俺様社長とのハピエン後、愛は奈落へ第3話
この話は約2120字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
母は、智子の妊娠を祝って、智子の好物をテーブルいっぱいに並べた。
智子が鼻をつまんで「食欲がない」と言うと、啓太は、私の世話をしてくれている家政婦を智子のもとに行かせよう、と提案した。
智子は口の端を上げて笑い、私を指さした。「やっぱりやめておくわ。泉が嫌な顔をしているもの。私のせいで二人が気まずくなるなんて、嫌だから」
母はすぐに眉をつり上げて私を叱った。「あなたは妊娠してるわけじゃないんだから、自分のことくらい自分でやれるでしょ。昔から自己中心的なんだから。少し頼みごとをすると、すぐに泣き言ばっかり」
母が私を産んだのは、智子の病気を治すためのドナーを確保するためだった。母の目には、私は智子を治すための道具としか映っておらず、決して逆らってはいけない存在だった。
もう母と言い争う気力もなくて、私はお箸を置いた。少し一人になりたくて昔の自分の部屋へ向かうと、そこはただの物置部屋に変わっていた。
急に涙がこぼれてきて、乱暴にそれを拭った。
智子が部屋に入ってきた。「啓太に当たり散らしてるの?自分の立場をわきまえたらどう。私と彼の長年の絆に、あなたが入る隙なんてないのよ」その勝ち誇った口ぶりは、まるで本妻が愛人を叱りつけているかのようだった。
私は鼻で笑った。「それなら、どうして啓太と結婚しないの?」
智子の口元の笑みは、さらに深くなった。「手に入らないからこそ、価値があるの。啓太にはずっと私のことを想っていてほしいの。そうすれば、彼は永遠に私の味方でいてくれるでしょ」
私は何も言えず、ぼんやりと智子のお腹を見つめ、気づけばそっと手を触れていた。
智子はさらに勝ち誇ったように笑い、私の耳元で囁いた。「うらやましい?残念だけど、あなたはもう二度と子供を産めないわ。だって、あなたの子宮は、私のお腹の中にあるんだもの。
子宮がなくなると、大変らしいじゃない?一生ホルモン剤を飲み続けないといけないし、副作用もひどいんだって。私が啓太にそう言ったらね、彼、私がそんな辛い思いをするのは耐えられないって、すぐに助けてくれるって言ってくれたのよ。
だから、啓太はあなたと結婚して、うまく言いくるめてきたの。そうそう、私の体はもともと弱いから、いざという時のために、あなたを健康に育てておかないとって言ってたわ。私に感謝すべきよ。
あなたなんて、私のための『器』としての意味しかない。この世に、あなたを愛してくれる人なんて、誰もいないのよ」
私は爪が食い込むほど強く拳を握りしめ、平手打ちをしようと手を振り上げた。その瞬間、突然ドアが開けられた。
ドアの前に立っていたのは、激しく怒った顔の啓太だった。彼は駆け寄ってきて私の手首を強く掴むと、厳しい声で言った。「何をしている?自分の姉を殴るつもりか!」
私は皮肉たっぷりに笑った。「あら、心配なの?そんなに大事なら、いっそ智子と結婚して、お姫様みたいに家に飾っておけばいいじゃない?」
私が啓太にこれほど強い口調で話したのは初めてだった。彼は少し驚いた様子で、何かを言いかけたが――
智子が突然お腹を押さえて、苦しそうな顔で言った。「私のために喧嘩しないで。私が悪いの、泉を怒らせてしまったから。叩かれても仕方ないわ。家政婦はいらないから、お願い、もう叩かないで」
啓太の顔つきがみるみる険しくなり、私を睨みつけた。「泉、謝れ!」
両手を強く握りしめる。爪が食い込む痛みで、なんとか体の震えをこらえた。
「私に謝れって言うの!啓太、一体何が起こったか分かってるの?」
「もういい!」啓太は私の言葉を遮った。「泉、お前には心底がっかりしたよ。いつからそんな人間になってしまったんだ!智子はお前の姉だろう。いくら嫉妬しても、手をあげていいわけがない!」
そう言うと、啓太は私を一瞥もせず、智子を抱きかかえて部屋を出ていった。
啓太の肩に顔をうずめながら、智子が勝者のように、得意げに私を見て笑うのが見えた。
でも、もう智子のことで私が傷つくことはなかった。
啓太のことなど、もうこれっぽっちも気にかけない。
タクシーで家に帰り荷物をまとめていると、啓太から突然ラインが届いた。
【智子がひどく傷ついている。もう一度チャンスをやろう。今夜、自分から謝りに来い。俺自ら、人を差し向けるような真似はさせるなよ!】
有無を言わせないその口調は、私が許されざる罪を犯したと決めつけているようだった。
さらに、お詫びの品として、智子にプレゼントを買ってくるよう念を押された。
でも、啓太は知らない。私がとっくに荷物をまとめ終えていたことなど。
私はタクシーを拾い、まっすぐ空港へ向かった。
車の中で、私は啓太に最後のラインを送った。【ええ、わかったわ。とっておきのプレゼントを贈ってあげる】
このメッセージを送ると、私はスマホからSIMカードを抜き取って真っ二つに折り、車の窓から投げ捨てた。すべてを過去にするために。
翌朝早く、三浦グループの社長室に一通の速達が届いた。
啓太がその小包を開けると、中から一枚の紙がひらりと落ちた。
それにさっと目を通しただけで、啓太の顔色はみるみる変わった。震える手でスマホを掴み、ある番号へ電話をかける。
しかし、電話は繋がらなかった。
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