
兄の悔恨、炎に消えた妹
| 言語 | 日本語 |
|---|---|
| 章数 | 全10話 |
| 試し読み | なし(公式アプリで読めます) |
| 掲載日 |
『兄の悔恨、炎に消えた妹』は日本語の小説です。本文は公式アプリでお読みいただけます。アプリでは第6話まで無料で読めます。
あらすじ
助けて、お兄ちゃん。
炎が身を焦がす熱さの中で、私は最後の力を振り絞った。両手は後ろで縛られ、口には粘着テープがびったりと貼られていた。声は、意味のある言葉にはならない。しかし、まだ動く指先が、ズボンのポケットの中で、冷たい液晶画面に触れた。
…よし、ロックは解除済みだ。さっき、あいつらが油を撒いている隙に、触れておいて正解だった。
呼吸が苦しい。煙が目に染みる。でも、諦められない。お兄ちゃんに、真実を…!
私は、鼻と顎でポケットの中のスマホをこする。画面が光った。「ヘイ、Siri、兄に電話」 できるだけはっきりと、それでも詰まったような声で命じる。
呼び出し音が鳴り響く。 鼓動が早くなる。どうか、どうか出て…!
『…もしもし?』
聞き慣れた、しかし今は冷たいその声が、耳に飛び込んできた。
「ん…! お、おに…ぐっ…!」 テープの下から漏れる呻き声。焦りで足をバタつかせる音。倒れこむ私の体と、近づく炎の爆ぜる音。すべてが雑音として電話口に伝わる。
『…また、美桜をいじめるための狂言か?』
違う!違うのに!
「っ…! た、すけ…」
『嘘つきの放火魔が。』
その一言が、私の心の炎を消した。全身の力が抜ける。抵抗する意味が、なくなった。
『お前なんか、死ねばいい』
プツッ。
世界が、静かになった。熱で溶けた携帯が手から滑り落ちる音さえ、遠く感じる。
ああ、これが、世界で唯一、私を愛してくれなかった人からの、最後の言葉。
もう、疲れた。
そう思った瞬間、背中の古い火傷の痕が疼いた。幼い頃、お兄ちゃんを庇った時の、あの傷。すべての始まりだった。
英雄と呼ばれた橘蒼甫はその日、実の妹である私を、その「無関心」という名の手で殺した。
そして私は、その一部始終を見届ける、ただの魂になった。
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