元彼の兄と結婚したら、元彼が逆上した第3話
この話は約2607字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
水輝は一瞬あっけに取られたが、すぐに理解したような笑みを浮かべた。
「ネネ、まだ怒ってるのか?」
水輝の声は相変わらず素っ気なく、私が拗ねているだけだと思っているようだった。
私が冷たい表情を崩さないのを見て、彼はようやく不自然に軽く咳払いをして説明を始めた。
「俺が悪かった、それでいいだろ?
でも、それもただ君の気持ちを確認したかっただけなんだ。
うちは俺たちの縁談を最初から快く思っていなかったのも知ってるだろ?じいさんの遺言がなければ、君の家柄じゃ到底……ね?」
おそらく自分の言葉が相手を傷つけることに気づいたのだろう。言いかけで彼は目を伏せ、話題を変えた。
「とにかく、もう心配しなくていい。君が俺に本気だってもうわかったから、もう二度とあんな風に疑ったりしない」
私の祖父は兵士だった。祖父は戦争で命がけで渡辺家のじいさんを救い、それから二人は生死を共にするほどの親友となった。
戦火の中、二人は「お互い孫ができたら結婚させよう」と約束を交わした。
しかしまあ、残念ながら、今となっては渡辺のじいさんに私と水輝の結婚を見届けてもらうことは不可能となった。
そしてちょうどその年、本物の継承者である崇時が渡辺家へ戻り、一方、水輝は追い出されたとのこと。
それなのに、今、水輝はこう言った。追い出されたというのも、半身不随だというのもまったくの嘘だった。その全てが私を試す「試練」だったと。
すべては彼の遊び心に過ぎなかったのだと。
私は呆然と立ち尽くし、心には見誤った相手への嫌悪だけが残った。
「水輝、私たちはもう別れたのよ。もう今後一切関わりたくないわ」
「別れる」という言葉を聞いた水輝の口元が歪んだが、それでも怒りを抑えた。
女なんて、少し甘やかしてやればきっと戻るさ。
「別にいいだろう、小林家のお嬢様ではなくなったことで怒ってるのか?後で俺が一言言えば、小林家はきっとまた認めてくれる。これ以上騒ぐのは面白くないぞ」
私であれ小林家であれ、水輝にとっては暇つぶしの玩具に過ぎないようだ。
私は軽くため息をついた。
彼は相変わらず、自分に何の問題もないと思っている。
私たち二人の関係も、最初から最後まで、結局は彼の暇つぶしに過ぎなかったのだ。
けれど、私が費やした時間、労力、感情は、全て本心からのものだった。
それでも彼は今でも、私が何を望んでいるのか、なぜ怒っているのか、理解していないのだ。
私が相手にしなかったのを見て、水輝は怒りを露わにした。
「兄貴に媚びれば安泰だと思ってるのか?あいつも君を弄んでるだけだ。
俺がまだ甘やかしてるうちに、いい加減にやめたらどうだ?自分を何様だと思ってるんだ!」
その言葉で我慢できず、私は即座に平手打ちを食らわせた。呆然とする水輝に、私は震えながら指さした。
「水輝っ!そんなことが言い出せるなんて、あなたを愛してしまったのが人生最大の過ちだったわ!」
水輝は痣に手をかざし、信じられないという表情で私を見た。しばらくして、怒りが頂点に達したようで、彼は逆に笑い出した。
「いいだろう!
君が飽きられて捨てられる時が来たら、俺が助けるつもりはないからな!」
ちょうどその時、彼の電話が突然鳴った。
水輝は画面を一瞥すると、怒りを堪え、スピーカーモードにしながら電話に出た。
「水輝さん、さっき祖父がまた婚約の話をしてたの。
姉さんが家を出たからには、私のこと婚約者だと認めてくれる?」
どうやら相手は悦だった。水輝は答えずに、ただ私をじっと見つめた。
私がヒステリックに「断ってよ!」と叫び、それから二人の女が彼を奪い合う展開を待っていたのだろう。
しかし今回は、私は顔色一つ変わらなかった。
それを見た彼は歯を食いしばり、意地を張るように電話の向こうの悦に言った。
「ああ、いいよ」
そして彼は背を向け、憤りながら私に一言残してその場を離れた。
「ネネ、君が自ら諦めたんだ。後悔するなよ!」
私は何も言わず、ただドアを勢いよく閉めた。涙が目に浮かんだが、無理やりこらえた。
泣きたい。この何年も無駄にしてきた感情のために思い切り泣きたい。
心の底が腐った人間を間違って愛したことは、まるでハエを飲み込んだような不快感だった。
その夜、崇時は別荘に戻った。
さすが名門だと言っていいだろうか、渡辺家の血筋は強く、二十年以上行方不明だった長男でさえも威圧的なオーラをまとっていた。
使用人の田中が「食事中は付き添い不要」と言うので、彼が手を洗い終わるのを待って私も離れようとしたが、崇時は口を開いた。
「君は残れ」
胸がドキリとした。おそらく彼は私が今日彼の弟を平手打ちしたことで、急いで戻ってきて問いただしに来たのだろう。
追い出されて街頭を彷徨う羽目になるだろうか?
正直なところ、働き始めてからここが一番良い「職場」だった。
使用人一人ひとりに個室が与えられ、洗濯機と乾燥機まで完備されている。
ここでの仕事を失いたくなかった。
彼が口を開く前に、私は慌てて駆け寄り、目を閉じて彼の前に跪いた。
「ごめんなさい、全部私が悪いんです。弟を殴るべきではありませんでした。ここで働かせてください、何でもします」
言い終わってからしばらく待っても、目の前の男は言葉を発しなかった。
不安に目を開けると、顔を上げた瞬間、彼の頬に微かな赤みが差していたのが見える。
その時、私はようやく気づいた。
私は、極めて都合の悪い姿勢で彼の股間の前で跪いていたのだ。
頭をもう少し下げれば真正面になる位置で、そして彼は今、少し感じているようだ……
私は恥ずかしさで顔が真っ赤になり、視線をどこに向ければいいのかわからなかった。
「まあ……とりあえず起きろ。君を責めるつもりはない」
どうやって立ち上がったのか覚えていないが、空気だけが妙に熱く感じられた。
彼はため息をつき、立ち上がると、わずかに身を屈めて私に近づいてきた。
まさか、鬱憤を晴らすために私を犯すつもり?
私は反射的に顔を少し上げ、目を固く閉じた。しかし想像していたことは起こらなかった。
代わりに、手のひらに熱を感じた。目を開けると、崇時は私の両手のひらを握り、そっと揉んでいた。
「手、痛くないか?」
「え?」
頭がぼんやりして、彼の思考についていけなかった。
「今日、あいつをぶったんだろ?手は痛くないのか?」
目がくらんだのか、彼が私を見つめるその眼差しが……深い愛情に満ちているように見えたけど……
ちょっと待って。
この展開、おかしくない?
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