婚してやるから」

画面に映るみんなの笑顔を見つめながら、私はもう、何かを言う気力さえ失っていた。

怒りも、悲しみもない。ただ、心の中が空っぽになっていく。

その場で、式場へキャンセルの連絡を入れた。

もう、この茶番に付き合うつもりはなかった。

* * *

電話が切れた、その直後だった。突然、空港内にアナウンスが流れた。

台風の影響により、全便欠航が決まったという。

見ると、ファストトラックから湊と美咲、それに両親が歩み出てくるところだった。

白ヶ島行きの便も欠航になったようだ。

私がウェディングドレスを抱えているのを見るなり、美咲はお腹を抱えて笑い出した。

「本当にウェディングドレス抱えて空港まで来たの?

初音ちゃん、相変わらずからかいがいがあるなぁ」

両親まで一緒になって笑っている。

朝4時から待ち続け、ドレスを抱えて式場と空港を走り回った。そんな私の姿も、この人たちには、ただの笑いの種でしかないらしい。

すると、美咲がふいに自分のお腹を撫で、意味ありげな顔で私に近づいてきた。

「実はね、どうしても結婚式を一週間延期しなきゃいけないのには、もう一つ理由があるの。

私、湊の子を妊娠したんだ」

さっと血の気が引き、頭の中でけたたましい耳鳴りが爆発する。

美咲は笑顔のまま続ける。

「もうすぐ3ヶ月になるよ」

私は反射的に湊を見る。

湊は否定もせず、ただ平然とその場に立っていた。

母はため息さえついた。

「もうこうなってしまった以上、美咲ちゃんを責めても仕方ないでしょ。

ましてや、子どもには何の罪もないんだから」

耳鳴りがする。

私はぎゅっと拳を握り締めた。指先の震えが止まらない。

「じゃあ、結婚式をドタキャンしたのは、二人を結婚させるためなの?」

一瞬、辺りが静まり返った。次の瞬間、美咲が吹き出した。

湊も呆れたように口元を緩める。

両親まで腹を抱えて笑い出した。

「まさかまた信じちゃったの?」

美咲は私の肩を叩きながら、涙が出るほど笑っている。

「私、彼氏すらいないんだよ!誰の子を妊娠するのよ?

初音ちゃん、今にも倒れそうな顔してる。面白すぎ」

湊は手を伸ばし、美咲の額を軽く小突いた。

「そういう冗談で、いつも初音をからかうなよ」

一瞬だけ、胸の奥に淡い期待が浮かんだ。けれど次の瞬間、湊は眉をひそめて私を見る。

「初音もだよ。

美咲が冗談好きなの知ってるだろ。なんで毎回本気にするんだ?」

母も面倒くさそうに手を振った。

「そんな顔して、どういうつもり?昔から冗談が通じないね。

みんな楽しくしてるのに、そんな顔されたら、まるでこっちが初音をいじめてるみたいじゃない」

そうか。

この人たちは、ちゃんと知っていたんだ。こんなことを言えば、私が傷つくことを。

知っているからこそ、わざと何も説明せず、私が慌てふためく姿を楽しんでいた。

この10年間、ずっとそうだった。

大学入試の日も、美咲は私に「試験会場が急に変更になった」と嘘をついた。

土砂降りの雨の中、騙されて遠くの会場まで走らされ、ようやく元の駅へ引き返した頃には完全にパニックだった。

見かねた駅員さんが改札から出口まで一緒に全力疾走して道案内してくれたおかげで、私は試験開始の1分前に滑り込めた。

試験が終わると、みんなが私を囲んで笑った。

母まで、こう言った。

「美咲ちゃんは初音の緊張をほぐそうとしただけでしょう?せっかくみんな楽しくしてるんだから、水を差さないで」

湊だって、美咲と口裏を合わせて私を騙したことがある。

二人がキスしているように見える写真をわざと撮り、私に送ってきたのだ。

泣きながら二人のところへ駆けつけると、彼らはとっくにスマホを構え、私の反応を撮るためにカメラを回していた。

そのたびに私は涙を拭い、無理やり笑顔を作った。怒っていないと証明するために。

いつしか、誰もが「面白い美咲」を持ち上げ、私のことを「根暗で、ノリが悪く、冗談の通じない女」と煙たがるようになった。

作り笑いさえ覚えれば、自分の居場所を失わずに済むのだと、そう信じていた。

でも、今日になってようやく分かった。

みんなの笑顔の裏で、私一人が踏み台にされていたのだ。

私は俯き、胸元をそっと押さえた。不思議と、もう痛くなかった。

失望しきってしまえば、人は涙すら出なくなるらしい。

ただ突然、何もかも、どうでもよくなるのだ。

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