偽りの独占欲にさよなら。もう「幽霊彼女」をやめます第3話
この話は約2594字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
悠真の仲間たちは、口々に私を責め立てた。
その間、悠真は涙をこぼす莉奈を、小さな声でなだめていた。
全身が冷えていく。あまりの屈辱に、息をするのも苦しくなった。
私が立っていられなくなりかけたとき、悠真はようやく莉奈から手を離し、こちらへ歩いてきた。
彼は声を低くした。
「なっちゃん、どうしてここがわかった?」
私は彼を見つめ、口元だけを少し動かした。
「なぜ来たのかじゃなくて、どうしてわかったかを聞くんだね」
悠真の眉がかすかに動いた。
彼が手を伸ばしてきた。
「ここで騒がないで、外で話そう」
私はその手を振り払った。
「私が何を騒いだの?悠真、あなたは私を7年隠して、彼女も3年騙したようだね。私はただ、みんなの前で一つだけ聞いてみたい。私は、あなたにとって何なの?」
悠真の顔から、少しずつ感情が消えていった。
昔から彼は、私の涙が何より苦手だった。
私が胃の痛みで動けなかったとき、夜中に車を走らせ、遠くの薬局まで薬を買いに行ってくれた。
熱を出した夜は、そばでずっと付き添ってくれた。
けれど今、私は全身を震わせているのに、彼はわがままを言う子どもを見るような目で私を見た。
悠真は私の手首をつかみ、ホテルの外へ連れ出した。
赤くなった私の目を見て、彼はため息をついた。
「篠原夏海(しのはら なつみ)、気づいたならもう隠さない。俺と莉奈は、3年前から付き合ってる。でも信じてくれ。俺が一番愛しているのは、ずっと君だ。結婚する相手は君だ。
でも莉奈とは、式だけ挙げてやりたい。あの子に償うつもりだと思って。莉奈は良くも悪くもまっすぐな子で、俺がいないと駄目なんだ。夏海ならわかってくれるだろ?」
あまりにもばかげていて、手足の先まで感覚が遠のいていく。
私は目の前の男を見つめた。
まるで、初めて会う人のようだった。
「どうして、そんなことが許されると思うの?」
悠真は小さく笑い、私の頬に触れた。
声は優しいのに、残酷だった。
「夏海、俺たちは7年も一緒にいたんだ。君が俺から離れられないことくらい、わかってる。
それに、俺たちはもうすぐ結婚する。だから怒らないで」
いつも同じことを言われた。
私たちのことを公にしてほしいと言ったときも、彼の友人たちに会わせてほしいと願ったときも、急に冷たくなった彼の態度に不安をぶつけたときも。
悠真はいつも、困ったように眉をひそめて、言った。
「そんなに責めないで」
まるで、私の不安も、寂しさも、ちゃんと選ばれたいと願った瞬間も、全部ただのわがままだと言われているようだった。
私は目を閉じた。
長い沈黙のあと、静かに口を開いた。
「わかった。責めない」
私が降りる。
悠真は満足そうに笑っては、私の額に軽くキスをした。
「やっぱり、なっちゃんはいい子だ。先に帰って。今夜は莉奈についていないと。あの子、気が強いからさ。今日のことで、ちゃんとなだめないといけない」
胃の奥からこみ上げる吐き気を必死に押さえ、私は背を向けた。
ホテルを出てすぐ、親友の高梨紗英(たかなし さえ)に電話をかけた。
あまりにもつらくて、いちばん親しい紗英に泣きつきたかった。
電話がつながり、私が「紗英」と呼んだ瞬間、涙がこぼれた。
今まで起きたことを、あれこれ話した。話せば話すほど声が震えた。
「紗英、私って、バカだよね。7年も付き合ってきたのに、誰も私が悠真の彼女だって知らなかったんだ。悠真のあの彼女でさえ、私を知らない」
電話の向こうは、しばらく沈黙が続いた。
電波が切れたのかと思ったとき、紗英が小さくため息をついた。
「やっぱり、知っちゃったのね」
私は固まった。
「どういう意味?」
紗英が軽く息を吸うのが聞こえた。
「莉奈は私の大学時代の同級生なの。私がきっかけで悠真くんと知り合ったの」
その瞬間、頭の中で何かが崩れ落ちた。
確か3年前、紗英は突然、海外にいる大学の同級生の話をした。
性格のいい子だから、悠真が出張で困ったときは連絡してみてもいいかもしれない、と。
私はそのとき、冗談めかして言った。
「あんまりきれいな子を紹介しないでよ。私、嫉妬するから」
紗英は私の肩を叩き、笑っていた。
「大丈夫。私は絶対、夏海の味方だから」
その言葉まで、はっきり覚えている。
「知ってたの?どうして教えてくれなかったの」
自分でもわかるほど、声が震えていた。
紗英の声は焦っていた。
「夏海、わざと隠したわけじゃないの。最初は、私もこんなことになるなんて思ってなかった。でも、莉奈は本気で悠真くんを好きになってしまったし、悠真くんにとっても、莉奈は特別な存在なの」
私は呆れて笑った。
「それで?」
「だから、どう言えばいいかわからなかったの」
私は目を閉じた。目の奥が熱くなり、涙がこぼれそうだった。
紗英は、私の一番の親友だった。
高校時代、私たちは寮の狭いベッドで、肩を寄せ合うようにして夜を明かしたこともある。
私が初めて悠真と喧嘩した夜、朝まで校庭を歩きながら話を聞いてくれたのも紗英だった。
悠真の起業がうまくいかなかった年、苦しい時期を一緒に越えられる恋は大切だと、私を励ましてくれたのも彼女だった。
なのに今、私は頬を強く打たれたような気分だった。
スマホを耳に当てたまま、紗英の声が遠くなっていく。
「夏海、お願い。気持ちはわかるけど、これ以上話を大きくしないほうがいいよ。莉奈は本当に素直で、とてもいい子なの。悠真くんとのこの3年、みんなが見てきたの。2人、すごく似合ってるよ。悠真くんの友人たちも、みんな莉奈のことが好きだし、莉奈は悠真くんのお母さんにも会ってるし」
私は息をのんだ。
悠真は、私を一度も彼の家族に会わせてくれなかった。
「なっちゃん、母さんは気が強いから。君が嫌な思いをするのは見たくない」
「そのうち、連れていくさ」
私はその言葉を信じて、ずっと待っていた。
けれど悠真は、莉奈をとっくに彼の家族に会わせていた。
私がまだ、その時が来るのを馬鹿みたいに待っていた頃に。私は誰にも見せてもらえない秘密だった。甘い言葉で包まれ、誰にも知られない場所へ隠されていた。
そして莉奈は、争う必要も、問い詰める必要も、待つ必要もなく、すべてを手にしていた。友人たちの祝福も、家族に認められることも。私の一番の親友が、彼女のために必死にかばってくれることさえ。
紗英は声をやわらげた。
「夏海、もうこれ以上、あの2人を困らせないで」
私は電話を切った。
もう、言葉が出てこなかった。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)
第4話は公式アプリで
当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。
R94743- 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
- アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。