元カノの結婚式で新郎役を演じた彼、さようなら第3話
この話は約1617字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
結局、私はあのウェディングドレスショップへ足を運んだ。
あらかじめ予約していたドレスをキャンセルするためだ。
店長は仕事で何度も顔を合わせている、気心の知れた人だった。
彼女が言うには、ウェディングドレスは恭介のアカウントから申し込まれたものなので、私の一存では直接キャンセルできないらしい。
申請手続きが必要で、少し待たされることになった。
私は少し考えて、承諾した。
ほんの数時間待つくらい、彼と過ごした7年間に比べれば大したことではない。
ショップで深夜を迎えた今、とっくに式は終わっているはずだった。
やはり、恭介は現れなかった。
彼はきっと、私がいつも待っていることに甘えている。だから、数時間だろうと、数日だろうと、数年だろうと、平気で私を待たせるのだ。
腹を立てることもなく、私は店長からキャンセル手続きの書類を受け取ると、そのまま店を後にした。
「篠原さん」
店長が去ろうとする私を呼び止め、心配そうな顔で言った。
「急にキャンセルだなんて、何かあったんですか?」
私は首を横に振り、なるべく明るいトーンで返した。
「ただ、待つのに疲れてしまっただけなんです。もう終わりにしようと思って」
店長はきょとんとした表情を浮かべたが、それ以上は何も聞いてこなかった。
店を出た後、私はひとりで宛てもなく街を歩き回った。
家に戻ったときには、もう夜中を過ぎていた。
リビングの明かりがついている。驚いたことに、恭介が待っていた。
いつもは私が彼を待つばかりだったのに、まさか恭介が、私を待っているなんて。
普段なら、私は焦るようにして夜9時前には仕事を切り上げて家に帰り、夜食を作り、胃薬を用意して彼を待っていた。
そして彼はほとんどの場合、帰るなりすぐに眠ってしまった。
夜食を口にすることも、薬を飲むこともない。
もちろん、私に見向きもしなかった。
首を振って、過去の思い出を振り払う。
恭介は冷ややかな目を向け、トゲのある声で言った。
「何度もスマホに連絡したんだぞ。こんな時間までどこにいたんだ?」
「ウェディングドレスショップよ」
恭介は押し黙った。彼自身からベールを選びに行こうと誘ってきたことを、ようやく思い出したのだろう。
少しの間を置いて、彼はプレゼントの箱が入った袋を差し出してきた。
「これ、お前に」
袋には、有名なアクセサリーブランドのロゴが入っていた。
彼は今までに5回、この店でアクセサリーを買ってくれた。
そのうちの2回は全く同じデザインのネックレスで、色違いでもなかった。
「ありがとう」
私はそれを受け取ると、テーブルの端にほんと置いた。
恭介は眉をひそめた。「開けて見ないのか?」
「後で見るわ」
恭介は少し唖然とした後、立ち上がった。
彼の瞳に困惑の色が浮かぶ。私の冷めた態度が理解できないようだった。
「今夜約束を守れなかったのは、莉奈が飲みすぎてしまって、放っておけなかったからで……」
私は彼の言葉を遮った。
「いいの、説明しなくて大丈夫。分かっているから」
恭介はイライラしたように表情を険しくした。
「式の前に話しただろ?莉奈の彼氏が来られなくなったから、代わりを頼まれたって。
それなのに、何が不満なんだ?」
私はスマホで結婚式の式場のキャンセル手続きを進めながら、口元だけ動かして淡々と答えた。
「私の意見を聞くこともなく自分で決めたじゃない?恭介、それを相談とは言わないわ。
ただの事後報告よ」
恭介は言葉を詰まらせ、険しい表情で私を睨みつけることしかできなかった。
彼のその様子を見て、私は小さくため息を漏らした。
「恭介、私たち――」
「別れましょう」と言いかける前に、彼のスマホが鳴り響いた。
彼は渋い顔をして私を一瞥し、電話に出ると急ぎ足で玄関へ向かった。
「莉奈、今行くから。落ち着いて待ってろ……」
ドアが乱暴に閉まった。私は気にも留めず、ゲストルームに向かった。
久しぶりに、何事も考えずに深く眠った。
目が覚めたときには、朝の10時を過ぎていた。
恭介は一晩中戻らなかった。
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