兄が生きて帰ったら、家族全員が狂ってしまった第1話
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兄は、私の誕生日に間に合おうと急いで帰る途中、飛行機事故に遭い、遺体さえ残らなかった。
それ以降の誕生日ごとに、私は両親に兄の墓前で跪かされ、贖罪を強いられた。
十八歳の誕生日、私は見知らぬ男に尾行され、恐怖に震えながら必死にメッセージを打っていた。
その後、母から電話がかかってきた。
「どうせお兄さんの墓前に跪きたくなくて、言い訳してるだけでしょう!嘘ばかりついて……どうしてあの時、死んだのがお前じゃなかったの、この疫病神!」
ストーカーに携帯を踏み砕かれる直前、無機質な通話終了音が響いた。
私は切り刻まれ、街のあちこちに捨てられた。
私の事件を担当した監察医の父でさえ、それが私だとは気づかなかった。
その後、兄は八年間駆け落ちしていた妻を伴い、華やかに帰ってきた。
そして、あの無残な肉塊が私であったと知ったとき……
彼らは皆、狂ってしまった。
* * *
父が警察署に緊急呼び出しを受けたとき、私の遺体は、まだ街のあちこちに散らばったままだった。
外では稲光が走り、豪雨が叩きつけていた。
警察官全員が警察犬を連れて、街中を捜索していた。
緒方警部が全身ずぶ濡れで、血に染まった袋を提げて入ってきた。
「この袋は雨に濡れていない。若林さん、これで犯人の痕跡が検出できるか」
父はうなずき、袋を開けた。中には麻雀牌ほどに整えられた褐色の肉片が並んでいた。
瞬く間に父の目は赤く染まり、荒い呼吸とともに、押し殺した怒気が滲み出た。
「この畜生め!被害者が生きている間に、肉を一片ずつ切り取ったんだ!」
八年ぶりに、父は私のために涙をにじませた。
緒方警部も顔を強張らせ、声を出すことすらできなかった。
やがて次々と袋が運ばれ、父は私の肉片を一つ一つ組み合わせ、姿を形作っていった。
父は腰を曲げたまま、充血した目で作業を一昼夜続けた。
ついに血に塗れ、皮膚を失った身体が姿を現した。
緒方警部はこらえきれず吐き、その合間に問いかけた。
「皮膚がない……犯人は痕跡を消すためか?」
「いや」父は深く息を吸い込んだ。「拷問だ。被害者が生きながら皮を剥がされた。犯人は被害者に苦痛を与えることを愉しんでた。
さらに、肉塊の状態から見て、剥皮のあと塩を擦り込み、ゆっくり肉を削ぎ落とし、数時間苦しむ様を眺めながら死に至らせた。殺害の過程そのものを楽しんでいたのだ」
この町で最も優れた監察医と呼ばれる父は、私の死を正確に言い当てた。
「クソッ!畜生め!」緒方警部が吐き捨てた。
「顔の皮膚は剥がされ、硫酸で焼かれていた。身元は確認できない。だが歯の摩耗から、年齢は十六から二十歳と推定できる。
それに、骨を収めた袋のうち、右脚の骨だけが欠けていた。おそらくそこに先天的、あるいは後天的な異常や手術痕がある。
犯人は用心深い。何の手掛かりも残していない。ただ、頭蓋骨を復元すれば顔を再現できるかもしれん。だが時間がかかるんだ」
緒方警部は父の肩を軽く叩き、ふと私の右脚に目を留め、眉をひそめた。
「若林さん……八年前の『雨の人殺し』と同じ手口じゃないか?」
父の手がわずかに震えた。
八年前、父が証拠を突き止めたことで追い詰められた「雨の人殺し」は、兄の乗る飛行機に細工をして墜落させた。父にとっては忌まわしい記憶だった。
「もし犯人が『雨の人殺し』と関係してるなら、若林さん……家族の安全に気をつけて。手口が変わってないなら、次の標的は結菜かも」
私の名前を聞いた瞬間、父は眉をひそめた。
「あいつのことはどうでもいい」
その冷淡な一言が、解剖室を凍りつかせた。
