元カノの結婚式で新郎役を演じた彼、さようなら第1話
この話は約2188字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
神崎恭介(かんざき きょうすけ)と付き合って7年も経つのに、私・篠原葵(しのはら あおい)は一度も彼からプロポーズをされていない。
それどころか、招待された友人の結婚式に出席したとき、新婦・吉川莉奈(よしかわ りな)に腕を絡ませて笑っている新郎が、彼だったのだ。
「本物の新郎が式直前に逃げ出したんだよ。でも式は止められないから、俺が莉奈の手助けをしただけだ」
彼は必死になって言い訳をした。それでも、新婦を見つめる時の嬉しそうな様子は隠しきれていなかった。
「ほら、俺たちの式の練習になっただろ?お前も最高の結婚式にしたいって言ってたじゃないか」
確かにそうだ。私はいつか挙げる結婚式のために、5年間もかけて計画を練り上げてきた。
けれど今、彼がその身を置いているのは、私と歩むはずだった誓いの場ではない。莉奈の新郎として、彼女の隣に立っている。
私の結婚式は、もう絶対に幸せなものにはならない。
* * *
神崎恭介(かんざき きょうすけ)と付き合って7年も経つのに、私・篠原葵(しのはら あおい)は一度も彼からプロポーズをされていない。
それどころか、ある結婚式に出席したとき、新婦・吉川莉奈(よしかわ りな)に腕を絡ませて笑っている新郎が、彼だったのだ。
「本物の新郎が式直前に逃げ出したんだよ。でも式は止められないから、俺が莉奈の手助けをしただけだ」
彼は必死になって言い訳をした。それでも、新婦を見つめる時の嬉しそうな様子は隠しきれていなかった。
「ほら、俺たちの式の練習になっただろ?お前も最高の結婚式にしたいって言ってたじゃないか」
確かにそうだ。私はいつか挙げる結婚式のために、5年間もかけて計画を練り上げてきた。
けれど今、彼がその身を置いているのは、私と歩むはずだった誓いの場ではない。莉奈の新郎として、彼女の隣に立っている。
私の結婚式は、もう絶対に幸せなものにはならない。
会場は大盛り上がりだ。
まわりの招待客たちが楽しそうにグラスを持ち上げる。
「本当に恭介さんがいて助かったよ。そうでなきゃどうしようもなかったね」
「でもさ、彼と莉奈さんが並ぶとお似合いじゃないか。高校時代、有名な美男美女カップルだっただけのことはあるな」
噂話をしていた招待客の一人に、隣の人が小さくツッコミを入れた。
「声がでかいよ、いまの彼女が同じ席にいるんだから……」
相手は慌てて口を塞ぎ、声を潜めた。
「え、彼女も来ているのか。よくやるよな」
「でもあの上機嫌な笑顔は、絶対に莉奈さんとまたやり直したいって表情だよ。あれが演技に見えるか?」
ひそひそ話が、どうしても私の耳に滑り込んでくる。
恭介と一緒に7年歩んできたけれど、私にはプロポーズすらしたことがない。
なのに今、他の女の子の手をとって、永遠を誓い合っている。
私は手元にあるお茶をすする。
もうかなり前に冷めきったお茶は、胸が痛くなるほど苦い。
儀式自体が終幕に向かい、いよいよ挨拶回りの時間が始まる。
人だかりがざわつき、彼らを見上げる方向に目を向けてみた。
やはり。恭介は自分から進んで、莉奈から空のグラスを貰おうとしていた。
「残りは俺が飲んであげるよ」という風に、優しくグラスを奪ったのだ。
その光景を見た親族や友人たちが、ひゅうひゅうと声を上げて二人を囃し立てた。
莉奈は恥ずかしがりながら、恭介の肩をつついている。
その唇の動きは、「あんまり飲みすぎないで」と言いたそうに見えた。
それはこの世で最も温かい光景そのものだった。
もしあれが私の知らない人だったら、その仲睦まじさに喜んでいただろうに。
正面にいる席の招待客が、寂しそうに声を上げた。
「見ての通り、恭介さんの気持ちは全然ブレていないね。
当時はお互い若すぎて、どうしようもなかった。でもこれだけ月日が経っても、お互いが今も特別な存在だってことは、誰の目にも明らかだよ。
本当に何かの弾みで、元サヤに戻ったりするんじゃないのかな……」
私は小さく息をつき、静かに視線を戻した。
本当はアルコールが全然大丈夫でお酒がとても強い男だと、私は今日初めて気づかされたのだ。
それなのに、私は彼を想うあまり、無理をしてまで接待の酒を飲み干してきた。彼が潰れないように、身代わりになって……
いつも彼は座って見届けるばかりで、一度たりとも「やめていい」と口にすることはなかった。
悲しい事実のはずなのに、おかしなことに気持ちがスーッと引いていく感覚がした。
もう、どうでもいいか。
恭介の求婚を7年間ただ心待ちにしている間、彼はあっさりと莉奈の手を取っていたのだから。
7年もの歳月をかけて彼を想い続けた恋心は、皆からすれば、彼と莉奈の物語を彩るための「当て馬」に過ぎなかったのだ。
いい。もう自分を解放してやろう。
先にこっそりと帰ろうとして鞄を抱えたところで、二人の姿が目の前をふさいだ。
挨拶回りに訪れた、恭介と莉奈だった。
「篠原さん、こんなに素敵な結婚式をプロデュースしてくださって、本当にありがとうございます!お礼にぜひ、一杯を!」
莉奈が明るい声でお祝いグラスを寄こした。
お酒を見ていると、挙式になる直前の冷ややかな場面が不意に浮かぶ。
「式の最中はどうか余計な愚痴は言うなよ、お願いだからトラブルにするな」恭介は、私にそう約束させた。
私はなぜそこまで強いるのだろうかとも知らずに、承諾してしまっていたのだ。
まさか彼が、この結婚式の新郎だったなんて。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)