偽装結婚が本当になったら、幼馴染が大後悔した件第2話
この話は約2441字。当サイトで読める2話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第3話からは公式アプリで読めます。
早苗が大げさに私の手をつかんだ。
「千秋、そのダイヤの指輪、すごく大きいね!」
悠也が一瞥して、鼻で笑った。
「たぶんメルカリか何かで買ったんだろ?このご時世、人工ダイヤなんて大した価値ないしさ」
悠也の友が横から調子づいて言う。
「そうだよ、千秋。見栄張るなよ。どうしても結婚したいなら、悠也にはダメなんだけど、俺が我慢してやってもいいぜ!」
そう言いながら、黄色い歯を見せて私の手を触ろうとする。私は思い切り払いのけた。
「触るな!」
彼は顔をしかめ、地面に唾を吐き捨てて怒鳴り返した。
「ちっ!いい女ぶってんじゃねえよ、せっかくの親切を無駄にするなんて。てめえみたいな女、マジで欲しいかよ!」
私の言葉に、悠也もさらに腹を立てた。
「千秋、調子乗ってんじゃねえぞ!俺の友にそんな口の聞き方があるか!」
彼の怒りで赤くなった顔を見て、私の胸の奥がじわじわと冷たくなっていく。
どれだけ尽くしても、彼の心の中では早苗にはかなわない。
彼のろくでもない友人たちでさえ、私を好き勝手に辱めていいのだ。
早苗はほんのり頬を染めながら、悠也のシャツの裾を引っ張った。
「悠也、女の子にそんなに強く言わないで。だって彼女、手伝いに来てくれたんだから」
そう言うと、無邪気な表情で私に近づいてきた。
「千秋、今日は本当にありがとう。ウェディングドレスもけっこうお金かかったでしょ?見た感じオーダーメイドみたいだけど、本気出したんだね!」
悠也はいたわるように彼女を抱き寄せた。
「早苗、あなたは優しすぎるんだよ。たぶんレンタルだろうが」
そう言って、嘲るような目で私を一瞥した。
「ここは市内でも最高級のホテルだぜ?俺だって一時間だけ借りるのがやっとだ。こいつごときが、貸し切りできるような金持ちの亭主をどこで見つけるっていうんだ?」
早苗は口をとがらせて彼の胸に飛び込んだ。まるで小さな白い花のように、純情で可哀そうに見える。
「悠也、千秋にそんなこと言っちゃダメよ。だって彼女、あなたのことが好きなんだから!」
彼の後を何年も追いかけてきた私は、彼女の本性はとっくに見抜いていた。
人前では清楚な白い花、陰ではタバコに酒と何でもこなす。
それなのに、悠也は彼女の清純そうな仮面にすっかり惑わされ、中絶の手術代さえ出していた。
私が親切心で忠告したのに、返ってきたのは彼の険しい表情と怒声だけだった。
「千秋、お前がそんな奴だとは思わなかったぞ。早苗は盲腸のちょっとした手術をしただけなのに、中絶だなんてでっち上げるなんて?二度とそんなこと言ったら、女でも殴るからな!」
それ以来、私は一言も余計なことは言わなかった。
早苗が彼の胸から顔を上げ、私を見る目は優越感と憐れみが入り混じっていた。彼女はわざとらしく肩を落としてため息をついた。
「千秋、友達として、あなたがこんな風なのを見るのは本当に胸が痛むわ。
あなたが悠也の後を何年も追いかけてきて……彼、実は陰であなたの気持ちにすごく気を遣ってたのよ。
『女性からアプローチするのはハードルが低い』って言うけど、やっぱり無理にねじ曲げた恋にしあわせはないのよね……彼はあなたをただの兄弟分だと思ってるだけなのよ……」
悠也の友が慌てて言葉を継いだ。口を歪めて笑いながら。
「そうだよ!千秋みたいな前も後ろもペッタンコな女は、まったく男みてえだ!早苗みたいなグラマラスな極上娘には敵わねえっての!」
彼がまだ下品な笑みを浮かべていると、悠也が拳を振りかざした。
「早苗にそんな下心持つなよ!
口をきれいにしろ!」
悠也の友は腫れ上がった口元を押さえながら、憎しみの目で私を睨んだ。
その瞬間、私はようやく理解した。
私がどんなに嘲笑され、からかわれようと、悠也はそばで楽しそうに笑っていられる。
でも、早苗に対して冗談を一言でも言おうものなら、たちまち彼の逆鱗に触れるのだ。
早苗が慌てて話に入った。
「もう、もう!私の顔を立てて、やめてよ!」
そう言うと、私の指からダイヤの指輪を剥がし取ろうとした。
「千秋、ドレスも指輪も早く返品しなさい。早ければ少しはお金戻るかもよ!」
声は優しくても、手つきは容赦ない。
「返送料は私が出してあげる。これからは見栄を張るのはやめなさいね!」
彼女の慈しむような口調と、裏腹に容赦ない手つき――その矛盾こそが、周囲に『可憐で善良な女性』と思わせる彼女の巧みな演技だった。
心の奥に湧き上がる苦さを必死に押し殺し、私は彼女をまっすぐ見つめた。目は揺るがなかった。
「これはレンタルじゃない。私の夫が買ってくれたウェディングドレスとダイヤの指輪よ!」
悠也はそれを聞いて大笑いした。
「千秋、いい加減にしろよ。夢の中なら何でもあるさ、さっさと帰って寝ろよ!
お前に本当に亭主がいりゃあ、俺の名字を変えてやるぜ!」
仲間たちもすぐさま同調し、わざと声を張り上げた。
「そうだよ、今日がお前の結婚式だって言ってたよな?」
「花婿はどこだ?何十卓もの客が待ってんだぞ、調子乗りすぎだろ!」
さっき面目を潰された悠也の友は、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「そうだ!花婿を早く呼んでこいよ!
みんな、お前たちの愛の証を見届けたいんだぜ!」
こちらの騒ぎを聞きつけ、客席の人々が次々と立ち上がり、視線が私に突き刺さってきた。
その時、ステージ上で司会者の澄んだ声が響いた。
「それでは、新郎新婦のご入場です!」
早苗の顔に一瞬、ほくそ笑むような表情が走った。彼女は慌てたふりをして私を諭そうとする。
「千秋、早く白状したほうがいいわ!本当に、めちゃくちゃなことになっちゃうよ!」
私は手を振って彼女を押しのけ、冷たく言い放った。
「邪魔よ。私はステージに上がるの」
早苗はよろめき、数歩後退して、宴会場の入り口に立っていた等身大パネルにぶつかった。彼女が慌ててそれを起こすと、見つめて固まった。
しばらくして、彼女はゆっくりとまぶたを上げ、信じられないという目で私を見た。
「千秋……なんでこのパネルに、あなたと北条洋一(ほうじょう よういち)の写真が……?」
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