偽装結婚が本当になったら、幼馴染が大後悔した件第1話
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幼なじみの川井悠也(かわい ゆうや)に、プロポーズを99回も断られてから、二年が過ぎた。
ある日突然、悠也から電話がかかってきた。電話の向こうで、彼は泣き叫ぶように言った。おばあちゃんが危篤で、最期の願いは、自分の結婚式を見ることだ、と。
そればかりか、私と結婚すると承諾し、ウェディングドレスも用意して、式場も予約してくれていると言うのだった。
言われた通り、私はウェディングドレスに身を包んで式場に駆けつけた。ところが、そこにいた悠也の友達たちが、突然、嘲笑を浴びせてきた。
「言われたこと、全部鵜呑みにするだけでもどうかしてるのに、よくまあ送料込み二千円のドレスをオーダーメイドの高級品に替えるよな。まったく、ベタ惚れにも程があるっての!」
そして、参列者たちに向かって大声で叫んだ。
「おい、新郎の愛人が式をぶち壊しに来たぞ!」
「警備員!あの女を捕まえろ!」
参列者たちは一斉に立ち上がり、好奇と嘲笑の視線を私に注いだ。
その時、悠也が深い愛情を込めて見つめたのは、片思いの相手である清水早苗(きよみず さなえ)だった。
「言った通りだろ、式を台無しにするのを手伝うって。約束は守ったよ」
「俺がいる限り、あなたが手に入れられないものは、誰にも渡さないって言っただろ?」
早苗がようやく笑顔を見せると、悠也はようやく私の方を向いた。
「早苗が言ってたよ。今回は手伝ってくれたから、今度彼女の結婚式の時は、お前にブライズメイドをやらせてやるって。それに……」悠也は少し間を置いた。「これからも、俺の傍にいるのは、許してやるってさ」
なるほど、彼が私を騙して呼び出したのは、ただ、早苗が叶わぬ片思いをしている男性の結婚式をぶち壊す手伝いをさせるためだったのだ。
しかし――
式場に飾られていた新郎新婦の等身大パネルを見た瞬間、悠也の目が大きく見開かれた。
そこに描かれていた花嫁の名は、紛れもなく「入江千秋(いりえ ちあき)」、私の名前だったのだ。
* * *
幼なじみの川井悠也(かわい ゆうや)に、プロポーズを99回も断られてから、二年が過ぎた。
ある日突然、悠也から電話がかかってきた。電話の向こうで、彼は泣き叫ぶように言った。おばあちゃんが危篤で、最期の願いは、自分の結婚式を見ることだ、と。
そればかりか、私と結婚すると承諾し、ウェディングドレスも用意して、式場も予約してくれていると言うのだった。
言われた通り、私はウェディングドレスに身を包んで式場に駆けつけた。ところが、そこにいた悠也の友達たちが、突然、嘲笑を浴びせてきた。
そして、彼らが参列者たちに向かって大声で叫んだ。
「おい、新郎の愛人が式をぶち壊しに来たぞ!」
「警備員!あの女を捕まえろ!」
参列者たちは一斉に立ち上がり、好奇と嘲笑の視線を私に注いだ。
その時、悠也が深い愛情を込めて見つめたのは、片思いの相手である清水早苗(きよみず さなえ)だった。
警備員の手が私の肩に触れた時、私ははっと我に返った。
今日もまた、騙されていたんだ。
悠也が警備員の手を払いのけると、申し訳なさそうな顔で言った。
「すいません、皆さん。誤解です誤解!
こいつは俺の友達でさ、ちょっとした冗談だったんだよ」
警備員がぶつぶつ文句を言いながら去っていくのを見送ると、悠也はいたわるように私のよれたスカートの裾を直した。
「千秋、大丈夫か?」
悠也の友達たちは、腹を抱えて笑い転げていた。
「悠也、さすがだぜ!電話したらマジで来るとはな!」
「ったく、そのウェディングドレス、安くないだろ?悠也、『送料込み二千円』だって言ってたじゃねえか」
「まったく、ベタ惚れにも程があるっての!自腹でウェディングドレス買うとか!悠也と結婚したい気持ち、本気すぎるぜ!」
会場のスポットライトが私の顔を照らし、客席からはひそひそと囁き声が聞こえてきた。
その言葉は、どれもこれも耳を覆いたくなるほど醜い。
私の心は、じわじわと沈んでいった。
悠也は友達を小突くふりをして、手を挙げた。
「入江千秋(いりえ ちあき)は今回、俺の恩人なんだからな!敬意を払えよ!」
そう言うと、彼は私の方に向き直り、優しい笑顔を見せた。
「今回は、ありがとな」
彼の心に、ようやく少しの罪悪感が生まれたのかと思ったその時だった。
悠也は手を擦り合わせながら、興奮した口調でこう付け加えたのだ。
「早苗が言ってたよ。今回は手伝ってくれたから、今度彼女の結婚式の時は、お前にブライズメイドをやらせてやるって」
そう言うと、突然、含みのある笑みを浮かべて近づき、声を潜めて囁いた。
「これからも、俺の傍にいるのは、許してやるってさ。
どうだ?今日は来た甲斐があっただろ?」
それを見た友達がまたもや揶揄った。
「悠也、そんなに近づくなよ!またこいつ、お前に気があるって勘違いするぞ!」
「訳も聞かずに結婚しに走ってくる、何度騙されても懲りないなんてよ……マジで愛してるんだな?」
どうやら彼らは皆、私がかつて悠也に99回もプロポーズしたことを知っているらしい。
でもその度に、彼は承諾も拒否もせず、「ふざけんなよ」と笑い飛ばすだけだった。
以前の私なら、きっと悲しみのあまり泣きながらその場を走り去っていただろう。
けれど今回は、違った。
私は少し張った肩を揉みながら、悠也の友達に手のひらを向けて言った。
「せっかく来たんだ。ご祝儀は?」
陰で面白がって見ていた早苗が、その言葉に青ざめた。
「千秋……まさか、ホントに自分の結婚式だと思ってるんじゃないでしょうね?
