偽の弟を選んだ姉、20年後に泣きつく第1話
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前世、僕こと平山一希(ひらやま かずき)は、実の息子として渋谷家に迎え入れられた。
だが、姉の渋谷雪乃(しぶや ゆきの)は、養子の弟・渋谷智史(しぶや さとし)を溺愛するあまり僕を陥れ、弟の発作が僕のせいだと両親に吹き込んだのだ。
それを鵜呑みにした両親は、僕を家から追い出した。
それから間もなくして、僕は路地裏で誰にも知られず、孤独に死んだ。
目が覚めると、渋谷家に引き取られたあの日へと戻っていた。
雪乃が両親の前に立ちはだかり、僕を指差して叫ぶ。
「こんなの弟じゃない!」
両親は失望に満ちた視線を僕に向け、そのまま背を向けて去っていった。
僕はその場に立ち尽くしたまま、自分が実の息子であることを証明する、生まれたときから身につけていたペンダントをポケットから取り出すこともなく、ただ黙って児童養護施設への道を歩き出した。
あれから20年、僕は国内屈指の内科医として名を馳せていた。
向かいに座る女が、震える声でカルテを差し出してくる。
「先生、お願いします……弟を助けてください」
カルテの氏名を見た瞬間、手が止まった。視線が、その患者のやつれた顔に釘付けになる。
しばらく見つめてから、彼女に視線を戻し、僕は告げた。
「この患者の診察は、お断りします」
* * *
前世、僕こと平山一希(ひらやま かずき)は、実の息子として渋谷家に迎え入れられた。
だが、姉の渋谷雪乃(しぶや ゆきの)は、養子の弟・渋谷智史(しぶや さとし)を溺愛するあまり僕を陥れ、弟の発作が僕のせいだと両親に吹き込んだのだ。
それを鵜呑みにした両親は、僕を家から追い出した。
それから間もなくして、僕は路地裏で誰にも知られず、孤独に死んだ。
目が覚めると、渋谷家に引き取られたあの日へと戻っていた。
雪乃が両親の前に立ちはだかり、僕を指差して叫ぶ。
「こんなの弟じゃない!」
両親は失望に満ちた視線を僕に向け、そのまま背を向けて去っていった。
僕はその場に立ち尽くしたまま、自分が実の息子であることを証明する、生まれたときから身につけていたペンダントをポケットから取り出すこともなく、ただ黙って児童養護施設への道を歩き出した。
あれから20年、僕は国内屈指の内科医として名を馳せていた。
向かいに座る女が、震える声でカルテを差し出してくる。
「先生、お願いします……弟を助けてください」
カルテの氏名を見た瞬間、手が止まった。視線が、その患者のやつれた顔に釘付けになる。
しばらく見つめてから、彼女に視線を戻し、僕は告げた。
「この患者の診察は、お断りします」
雪乃は束の間、言葉を失った。
「今、何て言った?」
僕はカルテを閉じ、彼女の前へと静かに押し返す。
「『お断りします』と申し上げたまでです」
診察室に重い沈黙が落ちる。雪乃は僕を睨みつけたまま、眉間の皺をより一層深く刻んだ。
車椅子に座る智史は、顔色こそ悪いものの、思ったよりも元気そうに見えた。
もう20年か。このふたりは、随分と恵まれた歳月を過ごしてきたらしい。
雪乃は渋谷グループの令嬢として、智史は家族全員から大切にされる存在として育っていた。
そしてこの二人は、きっと死ぬまで気づかない。目の前で眼鏡をかけているこの内科の主任医師こそが、かつて自分たちが家から追い出した、本物の跡取り息子だということに。
「あなたがこの街で一番の内科医だってことくらい、知ってるわ。予約を取るのも簡単じゃないって。でも、お金の心配はいらない。弟を治してくれるなら、いくらでも払うから」
雪乃はブラックカードを、机の上にそっと置いた。
僕はそれに一瞥をくれ、顔を上げて彼女を見る。
「病院には規則があります。それに、彼を診ないのは、症状が僕の専門外だからですよ」
「どういう意味?」
雪乃の顔に、再び戸惑いが浮かぶ。
「ちゃんと調べはついてるのよ。末期の心不全すら治した実績があるって。弟はただ心臓に雑音があって、たまに締めつけられるような痛みがあるだけ。それなのに治せないって言うわけ?」
智史が軽く咳き込み、雪乃の袖をそっと引いた。
「姉さん……もういいよ。俺のために、そんなに頭を下げないで……」
その仕草は、前世で僕に階段から突き落とされたと濡れ衣を着せた、あの時とまったく同じだった。
雪乃は胸を痛めたように、智史の手をきつく握り返す。再び僕へ向けられた眼差しには、刃のような鋭い光が宿っていた。
「平山先生、お金が足りないってこと?なら、別の提案をするわ。
今日、弟を診てくれたら、明日にでも、渋谷グループからこの病院の循環器内科へ6億円分の設備を寄付する。
この条件でどう?」
傍らにいた研修医たちが、思わず息を呑む。
だが、僕は眉一つ動かさなかった。
「渋谷さん。僕が患者を選ぶ基準は病状であって、お金じゃありません。弟さんは診ません。カードを持って、出ていってください」
雪乃は冷ややかに笑った。瞳に浮かぶ侮蔑は、もはや隠しようもなかった。
「ふん。要するに、治す自信がないだけでしょう。トップの専門医だなんて、しょせん名前負けってわけね」
「姉さん、もういいから……胸が、痛い……」
智史が胸を押さえ、苦しげに息を荒くする。
「智史!」
雪乃は血相を変え、慌ててボディガードに車椅子を押させ、診察室を出ていった。
出口までたどり着くと、彼女は振り返り、僕を一睨みして去っていった。
ふたりの姿が見えなくなったあと、僕はポケットの中にしまった、冷たいペンダントにそっと触れた。
翌朝。
回診を終えたばかりの僕の元へ、普段はいつもニコニコしている院長が、険しい顔つきで怒鳴り込んできた。
「平山、お前はクビだ」
僕はペンを止め、顔を上げて彼を見る。
「理由は?」
「ふん、理由だと?」
院長が鼻で笑う。
「昨日、渋谷社長にどんな態度を取った?医は仁術と言うだろう。お前にはプロ意識ってものがないのか。重症患者の診療を拒むとはな!」
僕の視線は自然と下へ滑り、彼の手首にある真新しい腕時計に留まった。
昨日までは、なかったものだ。
腑に落ちた。
「彼女から、いくら寄付をもらったんです?」
僕が淡々と尋ねると、院長の顔色が変わり、たちまち激怒した。
「何を言い出すんだ!これはうちの病院の理事会の決定だ!今すぐ荷物をまとめて出ていけ!」
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