偽りの貧乏、真実の絶望第1話
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娘が白血病を患ってから、私・藤原千鶴(ふじわら ちづる)は一日五つも仕事を掛け持ちし、死に物狂いで治療費を稼いでいる。
その日の夜勤中、私はオーダーメイドの高級スーツを着た男が、プリンセスドレスの娘を連れているのを見た。
向かいの席には、天女のように美しい人気女優が座っている。
三人が注文したのは、総額1000万円のコース料理だった。
食事が終わると、男は娘に尋ねた。「家に帰ったら、なんて言うか分かってるな?」
娘は答える。「ママには、一晩中不用品拾いをしていたけど、売ったお金ではパン半分しか買えなかったって言うの」
男は満足そうに頷き、女優も微笑んで、娘に金のジュエリーセットを贈った。
帰り際、男は気前よく、従業員一人一人に10万円のチップを配った。
同僚は、なぜ泣いているのかと私に尋ねた。
私は、10万円もらったからだと答えた。
――ただ、それがベッドで寝たきりであるはずの夫からでさえなければ、もっと良かったのに。
* * *
娘が白血病を患ってから、私・藤原千鶴(ふじわら ちづる)は一日五つも仕事を掛け持ちし、死に物狂いで治療費を稼いでいる。
その日の夜勤中、私はオーダーメイドの高級スーツを着た男が、プリンセスドレスの娘を連れているのを見た。
向かいの席には、天女のように美しい人気女優が座っている。
三人が注文したのは、総額1000万円のコース料理だった。
食事が終わると、男は娘に尋ねた。「家に帰ったら、なんて言うか分かってるな?」
娘は答える。「ママには、一晩中不用品拾いをしていたけど、売ったお金ではパン半分しか買えなかったって言うの」
男は満足そうに頷き、女優も微笑んで、娘に金のジュエリーセットを贈った。
帰り際、男は気前よく、従業員一人一人に10万円のチップを配った。
同僚は、なぜ泣いているのかと私に尋ねた。
私は、10万円もらったからだと答えた。
――ただ、それがベッドで寝たきりであるはずの夫からでさえなければ、もっと良かったのに。
帰り道、相良一誠(さがら いっせい)と相良美羽(さがら みう)が高級住宅街へ入っていくのが見えた。
私は家政婦のふりをして中へ忍び込み、大きな別荘の塀の陰に隠れて、二人の会話に耳を澄ませた。
「パパ、こんな貧乏なふりをする生活、いつまで続くの。
私、本当は名門校に通ってるのに、ママには病気で学校に行けないって嘘をつかないといけないし、こんな素敵な家にも住めない。毎日、演技ばっかりで、もう疲れたよ」
一誠はため息をつき、不憫そうな口調で言った。
「パパだって、ずっとママを騙したいわけじゃない。でも、ママはあまりに頑固だからな。
もし、パパと沙耶お姉さんが付き合っていることを知ったら、きっと大騒ぎする。ママを忙しくさせておくのが、俺たちのことを構わせない唯一の方法なんだ」
橘沙耶(たちばな さや)の名前が出ると、娘は途端に嬉しそうな顔になった。
「私、沙耶お姉ちゃん大好き。綺麗で、女優さんで、それにいつもプレゼントをくれるもの。ママみたいに、毎日みすぼらしい格好をして、可愛いワンピース一枚さえ買ってくれないのとは大違い。
パパ、沙耶お姉ちゃんが、私の本当のママだったらよかったのにな」
一誠は、真剣な顔になった。
「美羽、その言葉は二度と口にするな。千鶴は、君の母親だ。昔、ママが腎臓を提供してくれたから、パパは今、生きていられる。何があっても、ママと離婚することはない」
しばらくして出てきた二人は、どちらもみすぼらしい汚れた服に着替えていた。
スーツ姿やプリンセスドレスから、家で着ている汚れた服へと着替えるのをこの目で見たというのに、この時、私はまだ信じられない思いだった。
今朝の四時に家を出る時、一人はまだ寝ていて、顔は青白かったはずなのに。
もう一人はベッドで寝たきりで、私が手伝わなければ、寝返りさえ打てなかったはずなのに。
それなのに、私が五つの仕事を掛け持ちし、一日パン一つで食いつないでいる間に、彼らは裕福で、自由な生活を送っていたのだ。
重い足取りで、私はゆっくりと歩いた。
それでも、地下室の家に戻った時、ベッドに慌てて飛び乗る物音が聞こえた。
リビングでは、美羽が黄ばんだ古い本を読んでおり、その口元には、聞き分けのいい子の笑みが浮かんでいた。
「ママ、今日もお仕事、遅くまでお疲れ様……全部私のせいだよね。私が病気じゃなかったら、ママはこんなに大変じゃなかったのに。
夜、大家さんと一緒に不用品拾いをしたの。でも、売ったお金ではパン半分しか買えなかった。パパと、半分こして食べたよ。お腹いっぱい」
彼女の目には、申し訳なさそうな涙が浮かんでいた。
以前の私なら、彼女を励まし、これは全部私が望んでやっていることだから、自分を責めないで、と言っただろう。
そして、温かい食事を作ってあげただろう。
しかし今、私の頭の中は、彼女がプリンセスドレスを着て、一足20万円以上もする靴を履いていた姿でいっぱいだった。
「ええ。勉強しなさい」
私は淡々とそう言うと、「ベッドで寝たきり」の夫を見に、寝室へ向かった。
一誠は、私が今朝家を出た時と同じ姿勢を保っていた。
だが、私が四回も繕った、あの破れた靴下を履き忘れていた。
「お帰り。顔色が悪いぞ、疲れたのか?」
彼は、弱々しいふりをして私を見た。
「すまない。君は、俺と結婚して幸せになるはずだったのに、俺がこんな身体になってしまって、君一人に家族を養わせて……」
私は、彼の頭のてっぺんからつま先までを見つめた。
一誠の言う通りだ。私を忙しくさせておけば、彼のことを構う暇など、私にはないのだ。
以前の私は、毎日四時に起きて、深夜一時まで働き、一日の睡眠時間はわずか三時間。猫の手も借りたいほど忙しかった。
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