悠也、大変よ、やりすぎちゃったかしら……?」
早苗は悠也の片思いの相手だ。
悠也は彼女のためなら、何度も私を弄び、嘲笑ってきた。
ところが早苗は、終始悠也を「予備」としてしか見ていなかった。
彼女の彼氏は次々と変わり、別れるたびに悠也の胸に飛び込んでは泣いていたのだ。
悠也は早苗の鼻を甘やかすように軽くつまんだ。
「バカだな、心配するなよ。こいつはただ、今まで何度も俺に振られてきた反動で、嬉しさのあまり頭がおかしくなったんだよ」
そう言いながら、彼の目が一瞬、私の顔を掠めた。そこには軽蔑が満ちていた。
ほんの一瞬の視線だったのに、それでも私の胸は針で刺されるように痛んだ。
彼は、私が騙されて来たのだと思い込んでいる。
実は昨夜、彼から電話があった時、私は病院で彼の祖母を見舞っていた。
おばあちゃんはとても元気で、私と一緒におしゃべりしながらお菓子を食べていたのだ。
電話の向こうで、彼の声は泣き声を帯びていた。
「千秋……俺と、結婚してくれるか……?」
私の心臓は一瞬、高鳴った。しかしその次の瞬間、彼は言った。
「おばあちゃんが……もう……病気でダメなんだ……」
目の前で元気いっぱいのおばあちゃんを見つめながら、私は携帯電話を持つ手がじわじわと冷たくなっていくのを感じた。
もし私がこの目で見ていなかったら、きっと私は、彼が私のSNSに投稿した電子招待状を見て、ようやく目が覚めて後悔したのだと、本気で思っていただろう。
私は淡々と答えた。
「……わかった」
電話を切った後、誰かが一枚のスクリーンショットを送ってきた。
悠也が彼の友達グループに、私の電子招待状を投稿したものだった。
【見てみろよ、入江千秋のプロポーズ攻撃、ここまで来てるぜ!】
友達はほぼ即レスだった。
【この招待状、写真一枚もないじゃん。騙すにしても、もっと手の込んだことしろよな!】
【清水早苗が悠也のところに来てるって知って、パニックになったんじゃねえの?】
悠也はサングラスの絵文字を添えた。
【さっき電話で、明日結婚式に来いってお知らせしといたぜ】
友達が返した。
【言わずもがな、嬉し泣きで即承諾だろ?】
悠也が返した。
【お前ら明日全員来いよ、電子招待状に書いてあるあの会場だ。送料込み二千円のウェディングドレスも彼女に用意しといたからな】
【早苗のためじゃなきゃ、二千円だってこいつに使いたくねえよ】
【悠也、可哀想だし、明日はこいつとハーレムでも楽しめよ!】
【ふざけんな、キモいわ!こいつが早苗の靴を舐める資格すらねえんだ!早苗が頼むからじゃなきゃ、こいつにまた俺にまとわりつくチャンスなんて絶対やらねえよ!】
もうこんなに時間が経てば、こんな残酷な言葉にも傷つかないだろうと思っていた。
けれど、目の前が次第にぼやけていき、それでも涙だけが勝手に溢れてきた。
私の十年に渡る献身は、早苗のたった一つの願い事にすら及ばなかった。
彼女さえ喜ぶなら、たとえ私の尊厳を踏みつけにすることだって、悠也は厭わないのだ。
悠也と私は、同じ団地で育った。
私たちの父親は同僚だった。ある日、二人で鉱山の坑道点検に入った時、突然事故が起こり、坑道が崩落した。
悠也の父は、私の父を助けようとして、地の底に永遠に閉じ込められてしまった。
その時、悠也はまだ十歳に過ぎなかった。
彼の母は生活の重圧に耐えきれず、彼を置いてこっそりと逃げ出した。
残されたのは、彼と祖母の二人きりだった。
罪悪感から、私は必死に彼に尽くした。
彼を愛するようになったのも、自然の流れだった。
ところが彼は、美しい転校生、早苗に心を奪われてしまった。
私が後ろをついてくるのが邪魔だと、彼は私の大学受験の志願先を、はるか遠くの学校に書き換えた。
早苗が実験データを必要とすれば、彼は電話一本で私を夜中に呼びつけた。
私はそんなふうに、彼の後ろをひたすら追いかけて、十五年も尽くし続けてきた。
しかし今、十五年が過ぎた。
私の借りは、返した。
そろそろ、手放す時が来たのだ。
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