私にとって、凶器で肉をえぐられるより、その言葉の方が千倍も万倍も痛かった。
八年もの間、無視や罵声、辱めに耐えれば、父の恨みも少しは和らぐと思ってた。
だが違う。父は私の死を心から望んでいた。
「若林さん!」緒方警部が声を強めた。「そんな言葉、もし娘の耳に入ったらどうする!」
「関係ない!もしあいつが兄を呼び戻そうとしなければ、『雨の人殺し』に見つかることがなかった!息子は死ななかった!」
父は荒い息を吐き、血走った目で叫んだ。
「息子が……死んだとき、まだ十八だったんだぞ!遺骨も残らず、俺と妻は飛行機の墜落した山に八年も探してた!一片の痕跡すら見つからなかったんだ!」
こんな言葉は八年間、何度も両親の口から突き刺さり、私を「兄を殺した元凶」だと刻みつけてきた。
深夜の夢の中で、父は葬儀の場で私の首を絞め、「なぜ死んだのがお前じゃないんだ!」と繰り返していた。
私も考えていた。なぜ死んだのが私ではなかったのか、と。
そうであれば、まだ家族に愛される少女でいられたのに。疫病神と呼ばれる存在にはならずに済んだのに。
「経一はもういない。結菜まで失って後悔するつもりか?」緒方警部は嘆いた。
私は父を見つめ、答えを待っている。
「言っただろう。あいつのことはどうでもいい」
その瞬間、私の心の灯は完全に消えた。
父さん、私はもう死んだ。これで満足だろうか?
その時、血に染まったお守りが届けられた。
小さなお守りは、真っ赤に濡れていた。
父は一瞥しただけで助手に指示した。
「普通のお守りだ。鑑識課に回して血が被害者のものか調べろ」
私は呆然と父を見た。
それが父から贈られたお守りだ。しかし、彼はもう忘れてしまっていた。
当時、父の仕事で敵を多く作り、私は母とともに誘拐されたことがあった。
私を救うために、母はバイクに乗った犯人にアスファルトに引きずられ、父は胸を刺された。
退院後、父は私にこのお守りを渡した。中には小型の高電圧スタンガンが仕込まれていた。
父は何度も使い方を教えてくれ、私の頭を撫でながら言った。
「これで、パパがそばにいなくても、結菜は自分を守れるよ」
だが今、その贈り物はただの「普通のお守り」としか見なされなかった。
父さん……あなたは私の身元を示す証を見逃した。
仕事の合間に、父は携帯を見て、私の救助メッセージを気付いた。
私はようやく気づいてくれたと思ったが、彼が母にかけた電話はこうだ。
「また尾行されてるだと?この茶番をいつまで続ける気だ。若林結菜(わかばやし ゆいな)はこんなメッセージまで送りやがって……経一の墓で何日も跪かせて頭を冷やさせろ!」
ちがう!父さん、私は本当に襲われた!あなたが繋ぎ合わせた肉片こそ、私なんだ!一度でいい、信じて!
だが彼はただ苛立たしげに眉をひそめた。
母が心配して、不審に思ってくれるかと期待した。
八年前のストーカー事件以来、私はこんなメッセージを送ったことはなかったから。
でも母はまず父を落ち着かせ、「体を壊さないで」と言ったが、すぐに冷たく言い放った。「私のところにも来たわよ、あの子のくだらないメッセージ。毎日人を悩ませて……もう墓で跪かせてやったわ。この数日家には戻らせない。顔を見るだけで不快だ」
父は母に戸締りを念押し、ふたりで私を罵り続けた。
私は外で何が起きるか、誰も気にかけようとしなかった。
私は壁に寄りかかり、胸の奥が軋むように痛んでいる。
私の死など、誰ひとり気にかけていなかった。
そのとき、外から声が響いた。
「刑事さん!私の友人、若林結菜が二日も行方不明なんです!」
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