八回も延期された結婚式、私は諦めることにした第1話
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式の飾り付けについて話しただけなのに、婚約者の思い人が突然泣きながらその場を飛び出していった。
次の瞬間、悠真にビンタされて、私は床に倒れ込んだ。彼は歯を食いしばり、私を憎むような眼差しで見下ろしていた。
「ことは、お前ってそんなに結婚したいのか?まるで他に誰もお前をもらってくれないみたいに、必死で俺にしがみついて、結婚を急かして……!」
「一週間後の結婚式、延期だ!」
顔を押さえながらも、不思議と心の中は静かだった。
これで八回目だ、悠真が式を先延ばしにするのは。
二十八歳のときから彼を待って、気づけばもう三十歳を過ぎているのに、それでも答えはもらえない。
だから、今回はとても静かに荷物をまとめて、出ていくことを決めた。
この結婚、もう無理してしなくてもいいかなって思った。
* * *
打たれた頬に残る火照りがじんじんして、体が震えて止まらない。
目の前にいる婚約者は、憎しみを込めたまなざしでこちらを見下ろしていた。
そして、ティッシュを取り出し、まるで汚れでも落とすみたいに、私をビンタした手を拭き始めた。
「ことは、お前、咲良(さくら)が体調悪いの知ってて、なんでわざわざ彼女の前で結婚式の話なんか持ち出すんだよ。
俺が結婚するって言ったからって、そんなに焦ってるのか?俺以外に結婚相手が見つからないとでも思ってるのか?そんなに待てないのか?」
彼の顔には、言葉にしきれない苛立ちと、深い軽蔑が滲んでいた。
ふと三年前、如月悠真(きさらぎ ゆうま)がプロポーズしてくれたときの言葉が頭をよぎる。
「ことは、できるだけ早くお前と結婚したい。そうしたら、ずっと一緒にいられるから」
それからしばらくして、私の方から結婚の話を切り出したら。
「盛大な結婚式を挙げよう」って、そう約束してくれた。
でも、あれから三年――その式は、いまだに実現していない。
最初は「まだ早い、若いんだから急ぐことはない」って。
もしかしたらマリッジブルー(結婚前の不安症)なのかと思って、私は彼に心配しないようにと慰めてきた。
その後も「仕事が忙しい」「出張がある」と、理由をつけて二度目も延期。
こんな延期を繰り返すうちに、もう八回目にまでなっていた。
そのたびに、私はワクワクしながら会場を決めたり、司会者と打ち合わせしたり、ご祝儀袋やギフトも用意したのに。
結局、悠真はいつも何かと言い訳をして、逃げてしまう。
ついに今日、私は限界だった。
もう若くもないし、仕事も落ち着いたのだから、覚悟を決めて「いつ結婚式を挙げるの?」と問いかけた。
まさか答えがビンタだなんて。
長い沈黙。
唇をきつく噛みしめて、ジンジン鳴る耳と腫れ上がった頬をただぼんやりと感じていた。
悠真はため息をついて、背を向けて歩き出す。
思わず手を伸ばして、その腕を掴んでしまった。
「どこに行くの……?」
彼はビクッとしたように、私の手を振りほどき、半歩下がる。
そのまま呆然として手を中途半端に浮かせたまま、信じられない思いで見つめていた。
「ごめん、ことは。今のは衝動的だった。すぐに薬を買ってくる」
悠真はすぐに言い訳をして、少しだけ罪悪感のにじむ声でそう言った。
私は何も返さず、ただ唇を噛んだまま。
三年も一緒にいたのに、ふいに別人みたいに思えてしまう。
さっきまで平気で手を上げていたのに、今度は謝って頭を下げてくるなんて。
悠真が出ていったきり、なかなか戻ってこなかった。
心配になって外に出てみると、ホテルの前の街灯の下で、誰かと抱き合っている二人の影が目に入る。
男が女の耳元で囁く。
「大丈夫だよ、咲良。お前が納得しない限り、俺は絶対にあいつと結婚なんてしない」
「お前がここまでしてくれたんだ、お前の言うことは何でも聞くよ」
私は泣き出しそうになるのを必死にこらえて、口を押さえた。
本当はすぐに問い詰めたかったのに、足が重くて一歩も動けなかった。
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