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偽りの仮面を捨て、私らしく咲く第3話

この話は約1788字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

光希の手がそっと離れると、少し離れた場所にあるスクリーンが突然、光を放った。

そこに次々と映し出されたのは、この数年間で撮られた二人の甘い写真の数々だった。

目の前にいる光希が、不意に片膝をつく。そして手品のように、その手にはダイヤモンドの指輪が現れた。

春の風のように優しく、甘い声が、彩葉の心を激しく揺さぶる。

「彩葉、この七年間、俺のそばにいてくれてありがとう。これからの人生も、ずっとお前と一緒に歩んでいきたい。

彩葉、俺と結婚してくれないか?」

彩葉は目を丸くし、信じられない思いで彼の愛情に満ちた瞳を見つめ返した。頭の中が真っ白になる。

嘘でしょう?

まさか光希は、身代わりでしかない私を本当に愛してくれたというの?

身代わりの分際で、あろうことかサービスの対象である彼からプロポーズされるなんて。

そもそも、このプロポーズは本来、私に向けられたものではない。私が受け入れる資格なんてあるはずがないのに。

「結婚しろ!結婚しろ!」

光希の友人たちの歓声と手拍子が次第に大きくなっていく。彩葉はどうしていいか分からず、逃げ出したいのに足がすくんで動けなかった。

心臓がかつてないほどの早鐘を打っている。

「彩葉、急すぎて驚かせちゃったか?」

光希は彼女の動揺を察し、片膝をついた姿勢のまま優しく語りかけた。その瞳からは、今にもあふれ出しそうなほどの情愛が滲んでいる。

彩葉の脳裏に、この七年間の記憶が走馬灯のように駆け巡った。

スカートの裾を固く握りしめる彼女の両目には、涙があふれている。

血の通った人間である以上、たとえ身代わりであっても心はあるのだ。

七年という月日を朝から晩まで共に過ごし、幾度となく光希の名前を呼ぶうちに、彼女自身も気づかないまま、その声の響きは美月に教え込まれたものではなくなっていた。

そこには、彼女自身の誰にも言えない秘密の想いが込められていた。

今の彼女と光希は、どこからどう見ても心から愛し合う本物の恋人同士そのものだった。

片膝をつく彼を見つめながら、彩葉はふと思った。十億円の違約金も、今の自分にはそれほど高く感じない、と。

もしかしたら、もう身代わりを辞められるのかもしれない。

彩葉の口元に微かな笑みが浮かび、目の前の男に向かって一歩を踏み出した。

周囲の友人たちはさらにヒートアップして歓声を上げる。

だが、彼女が返事をしようと口を開きかけたその時、流れていた甘くロマンチックな音楽を切り裂くように、着信音が鳴り響いた。

大型スクリーンには、着信相手の名前が表示された。【美月】

光希の瞳が激しく揺れ、彼は無意識のうちに通話ボタンを押してしまった。花畑に、心地よい女の声が響き渡る。

「光希、私、帰ってきたわ」

その一言は爆弾となって、光希の心に凄まじい衝撃の嵐を巻き起こした。

次の瞬間、彼は血走った目で弾かれたように立ち上がると、脇目も振らずに花畑から走り去ってしまった。

その場は水を打ったように静まり返った。光希の友人たちは互いに顔を見合わせ、彩葉を慰めようとするものの、誰一人として言葉が見つからない。彼らは皆、あの声の主が誰であるかを知っているのだ。ただ哀れむような視線を彩葉に向けるしかなかった。

指輪が地面に落ち、彩葉の足元まで転がってきた。

彩葉がしゃがみ込み、泥のついた指輪を拾い上げると、陽光がそこに刻まれたイニシャルを照らし出した。

【K.M】

神崎美月。

心臓を乱暴に鷲掴みにされたような激しい痛みに襲われ、息もできないほどだった。彼女は胸を押さえ込み、こぼれ落ちた涙は、そのまま土へと吸い込まれていった。

やはり、身代わりは永遠に身代わりでしかないのだ。

彩葉の口元に、自嘲の笑みが浮かんだ。自分はあろうことか、光希が愛してくれていると錯覚し、ほんの一瞬でも彼の妻になって、この先もずっとそばにいたいと願ってしまった。

今の自分はまるで、身の程知らずの滑稽なピエロだ。

思えば七年前、光希は美月のために胃出血を起こすまで酒をあおり、それでもなお彼女の名前をうわ言のように呼んでいた。

数え切れないほどの深夜、光希が寝言で漏らすのはいつも同じ名前――美月だった。

美月がかつて身に着けていたネックレス一つを取り返すためだけに、彼は拉致犯に地面に踏みつけられ屈辱を味わっても、決してその手を離そうとはしなかった。

どうして自分は、そんな数々の事実をすっかり忘れてしまっていたのだろう。

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