入籍の日、婚約者は秘書と裏切りのキスを交わした第1話
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婚姻届を出すその日、小野寺英二(おのてら えいじ)は約束を破った。
役所の前で一日中待ちぼうけを食らった長澤若菜(ながさわ わかな)に送られてきたのは、彼の秘書・皆川友香(みなかわ ともか)からの写真だった。
写真の中では、若い秘書が英二の上にまたがり、首に腕を回し、夢中でキスを交わしている。
【ごめんなさい、若菜さん。英二さんがどうしても、傷ついた私の心を慰めたいってね。気にしませんよね?】
英二を問い詰めると、返ってきたのは苛立ちに満ちた言葉。
「友香は俺のために献血してくれたんだ。一度付き添ってやったくらいで、何だって言うんだ?なんでそんなに器が小さいんだ?」
もう失望した私は、向き直り、英二の兄・小野寺賢一(おのてら けんいち)に電話をかけた。
「ねえ、まだ私と結婚する気はあるの?」
* * *
婚姻届を出すその日、小野寺英二(おのてら えいじ)は約束を破った。
役所の前で一日中待ちぼうけを食らった長澤若菜(ながさわ わかな)に送られてきたのは、彼の秘書・皆川友香(みなかわ ともか)からの写真だった。
写真の中では、若い秘書が英二の上にまたがり、首に腕を回し、夢中でキスを交わしている。
【ごめんなさい、若菜さん。英二さんがどうしても、傷ついた私の心を慰めたいってね。気にしませんよね?】
英二を問い詰めると、返ってきたのは苛立ちに満ちた言葉。
「友香は俺のために献血してくれたんだ。一度付き添ってやったくらいで、何だって言うんだ?なんでそんなに器が小さいんだ?」
もう失望した私は、向き直り、英二の兄・小野寺賢一(おのてら けんいち)に電話をかけた。
「ねえ、まだ私と結婚する気はあるの?」
電話の向こうで、賢一は少し黙ってから、ゆっくりと口を開く。
「本気か?」
「もちろん」
私の声には迷いがない。
「ただ、まだ私と結婚する気があるかどうか……」
「今、海外にいるんだ。一ヶ月……いや、半月だけ時間をくれ。帰国したらすぐに結婚しよう」
「ええ、待ってるわ」
電話を切った後、スマホに送られてきた写真に目を落とし、静かに画面を消した。
五年の恋も、結局は新鮮さには敵わなかった。
……
英二が帰宅したのは、もう真夜中。
私は彼に近づかず、ただ黙々と自分の荷物をまとめている。
残された時間は半月だけでも、彼とこれ以上無駄な時間を過ごしたくない。
「水を持ってこい。それからパジャマもだ」
英二の口調は、どこまでも偉そうで、私に一瞥もくれなかった。
いつも私を使用人のように扱う。
そしてパジャマを持ってこさせるのは、彼なりのご褒美だ。
今夜は私と同じ部屋で寝てもいい、という意味だから。
以前の私なら、期待していたかもしれない。
でも今の私の心は、何の波も立たず、ただ自分の身の回りのものや服を黙々と片付けている。
しばらくして、英二がバスルームのドアを開け、私が無反応なことに気づくと、眉をひそめ、少し不満げな声を出す。
「まだ行ってないのか?聞こえなかったのか?」
「しばらく実家に帰るわ」
私は静かにスーツケースのジッパーを閉める。
彼の兄と結婚することは、まだ伝えていない。
手元にあるスーツケースを見て、英二は何かを察したのか、眉間のしわをさらに深くし、深いため息をついた。
「いい加減、わがままを言うのはやめてくれないか?」
その口調は平然としていて、まるで些細なことでも話しているかのようだ。
「友香は俺に献血してくれたんだ。ある意味、命の恩人なんだよ。年に一度の誕生日なんだから、一緒にいてやってもいいだろ?たかが婚姻届を出してないだけじゃないか。些細なことで嫉妬するなんて、どうかしてるぞ?」
些細なこと?
私は思わず自嘲の笑みを浮かべる。
彼にとって、私との結婚は、ただの些細なことだったのだ。
赤の他人の誕生日よりも、重要ではないこと。
どうやら、私が長年、あまりにも卑屈に愛しすぎていたせいで、彼はこんなにも無神経になれたのだろう。
英二の心の中では、私が何をするにも彼が中心であるべきだと、本能的に思っていたのかもしれない。
でも、もう疲れた。
こんな、塵のように卑屈な愛は、もういらない。
私が黙っているのを見た英二は、そばに近づき、そっと私の腰を抱きしめ、優しい声で言った。
「もういいだろ。こんな些細なことで実家に帰るなんて言うなよ。婚姻届なんて、いつでも提出できるじゃないか。たかが紙切れ一枚だろ?なんでそんなに気にするんだ?」
私の頭の中で、何かがプツンと切れた。
これは、歩み寄っているつもり?
「紙切れ一枚だって!?」
私はもう心の怒りを抑えきれない。
「あなたにとっては、私たちの結婚より、あの女の誕生日の方が大事だってこと?」
「当たり前だろ!」
英二は不満そうに私を睨みつけ、ほとんど間髪入れずに答えた。
喉まで出かかった言葉が、ぐっと詰まる。
私は信じられないという顔で彼を見つめる。
どうして彼は、こんなにも平然とそんなことが言えるのだろう?
英二の当然といった表情を見て、私はふと、心が軽くなるのを感じた。
まるで心の中にあった大きな石が、どすんと落ちたようだ。
「それなら、そんな紙切れ一枚、もらわなくてもいいわね」
そう言って、私は寝室に向かい、ドアを力強く閉める。
バタンという大きな音と共に、私の心も重く地面に落ちて、粉々に砕け散った気がした。
「若菜、意地を張るなよ。いつ婚姻届を出さないなんて言った?」
英二がドアの外で、いらいらとつぶやくのが聞こえる。
「これまでの付き合いを考えろよ。俺に対して、それっぽっちの信頼もないのか?
少しは俺の立場になって考えてくれないか?」
私が返事をしないでいると、彼は怒ってドアを蹴飛ばし、背を向けて出ていった。
それに対しても、私は少しも驚かない。
これまでの喧嘩は、いつも私が先に折れていたから。たとえ彼が何か間違ったことをしても、最後は私が折れて、彼に歩み寄りのきっかけを与えていた。
今日、彼が自ら折れてくれただけでも、前代未聞のことだ。
彼が私のように、必死に許しを請うことなんて、あり得ないのだから。
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