偽りの従順第1話
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私・冬月遥香 (ふゆつき はるか)、桐島湊斗 (きりしま みなと)と結婚して七年目。彼の「忘れられない人」が戻ってきた。
彼女はSNSに、こんな投稿をアップした。
【若気の至りで逃しちゃったけど、今は勇敢に愛を追いかけるつもり!】
その夜、湊斗は火のついた煙草を指に挟んだまま、ベランダで一晩中、虚空を見つめていた。
私のスマホもまた、一晩中通知音を鳴らし続けていた。
彼の青春時代をすべて目撃してきた悪友たちは、彼と彼女のすれ違いを嘆き、そしてこの再会を祝っているようだ。
そのグループLINEに、妻である私が混ざっていることなど、完全に頭から抜け落ちているらしい。
湊斗は知らない。
私が時折、彼に夢中でなりふり構わず追いかけ回したあの数年間を、ぼんやりと思い返していることを。
そして長い月日を経て、私がもう、とっくに疲れ果ててしまっていることを……
* * *
私・冬月遥香 (ふゆつき はるか)、桐島湊斗 (きりしま みなと)と結婚して七年目。彼の「忘れられない人」が戻ってきた。
彼女はSNSに、こんな投稿をアップした。
【若気の至りで逃しちゃったけど、今は勇敢に愛を追いかけるつもり!】
その夜、湊斗は火のついた煙草を指に挟んだまま、ベランダで一晩中、虚空を見つめていた。
私のスマホもまた、一晩中通知音を鳴らし続けていた。
彼の青春時代をすべて目撃してきた悪友たちは、彼と彼女のすれ違いを嘆き、そしてこの再会を祝っているようだ。
そのグループLINEに、妻である私が混ざっていることなど、完全に頭から抜け落ちているらしい。
湊斗は知らない。
私が時折、彼に夢中でなりふり構わず追いかけ回したあの数年間を、ぼんやりと思い返していることを。
そして長い月日を経て、私がもう、とっくに疲れ果ててしまっていることを……
……
【遥香は汚い手を使って今の座に納まったんだ。学生時代ずっと一緒だった「本命」に勝てるわけないだろ?】
十七歳の私なら、きっとすぐにこのグループを脱退していただろう。湊斗のスマホを奪い取って「本命」の連絡先を消去し、一生私だけを愛すると誓わせたに違いない。
でも、今の私はもう二十七歳だ。
高嶺愛理 (たかみね あいり)が帰国したと知った時、私はキッチンに立っていた。フライ返しを握る手がわずかに震える。
私は目玉焼きを裏返し、淡々とつぶやいた。
「……よかったじゃない」
二人の恋がどれほど情熱的で劇的なものだったか、仲間内では誰もが知っている。
そして、私と愛理の差がどれほど残酷なものかも、周知の事実だ。
だから、愛理の帰国を聞きつけた親友は、すぐに我が家へ乗り込んできた。私の味方をするために、ものすごい剣幕で。
「もし湊斗があの女を連れ込んだりしたら、私が二人まとめてひねり潰してやるから」
私は出来上がった朝食を皿に盛り、彼女の前に差し出す。そして、呆れたように笑った。
「あの人はプライドが高いもの。そんな下品な真似はしないわよ」
家に乗り込んで妻の座を脅かす。そんなのは、マウントの取り方としては最低ランクだ。
事実はもっと残酷。彼女が指一本動かさなくとも、湊斗の心は勝手に彼女の方を向くのだから。
だからこそ、卑怯なのは私の方だ。
私はやったのだから。二人が喧嘩して拗れている隙に、つけ込んで。プライドも何もかも捨てて彼にすがりつき、挙句の果てに彼を自分のものにしてしまった。
不意にスマホが鳴り、メッセージが届く。湊斗からだ。
【今夜、パーティーに同行してほしい】
その会場には、間違いなく愛理も来るだろう。
湊斗はもう二日も家に帰ってきていない。
私は画面を消すと、結婚指輪をそっと外し、ダイニングテーブルの端に置いた。自嘲気味な笑みが漏れる。
「……だから、今こうして笑い者になるのも、自業自得ってわけね」
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